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『注意喚起』
・少々グロ注意
・オリジナル小説
作品に溺れすぎないよう。
楽しんでください。
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ふわふわと綿菓子のような雲が浮かんでいる昼下がりの教室。薺(なずな)と呼ばれる眼鏡の彼は、囲むように座る彼等だけでなく、教室内に残る生徒たちにも聞こえるほどの大きなため息を吐いた。
原因は、今朝担任教師から公表された夏休み終盤に実施される”修学旅行”についてらしい。
なんでも外国へ五泊六日という大掛かりな計画らしく、足りない分の予算は教師の給料から差し引かれたのではないかと教育委員会の中でも軽く問題視されているほどだった。
時冷は生徒会員の立場上(自身の都合上も)、学生生活の重大イベントとも呼べる長期休みを隣り合わせにするべきではないのではないかと教師側に講義してみるも、すでに計画付けられ、尚且つ集金やホテルなどの手筈は済んでいるので中止や延期にはできないと反対されたらしい。
正面に座る鍵屋(かぎや)と呼ばれる眠そうな彼が言う。
「それならもう仕方ないでいいんじゃない?」
面倒臭がりな鍵屋は大きな欠伸をすると同時に机に突っ伏し、そのまま寝息を立て始めてしまう。その頭を何度か時冷はチョップするも当の本人は起きることなくそのまま寝続け、やがてはクラスの皆が集まり『誰が鍵屋を早く起こせるか選手権』が始まってしまう次第。
笑顔が絶えないそんな日々。飽きることがない毎日。
そんな平和な日常も、もうすぐ訪れる春で終わりを告げる。
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人が賑わう都心。
大きな交差点には、人の脚々が緩急激しく行き来している。そんな人々を見下すように綺麗に陳列した圧迫感あるビル達は人間が取り付けた大きな音を鳴らすモニターを嫌味零さず、ただ静かに、蟻のように入っては出ていく粒たちを見ていた。
とある一角の人気ない古いレンガ通りに一つ、悴んだ指先へと白息が注がれる。
「はぁー寒、」
白色に濁る空気にパーカーのフードが小さく揺れる。
カコンカコンと、二枚歯下駄がやけに大きく響き渡る。
「今日はやけに冷え込むな…」
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夕暮れも沈みかけ、綺麗な藍色を描いた空が見え始める午後。
学校から自宅が近く帰りをともにする薺と喝目洟名(かつもくはなめ)と呼ばれる彼の二人。
外気が冷たいせいか、鼻を赤くしかじかんだ指先を温める洟名に薺は着ていたコートのポケットに入っていたカイロを渡す。
帰路である海岸沿いにはふたり並んで歩けるほどのスペースがなく、片方はコンクリートの壁に登り、片方は壁下にて歩くと相場は決まっていた。
しかしどうだろう、今日は他のどの日よりも比べ物にならないくらいに寒い。
無意識に薺の方を見た洟名は、相手も同じことを考えているのか視線が交差する。
次の瞬間。
「「じゃんけん!」」
カラン…___
静かな海岸沿いでふたりの耳に入ったのは海から聞こえてくる小さな波の音でもなく、通り過ぎる車の音でもなかった。
ただただ聞こえてくるのは小さな低い鼻歌と、聞いたことのない物の音。
「〜♪」
ふたりの視線が音のなる方へと自然に動く。
先程まで争っていた原因である壁上にひとつの影が彼らを覆った。
視線に気がついた男が言う。
「そこの若者たち!こんな所に長居したら風邪引くぞ!さぁ、帰ぇった帰ぇった!」
まるで親戚の子供を相手にするかのように言う男は、そのまま鼻歌を口ずさみながら遠く見えるコンクリートの壁に姿を消した。
そうこうしているうちに日も暮れ、先程まで藍色を描いていた空には夜の帷が降りてきていた。
薺が口を開く。
「やっば、、今日の飯当番俺だわ」
とだけいい、何もなかったかのように「すまん先帰る!」と手を振りながら背中を見せた。
確かにひとりなら争う相手もいなくていいが、これから暗くなる道をひとりで帰らなければならないと考えると流石に少し怖くなる洟名。
ましてや、海岸沿いは人通りも少なく車も走ることは滅多にない。
「…、よし」
勇気を振り絞り、一歩踏み出す洟名。
無事帰れるだろうか…__