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「元木、これ終わったら行って良いよ」

同じ長さに切り揃えたクヌギの原木にドリルで穴を開け、種菌を植え付ける『植菌』の作業を行っている最中、同期の金田にそう言われた。

「良いのか?ありがとう」

透子のウエディングドレスの試着画像を見て、俺は透子に無性に会いたくなった。

金田には、休憩中送られてきた透子の画像を見られていた。3ヶ月後に結婚する事は伝えてあり「今すぐ会いたくなった」と話したところ、早目に上がって顔を見て来いと言ってもらえたのだ。ありがたい。

今やっているのは、椎茸の育成。2年以上掛かる作業の一環だ。収穫する時にはもう俺達は居ない。何の問題もなく収穫出来るよう、気を引き締めて臨まねばならない。俺達は、急ぎながらも正確に丁寧に、作業を進めていった。

椎茸というと思い出す。幼稚園の頃、透子の家と俺の家とでバーベキューを行なった時の事だ。

俺は、初めてのバーベキューで、初めての椎茸を味わい、その美味さに感動して椎茸を食べまくった。

そんな様子を見て透子が「私も!」と言い出して、2人で競うように食べ始めたのだ。両家の親達も、まさか椎茸がこんなに人気者になるとは思っていなかったのだろう。用意した椎茸はあっという間に無くなり、最後の一つを争って、俺と透子は泣いた。

そんな時、和樹がその最後の一つを透子の皿に乗せた。

俺はショックを受けたが、和樹はすぐに、自分用に取ってあった椎茸を、俺の皿へと移してくれる。

「しょうがないからやるよ」

そう言って笑った顔を、今でも覚えている。

和樹は優しかった。いや、今でも優しいのだ。『身内』には。

透子との交際を和樹に伝える時、俺は非常に緊張した。殴られたら殴り返すかどうか、そんな事ばかり考えていたのだが、実際伝えてみたら、和樹はあっさりと引き退った。

「透子も好きなんだろ?ならしょうがない」

あの時と同じ顔で笑って、俺と透子が付き合うのを認めた。

「良いんですか?」

思わずそう聞いた俺に、和樹は言った。

「俺も透子が好きだ。他の奴なら許さないが、雅彦なら透子を大切にすると知っているから」

透子はありがとうと言って和樹に抱きついた。和樹は、切なそうに笑って透子の頭を撫でて、俺に向かって透子を押し出した。

和樹は、それから少しずつ変わっていく。内向的に、暗い表情ばかりを見せる様になった。

描く絵も変わった。透子の絵ばかりだったのが、自然の風景や鳥、特にカラスの絵を描く様になったのだ。

だがそれは、良い方向への変化だったらしく、和樹の絵の評価は鰻登りらしい。

あの出来事が、和樹にとっての大きな変動であったのには違いない。

あの時人を刺したナイフを、大事にしまっているとも聞いた。気掛かりでないとは言えない。

絵だけではなく、和樹自身にとっても、良い方向に向かってくれるといいのだが。


電車に乗り込む時、透子にLINEを送った。

『今から会いに行く』

だが、透子にしては珍しく既読が付かない。

・・・風呂かな。

俺は、先程送られてきた何枚かの画像を、もう一度開いて見た。ノースリーブのタイプがほとんどで、首、肩、鎖骨から胸元まで大胆に肌を見せたものが多い。

綺麗だ、とても良い。だが、これを他の奴も見るのかと思うと容認出来ない。中にはバックショットで背中がヒップの上ギリギリまで露出している物もある。

良い。だがダメだ。絶対にこれは許されない。

一枚一枚しっかりと、見れば見る程本物が恋しくなる。

早く会いたい。

LINEはまだ既読になっていなかった。

風呂だな。

ああ、早く会いたい。待っていてくれ、すぐに帰るよ。


透子、愛してる。



fin

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