「で、そっちはうまくいってるってわけね?」
久しぶりに会った元貴と最近あったことを話すと、のろけだな、と言いながら嬉しそうに聞いてくれた。さぐ
「うん···今日も夜、会いに行く予定」
「ほんとに先生と付き合えるなんて···お前すごいな」
「背中押してくれた元貴のおかげ···で、そっちは?」
コーラを飲む元貴の眉がぴく、と動く
。これはなにかあったな?と見ると少し恥ずかしそうに喋りだす。
「あー、まぁ···大学受かって、家庭教師っていう関係が終わったから···考えてもいい、らしくて···デートとかしてる」
「お、良かったね、いい感じで」
「ん、頑張るよ。また進展したら言う」
恋人として紹介してくれる日も近いかもしれない、良かったと思ってそのあともあれこれ久しぶりに色々話して解散して先生の家へと向かった。
「おじゃましまーす」
「いらっしゃい〜」
最近になって料理も少しはしなきゃ、と頑張っているらしい先生が黄色のエプロンをつけて出迎えてくれて俺はそれだけでいつだって幸せな気持ちになる。
「大森くんも元気だった?」
「うん、好きな人ともいい感じらしい」
「そっかぁ···良かったね」
先生はふにゃ、と笑ってから思い出したように何か取りに行って俺の目の前に置いた。
「鍵?」
「そう、うちの鍵。持ってて欲しい」
「いいの?めちゃくちゃ嬉しい···合鍵貰えるなんて。じゃあ俺からも」
俺も先生にプレゼントしようと思っていたものをカバンから取り出して渡すと 先生が小さな箱を開けた。
「これ···キーホルダー?」
「そう、鍵に付けてほしくて···俺とお揃い」
「お揃い嬉しい···鍵につけるね。若井くん可愛い、もしかして僕のこと大好き?」
わかり切ったことを聞きながら先生が俺の首に手を回して抱きついてくる。
その余裕そうな態度の報復に苦しくなるくらいキスをしてやる。
「ん、ふぅ···ぁ、ちょっと···」
「大好きってわからないみたいだから、わからせようかなって」
服の中に手を入れた俺を押し返すようにした先生を抑え込んでどんどんと服を脱がせていく。
「まって、ぁっ、だめだって···」
「ここは用意してくれてるのに?先生もしたかった?ほら、すぐ入りそう」
わざとそこをぐちゅぐちゅと音を立てながら解すと先生は顔を赤くして、いやいやと首を振る。
「先生も余裕がなくなって欲しい」
「余裕なんてないから···ぁっ、や、ぁぁ···」
先生の口から出るのが言葉じゃなくて気持ちよさそうな声だけになって、少し汗ばみながら俺にしがみついて必死になって求める姿を見つめながら、やっぱり余裕がないのは俺の方だと思う。
ずっと抱きしめて離れないでいたい。
先生を甘やかしながら、俺だけしかいないと言って求めてほしい。
そう思いながら頭が真っ白になるくらい求めて、余韻に浸る先生を腕枕しながらその横顔を眺める。
「···やっぱり俺、余裕ない···カッコ悪いけど」
「だから僕だってないんだって···なんで僕が鍵を渡したかわかる?」
先生は俺の目を見つめて少し寂しそうに笑う。困ってるような、戸惑ってるようなそんな表情にドキッとする。
先生はなにかまた辛い思いを隠していたんだろうか?
「鍵を渡したのはね、若井くんを束縛したいから」
「そくばく···?」
先生の口からそんな言葉が出るなんて思わなくて、思わずその言葉を繰り返す。
「きっと若井くんは自分の家の鍵と一緒に持ち歩いてくれる。毎日その鍵を見るたびに僕を思い出すでしょう?これから大学に行ったらね、今まで出会ったことがないような人にたくさん出会う···尊敬できる人、キラキラした同年代の子や、可愛い女の子にも。僕は年上で、男だしそんな人たちには敵わない···だから、鍵を渡すことで僕を忘れないように束縛しようとしてる」
「······」
「誰にも取られたくない、離したくない。けど若井くんはカッコいいし、優しくて···きっと色んな交友関係ができるよ。今からそんなことを考えて1人で苦しくなって早く君が来てくれるのを待って、帰したくなくてけどいい大人のフリをしている。料理だってそう、少しでも愛想尽かされないように、喜んで貰えるように···これでも余裕そうに見える?」
先生がこんな風に思ってたなんて俺は少しも思わなかった。ただ単純に手料理に喜んで、帰りたくないと漏らす俺にだめだよと宥める先生を離れたくないのは俺だけだと少し不満そうにしたこともあった。いつだって笑顔で俺を気遣ってひとつもワガママとかこうしたいとか言わない裏で先生は悲しい思いをしてたんだろうか。
「···ごめん、俺は先生を悲しませたくないのに全然気づかなくて···俺ばっかりって···」
「僕は若井くんが思ってるより嫉妬深くて、余裕なんてなくて、君のことが大好きで仕方ない」
ごめん、という気持ちが溢れて胸が痛くなる。それに気づかなかったこと、それにそんな風に思ってくれて嬉しいと思う自分がいることに。
俺が来るのを待っているのが。
俺が他の人に興味が向かないか心配そうにしていることが。
束縛したいと、いつだって思い出してほしいと思っていることが。
そしていじらしく俺を想ってくれていることが。
その全てが嬉しくて愛おしい。
腕の中の先生を引き寄せて抱きしめる。
「ごめん、けど嬉しいんだ···俺が大好きなのは先生しかいない。だから先生にも俺だけだって言って欲しいっておもってた。だから嫉妬して余裕がない姿も俺には見せて···先生が嫌って言っても俺は離れないから、もう先生がいない未来なんて考えられない」
「···なんでそんな風に想ってくれるの···嫌にならない?こんな僕なんか、若井くんに与えてあげられるものなんて限られてるのに」
先生の瞳に涙が溜まって溢れ、 その頬を濡らしていく。俺が先生から与えて貰いたいものなんか1つだけだ。それさえあれば何も要らない。
「先生は俺にいろんな形の愛をくれた···だからこれからも愛がほしい。先生からの愛があれば、俺はすごく幸せだよ」
「···っ、うん、僕も···」
ぐすぐす、と泣きながら先生はその濡れた頬を俺の胸に押し当ててきた。
服が濡れてひやり、とする。その涙の冷たさを知るのはこれから先、俺だけであって欲しいと願う。
「先生好き···可愛い、綺麗だ、泣き顔も···」
顔を覗き込んでキスをする。
大好きだってもっと伝わるように。
「先生のこと離すつもりはないから」
先生は俺に自分の存在が不要、と思えば俺の手を振り払ってでも離れるつもりだろう。自分の思いがどうであっても。だってそういう人だから。けど俺は離してやらない、何があっても。
「離さないで···ずっと一緒にいて」
2人共、気持ちは同じだった。
愛を確かめるために、より深く相手を感じるためにさっきより強く求め合い、俺は先生の体に自分のものだと印をつけ、先生は俺を受け入れてくれた。
そのまま2人、溶けるように眠っていたようで気付けば外は夜明けを迎えて少しずつカーテンの向こう側は明るくなっていた。
「ん···?あさ···」
「うん、おはよう」
まだぼんやりしている先生を見ながら昨日のことを思い出す。
素直な心のうちを見せてくれて俺を求めてくれて···それが夢じゃなかったと、先生の首や胸元についた印でわかる。
シャワーを浴びて2人で簡単な朝食を用意していると先生は俺の背中にぴたりとくっついてくる。
「可愛い···どしたの?」
「ん、昨日ごめん···色々言って···」
今更になって恥ずかしくなったのか、後悔しているのか振り向くことを許さないように後ろからお腹に手を回されて、その手に自分のを重ねる。
「ほんとの気持ちでしょ?俺は嬉しかったよ、大人なふりした先生も、素直に甘える先生もどれも好き。だから1人で我慢しないで、何でも言って」
頷いたのか首元に擦り寄せられた感覚でわかる。いつか元貴が言った先生は無理して抱え込んでそう、は当たりだったと思い知ったから、そうならないようにしようと心に決めた。
「さ、食べよ、お腹すいた!昨日あんなに動いたから···ねぇ?食べたらまたベッド行く?」
「ちょっとぉ···もう、若井くんってば···」
ふざけてそんなことを言うと恥ずかしそうに、けどどこか満更でもない先生を見て頬が緩む。
ねぇ先生、そんな幸せな日々をこれからもずっと過ごしていこう。
End.
コメント
13件
完結ありがとうございました!!!2人の距離がだんだんと縮んでいって、幸せになっていって、ほんと良かったです!
そりゃそうだよ。幸せの形って「こう」じゃないといけないって、固定観念で決められたくない!自由でいいよね。完結お疲れ様でした♪ゆっくり休んでくださ〜い。

完結ありがとうございます💕 2人の素直な気持ちが見れて幸せでした😭💕 素敵な2人に出会わせてくれてありがとうございました🥹