コメント
1件
はーとヨシっ!
「どうすりゃいいんだ・・・」
パン屋のオヤジは一人、絶望感に苛まれていた。
なんで俺ばっかり、いっつもこんなんばっかだよ!
ぐるぐると回る頭の中、愚痴や言い訳祭り開催中。
わっしょい、わっしょい、俺様わっしょい!
たこ焼きねぇ!
焼きそばねぇ!
残り時間もあと少し!
お金もねぇ!
やる気もねぇ!
頭の毛根あと少し!
ってやかましいわァァァ!!!
あたおかムーブも過ぎると、かえって冷静になる。
オヤジはふう、と一息つくと、こんなことになった原因を思い返してみた。
ホァンホァンホァン・・・回想始め
「パンを作れぇぇぇ!」
えらい人に頼まれた、いやこれはもはや命令だ。
このハラスメントに厳しい時代、そんなんありか?
あるんだわ、特に地方とか田舎とか、島根とか。
まあ、そんなこんなでパンを作ることになったが、そこはオヤジ、本職パン屋なのでよゆーよゆー。
なんなら、筋トレしながらでもできるわ!
腹筋ヨシッ!
強力粉ヨシッ!
スクワットヨシッ!
バターヨシッ!
おまえにヨシッ!
俺にヨシッ!
んー、ヨシッ!
筋トレってアレだ、やってるとほら、だんだん楽しくなってくる。オヤジもいつしかニッコリ、動きにもキレが出始めた。
セィ!セィ!
そしてオヤジの洗練されたキレのある動きは、徐々に伝説の現場猫のポーズに近づきつつあった。
タマゴヨシッ! ビシッ!
塩ヨシッ! ビシッ!
バットヨシッ! ビシッ!
オーブンヨシッ! ボキッ!
オヤジの指は折れた。
利き手の指を折ったオヤジは、あまりの痛みに床を転げ回り、釣り上げられた魚みたいに体を跳ね飛ばし回った。大人なのに声をあげて泣いた。
「島根はなんて恐ろしいとこなんだ!」
すべてを島根のせいにした。
ホァンホァンホァン・・・回想終わり
「ウッ・・・くそッ・・・島根ェ・・・」
オヤジは呪うようにつぶやいた。思い出したらまた悲しくなって涙が出た。鼻水も出た。
そんなオヤジをネコは見てた。
そして眉間にシワを寄せ、スッと立ち上がり、オヤジに近づき、肩に手を乗せて言った。
「話は大体わかった。私が手を貸そう」