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俺の両目から涙がぼろぼろと、とめどもなく流れ落ちた。その女神は俺の前にかがみ込み片手を俺の頭に乗せて言った。
「人の子よ。剣や霊力を振るって人ならざる魔物と戦うばかりが勇者ではない。短い間ではあったが、おまえはこの娘の生きざまから何かを学んだのではないのか?」
俺ははっとして女神の顔を見上げた。女神が続けて言う。
「人の子よ。心正しく、心清く生きんとし、そのような生き方を貫こうとする者にとっては、この人の世こそが地獄……汝はその地獄でこの娘と同じ生き方を貫く事ができるか? 言っておくが、それはけしてたやすい事ではない。むしろひとおもいに死んだ方がはるかに楽。そう思える程につらい一生であるぞ。……選ぶのは汝自身である。自由に好きな道を選ぶがよい。だがもし、汝がそのような生を貫き通して天寿を全うした時には、汝を勇者と認めニライカナイへ汝の魂を迎え入れよう。そしてその時の汝の魂の迎えには、汝のいとしい『をなり』であるあの娘を遣わそう」
そう言うとその女神と光の少女たちの一団は俺にくるりと背を向けて、海の彼方にある七色の光の島の方へ遠ざかり始めた。俺はそれを茫然とながめ、そして思わずその後を追って駆け出した。
「だめだ! やっぱり嫌だ! お願いだ! 美紅を返してくれ!」
するとその一団の光の中から光の球が一つ、俺の方に向かって飛んできた。それは俺に近づくにつれ美紅の形になった。光で出来た美紅の顔は笑っていた。あの普段の少しボーっとした美紅でもなく、神がかりになってユタとして戦う時の凛とした美紅でもなく、あの時お婆ちゃんの家の庭でカチャーシーを踊っていた時に見せた、あの無邪気でこぼれるような笑顔の美紅だった。
その光は俺の首筋に抱きついて俺の耳元にこうささやいた。
「ニーニ。ニライカナイで待ってるからね」
その声を聞きながら俺の視界はまた目を開けていられない強烈な光に包まれ、俺は意識が遠くなっていくのを感じていた。