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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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その日、慎太郎は母親に連れられて水泳教室の体験に来ていた。

習い事は他にも幾つかやっていたのであまり乗り気ではなかった。

自由時間に 慎太郎は1人で大人用プールにいた。

まだ泳ぐ事はできないが、負けず嫌いな性格なので見様見真似でクロールの練習をしてみた。

なんとか泳ぐ事ができたが、息つぎがわからず大量の水を飲みそのままプールに沈んでしまった。

「おいっ!大丈夫かっ!」

助けてくれたのは、たまたま泳ぎに来ていた高校生だった。

プールサイドに連れていかれると、

「お前泳げねーなら大人用じゃなくて、子供用に行けっ!」

「げほっ……ごめんな…さい…」

「あっ…いや…大きな声出して悪かったな…目の前で沈んだからびっくりしちまって…」

「水泳教室の子?」

慎太郎はゆっくり高校生の顔を見上げた。

金色の濡れた髪がとても綺麗だと思った…。

真っ直ぐ自分を見るその瞳に吸い込まれそうになる…

時間が止まっているかのように感じた。

慎太郎はじっとその人を見つめて答えた。

「…はい」

その人は、屈託のない笑顔をすると

「俺も水泳部なんだ。頑張れよ!」

そう言って去って行った。



「お母さん…俺、水泳教室通いたい…」

慎太郎はその日、初めて自分からお願い事をした。




ピンポーン

慎太郎の家のチャイムが鳴った。

玄関に出ると、隣の老夫婦だった。

「慎太郎くん。こんにちは。お父さんかお母さん居る?」

「いえ」

「そうか。忙しいんだね。せっかくだから慎太郎くんにだけでも挨拶しておこうかな」

「……?」

「晃、ちょっと…」

顔を出したのは、

「!!」

「お前、この間の?!」

「なんだ晃。慎太郎くんともう会ってるのか?」

「市民プールでちょっと…」

「慎太郎くん。孫の晃。今日から家で暮らす事になったからよろしくね」

「……」

「こんな身なりだけど、根は優しい子だから」

「じぃーちゃん。余計な事言わなくていいよ」

「お父さんとお母さんによろしく伝えてくれるかな」

「…はい」

玄関のドアを閉めた後、慎太郎は胸のドキドキが暫く止まらなかった。


翌朝、家を出た慎太郎は隣の家を覗く。

そこには、制服を着た湊がいた。

「よっ慎太郎!おはよう」

「おはよう…ございます…」

緊張気味に慎太郎は挨拶をした。

「今日もあっちーな。車に気を付けて学校行けよ」

慎太郎は黙って頷く。

「じゃな…」

そう言って湊は慎太郎とは逆の方へ歩いて行った。


慎太郎は湊の家の前を通る度に湊の姿を探すようになり、湊も慎太郎の姿を見かけると必ず声をかけてくれた。


「慎太郎。って長いな…シンって呼んでもいい?」

シンは頷く。

「シンの部屋ってどこ?」

「あそこ…」

「おっ!俺の部屋の真ん前じゃん。窓開けたら話できるな。笑 」

「……」

「晃!」

遠くから湊を呼ぶ声がする。

「シン悪ぃ。友達来たから行くな。じゃな…」

湊がいなくなると シンは走って部屋に行き窓を開ける。

湊の部屋が目の前に見える。

なんだか嬉しくなって暫く湊の部屋の窓を眺めていた。

シンは湊の部屋側の窓のカーテンを開けたままにしていた。


日が沈み、夜になっても湊の部屋の灯りはついていない。

(まだ…帰って来てない)

夕食を素早く済ませて部屋に戻ったシンは少し残念そうにため息をつく。

しばらくすると、

「…!! 」

向かいの部屋の灯りがついた、

シンは急いで窓をあける。

「ん?」

カーテンを閉めようと窓に近づいた湊はシンに気がつき窓を開ける。

「よっ!シン」

気がついてくれた事が嬉しくてさっきまで落ち込んでいた気持ちがどこかに消えた。

「湊さん…」

「本当に真ん前だな。笑」

「あのっ!…」

それ以上何を言っていいかわからかった。

「シン。水泳始めたんだって?」

シンは頷く。

「 水泳楽しい?」

また、頷く。

「そっか。一緒だな。俺も水泳好きなんだ。笑」

そんな他愛のない話を少しだけした。

たったそれだけの事…だったが、シンは嬉しくて嬉しくて仕方なかった。

その日以降、時折こうやって窓越しで湊とシンは話をするようになった。



それから、半年が過ぎた3月。

隣の家に引越し業者のトラックがとまった。

しかし、シンはその事を後になって聞かされた。


今日もシンは湊の家の前で湊を探していた。

(最近、湊さん見ないな…)

覗き込むように見ていると、

「慎太郎くん」

後ろから声をかけられた。

「家に何か用かしら?」

湊の祖母だった。

「…いえ…あの…湊……いや、お兄ちゃんは……」

「晃くん?」

「……はい…」

「晃くん、東京の大学に進学してね。今、東京で暮らしているのよ」

「えっ…?!」

シンは驚きを隠せなかった。

湊が居なくなったショックと、何も話してくれなかった事が悔しくて、何も言わずにその場を去ってしまった。

部屋に駆け上がるとベッドに伏せてシンは泣いた。

もう会えない…。

わかっていた。自分はまだ幼すぎる事くらい…あの人に近づくには時間がかかる事くらい…だけど…黙って居なくなられた事がシンには辛くて悲しくて仕方なかった。

早く大人になりたい…

あの人に近づきたい…

また…あの人に会いたい……

その夜、シンの頬に涙の跡が消える事はなかった…。


【あとがき】

前作のあとがきで、書きたい作品と言ったのはこれです。

無事に投稿できました。笑

第2話はこのあと投稿します。

1話(プロローグ)だけだと話がつまらないので…笑

ゆっくり書き上げたい作品です。

3話からは週に一度、土曜日に投稿予定。多分…

それでは、2話でお会いできますように…

月乃水萌




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コメント

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ユーザー
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感動の予感…涙拭く準備してます。。。

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