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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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結局、二人で、京平の車がある地下駐車場にエレベーターで下りることになった。


エレベーターの中で、京平は横目でこちらを見ながら、


「そもそも、お前、ほんとに運転できるのか?」

と疑わしげに訊いてくる。


「俺は、お前が社会人として、働いているということ自体、未だにピンと来てないんだが」


いや、それを言うなら、私もまだ、先生がこの会社に専務として居ることが理解できてないんですけどね、と思いながら、一緒にエレベーターを降りた。


「あれだ」

と京平は、役員が駐車する場所にとまっている大きな濃紺の国産車を指差す。


さすが専務様、デカイ車に乗っている。


でもまあ、家の車とは同じくらいのサイズだから、なんとかなるか、とのぞみは思っていたのだが、京平は、改めておのれの車を見て、なんともならない、と思ったようだった。


「やっぱり、俺が運転しよう」

と言い出す。


「目的地付近まで来たら、代わればいいじゃないか」


「そんなめんどくさいですよ、せん……専務。

乗り換えるところを見られても面倒ですし。


あ、そうだ。

乗り慣れない車での私の運転が心配なら、私の車で行ったらいいじゃないですか」

と提案してみた。


「お前の車はどれだ?」

と問われ、ちょうど斜め後ろにとまっていた車を指差す。


可愛らしいピンクのもこっとした車だ。


「……あれで行くくらいなら電車で行くぞ。

体面がどうとか言ってるのに、本末転倒だろう」


相変わらず、細かいことにうるさい男だ。


いつぞや、地学なのに、漢字にハネの部分がないと言って、三角にしやがったからな、と思いながら、

「はい、じゃあ、鍵開けてください。

遅れそうなので行きますよー」

と専務の車の運転席側に行き、言うと、


「……態度のデカイ秘書だな」

と言いながらも、京平はドアのボタンを押して、鍵を開けてくれた。




まだ新車の匂いがする車の運転席に、のぞみは乗り込んだ。


すると、助手席のドアが開き、京平が助手席に座る。


「……専務。

なんで、助手席に乗るんですか。


お偉い方は後ろでは?」


助手席は死にやすいからか、偉い人は、大抵、後部座席にどっかりと座っているのに。


肝心なときに役に立たなかった秘書検でも確かそう習ったと思いながら、のぞみは言ったが、京平は、


「後ろにどっかりとなんて座ってられるか。

お前の横に座るのは、なにかあったら、お前の手の上から、ハンドルを握り、お前の足の上から、ブレーキを踏むためだっ」

と言い返してくる。


その言葉に、のぞみは、なんとなく、あかずきんちゃんのオオカミを思い出していた。


『それは、お前の声を聞くためさ』


みたいな。


『おばあさんの目は、なんでそんなに大きいの?』


『それは、お前の姿をよく見るためさ』


『おばあさんの手は、なんでそんなに大きいの?』


『それは、お前をしっかり抱きしめるためさ』


『おばあさんの口は、なんでそんなに大きいの?』


『それは、お前を食べるためさーっ』


……食われる、とおのれの妄想に恐怖するのぞみの横で、京平も恐怖していた。


「お前の運転する車に乗るとか恐怖でしかない……」

と言い出す。


だが、まあ、ちょっとわかるかな、と思っていた。


「確かに、子どもの頃から知ってる人がなにかの技術を披露するところにはお世話になりたくないですよね」


最新の設備の整った車内の機器をぐるりと見て、確認しながら、のぞみは言う。


「友だちが結構いっぱい看護師さんになってるんですが、その病院には行きたくないというか」


違うところに針を刺しておいて、あー、やっちゃった、ごめんごめん、とか、いつものように笑って言ってきそうで怖い。


「医者とかもっとです」

とのぞみは言った。


「知り合いの前で脱ぎたくないとかだけじゃなくて

あの子、図工の時間、木でライオン作ってて、手が滑って、首切り落としてたな~とか、思い出すんで」


ますます青くなる京平にのぞみは言う。


「あ、大丈夫ですよ。

私、今まで事故どころか、車を擦ったこともないんで」


その言葉に、京平は、少しホッとしたようだった。


「まあ、運動神経鈍い奴の方が意外と運転上手かったりするもんな。

運動できる奴は、自分の身体と同じように車も動くと思って、ぶつけたりするから。


自転車乗れない奴でも大丈夫か」

と今、のぞみの運転する車に乗っているおのれを納得させるように呟く京平に、


「……車、私が漕いで動かしてるんじゃないんで」

とのぞみは言った。


エンジンをかけたのぞみに京平が言ってくる。


「ところで、お前、免許とって、どのくらいだ」


「二週間です。

自動車学校卒業まで、三ヶ月かかったんで。


会社に入って、初めて一人で十キロ以上走りました」


ひっ、と京平が息を呑んだようだった。


「バックしまーす」

とのぞみは、前面に表示されているバックビューモニターの映像を無視して、教習所で習った通り、助手席に手をかけ、後ろを見た。


「お前のその訳のわからない自信は何処から来るんだっ。

止めろっ、降ろせっ」


俺の車を返せーっ!

と京平は、わめいていた。


わたしと専務のナイショの話

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