扉の向こうに手を伸ばした瞬間、イルミの腕があなたの腰を掴んだ。細く、冷たい指先が、まるで鎖のようにあなたを縛る。
「逃げようとしたら……もう、“戻れなくなる”よ?」
低く囁く声に、あなたの背筋がぞくりと震える。
この言葉の意味を、あなたは知っていた。
過去に見たことがある。イルミの“手段”を。
「私……兄さんのこと、嫌いになったわけじゃない。けど、これはやりすぎ……!」
「じゃあ、“やりすぎ”にしなければいいんだよ。ボクが君の記憶を少しだけ……」
「やめて……っ!」
あなたは振り払おうとするが、イルミは動じなかった。
むしろ微笑むように言った。
「優しい嘘をつこうか? 君は、何も知らずに、何も苦しまずにここにいればいい。
そうすれば、キルアにもクロロにも、騙されずにすむ」
「クロロ……?」
あなたの目が一瞬、揺れた。
それを、イルミは見逃さなかった。
「……やっぱり、まだ繋がってるんだね。クロロと。幻影旅団の団長に、そんな顔を見せるなんて」
その瞬間、イルミの瞳にあきらかな嫉妬の色が差す。
その感情は、かつての兄妹の“愛”とはまったく別のものだった。
「……もういい、君を自由にはさせない」
イルミがポケットから一本の細い針を取り出した。
それは、記憶操作専用の“彼専用の針”。
「君の中にある、クロロの記憶も……キルアへの想いも、全部閉じ込めてあげる。
君はおれのもの。……最初から、ずっと、そうだったんだよ」
一方その頃──
「……遅いな、姉ちゃん」
薄暗い街中、キルアは屋根の上で夜風に吹かれながら呟いた。
いつもなら、あの優しい目で「ごめんね」と帰ってくるのに。
今日は、なぜか胸騒ぎが止まらない。
「もしかして、オレに……嘘、ついた?」
そのとき、キルアの背後に一つの“気配”が現れる。
「君の“大切な姉さん”、もう戻らないかもしれないよ?」
「……誰だ?」
風に揺れる黒髪、目元を覆うように垂れる前髪。
クロロ=ルシルフル。
「ちょっと話があるんだ、キルア=ゾルディック。君の姉さんは今、“イルミ”の檻の中にいる」
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