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睡蓮
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#異能力バトル
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水瀬葵
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まずは落ち着いて、状況を整理しよう。
オレは誘拐された妹を救うため、マリアンヌの待ち受ける礼拝堂へ向かった。
そこで奴の顕現、『最悪の奇跡』で開かれた異世界への入口、『窓』から落ちていった理紗を追って、オレは異世界へ向かうことになった。
マリアが言うには、これは最終試験……。『少数派』がどうしてそんなことをしようとしているのかは分からないが、オレという存在が組織に有用かどうか、異世界を使って試したいってのが狙いらしい。
何もかも奴の計画通りで癪だが、逆らえる状況じゃなかった。仕方なく俺は、最終試験ってのを受け入れることにした。
さて、ここまでが現実世界で起きた一連の出来事。
どれも急展開で、ほとんど飲み込めてはいないが……、どうやらその処理に脳のCPUを割いている余裕はないらしい。
と言うのも。『窓』を抜け、境界の青い空間を越え、異世界に放り出されたオレは、早速新しい急展開に直面しているからだ。
しかもそれは、超の付くレベルの大ピンチ。
「うおおおおぉおおぉおおぉおッッッッ!?」
白い光を追って飛び出した先は――――、高空。
異世界に放り出された、というのは比喩じゃねえんだよ! と、遺書代わりの自伝を書く猶予がこの空中で与えられようものなら、大の太文字で書いてやりたい。
オレは文字通り、上空高くに開いた『窓』からポイっと、命綱も落下傘もなく鳥のフンみたいに放り出されたのだ。
混乱の中、自由落下する身体をバタつかせて落下予測地点を探す。が、加速するGでブレる視界の中に映るのは一面の森のみ。
奥には平原みたいなのも広がっているが、当然ながら超特大の衝撃吸収クッションなんてものが敷き詰められているワケもなく。
「マッズ……ッ!!」
事態は急を要した。
パラグライダーやバンジージャンプの経験なんてないから、正しい減速のやり方なんてわからない。
っつーか、減速したとこでこれ死ぬだろ!?
「くそ、一か八か……ッ」
接近する地面への恐怖で冴えない頭を必死に働かせたオレの、限界の足掻き。
それは地面衝突まで残り数メートルって絶体絶命の瞬間に、落下にまつわる、あらゆる移動エネルギーを破壊の権能で破壊できるのかどうかを試すなんて大博打だった。
「――――――――ッ!!」
破壊は叶った。
全身の皮膚の上に、一瞬の白いヒビが入って砕けたと同時に、落下していた身体にかかっていた負荷が一瞬で軽くなった。
そして時間でも止まったみたいに視界は急停止して、
「うごがぎゃっ!?」
また落下が再開し、枝木にぶつかって下腹部にアッパーを食らった。
よくよく考えればそりゃあそうだった。空中で加速が止まったとは言えど、空中にいる事実は変わっていないのだから。
幸い、さっきの枝木がクッション代わりとなったらしく、生きて再び地面に張り付くことが叶った。
しばらく腹と背に広がる痛みに悶えていると、土の匂いと制服にくっついた泥の汚れを見て、だんだん安心感が勝りだし、空を向いて大の字になった。
「…………奇跡だ」
危うく、死んでいた。
オレの時間感覚をぶっ壊した時みたいに、落下速度も破壊できるんじゃないかって機転が利かなければ……、破壊が働かなければ……、今頃にはとんでもグロいことになっていただろう。
やっと心拍が落ち着いてきたところで、視界の左上に見慣れないものがこびり付いていることに気がついた。
緑色の横棒。首を振っても追従してくっつき続け、目をつぶっても真っ黒の中にポツンと伸びるそれは、ゲームの画面表示でよく見るHPゲージに酷似していた。
「っつーか、それだよな、これ……」
なんとなくだが、察しがついた。
マリアの創った異世界ってのは、簡単に言っちまえばゲームアニメラノベのあらゆるテンプレートを寄せ集めたファンタジーワールド。
オレはこれから、そんな世界にプレイヤー的な目線で参入していくことになる。このHPゲージがその象徴だ。
着地ミスで身体を痛めたせいか、ゲージが少しだけ削れている。ただのお飾りじゃないらしい。
こいつが削れきってゼロになったらどうなるかなんてのは……、想像に難くはない。
急展開ラッシュの影響で、既にオレはこの程度のことでは動じなくなっていた。こういう世界なんだ、とウヤムヤのまま納得して、受け入れる体勢に脳はシフトし始めていた。
「…………で、こっからどうしろと」
まだ強ばっている脚で膝立ちして周囲を見回すが、特に人工物らしいものは見つからない。
ってか、The森。草木が茂り、遠くから鳥類の鳴き声が聞こえるくらいには、The森。
RPGゲームとかなら、まずはこのあと「最初の町」に向かうのが普通の流れな気がするが……、チュートリアルもねえから目的地がどっち方向にあんのかすら分かんねえ。
こういう時はまず方角を知ろう、と知恵を働かせて太陽を探し始めた次の瞬間。一帯が巨大な日陰に包まれた。
「……おいおいおいおい、冗談だろ!?」
RPGゲームの冒頭あるあるを、もうひとつ思い出した。
まだ始まったばっかなのに、最初のダンジョンで最強クラスの魔物と出会っちまう負けイベント展開なんてものがあることを。
そいつを見てすぐ、オレは迷路みたいな森に飛び込んでいた。
馬鹿みたいにデカいアレが一体なんなのかなんて、きっと全国の5歳児に聞いても正答率は100%だろう。
ファンタジーの伝説に生きる魔物の王、ドラゴン。巨大な体躯と漆黒の鱗を携えた怪物が旋風と共に突如現れ、木の背より上を飛行してオレを追跡してきている。
「どこまで追ってくんだよコイツ!?」
オレは選ばれし勇者の末裔でも、最強のドラゴンスレイヤーでもない、普通の学生だ。そんなオレがあんな怪物を前にして出来ることなんて、ただ逃げ回ることだけだった。
草木を掻き分け、奥へ抜けていく。
ドラゴンの羽ばたきが遠くなったのを感じて、距離を測ろうと後ろを振り向いた、その時。
大急ぎで疾走する脚先が、何か硬いものに引っかかった。
それが地上に張られた木の根だったのか、それとも岩にぶつかったのか、今となってはもう分からない。
原因究明をする猶予すらなく、オレは思いっきり吹っ飛んで崖をゴロゴロと転がり落ちていた。
植物を押し倒しながら転落していく中で、強い摩擦と無数の石ころが身体に突き刺さり、声もあげられない痛みが襲う。
よくアクション映画なんかで、ありえないくらい長く階段を転げ落ちるスタントシーンを見ることがあるが、実際に同じ場面になると本当に止まれないものなのだと思い知らされた。
転落が止まった頃には、オレは少し開けた場所でボロボロになっていた。
視界の左上に目をやると、体力ゲージは既に半分近くまで減少して黄色になっている。
ああ、異世界はもう散々だ。ここまで最悪なことしか起きていない。こんな所からは今すぐにでも出ていきたい、と立ち上がって顔を上げると、そこには追加の最悪がもうひとつ立っていた。
「……もう驚かねえぞ、クソッ!」
全長3メートルはあろうかという肥沃な緑肌。粗悪に仕立てられた獣皮で肩や下半身を隠し、石の大槌を手にこちらを補足する大鬼と、その周りに群れる小鬼の小集団。
オレを獲物と判断したのか、次々と昂った奇声をあげて臨戦態勢に入る。
こんな奴らからどう逃げれば、と思考を巡らせていると、状況を更に悪化させる存在が魔物たちの頭上に現れてしまった。
恐ろしいことに黒い影は急降下し、大口をあけて大鬼にかぶりついた。
衝撃の地揺れと旋風で小鬼たちは散り散りにされ、森奥へ逃げていく。ドラゴンは大鬼に噛みつき、その骨ごと上半身を飲み込んだ。
ぎろり、と鱗に覆われた小さな目がこちらに向く。
「あくまで狙いはオレってことかよ……」
後ろは崖で退路なし、正面には漆黒のドラゴン。また森の中に逃げ込もうにも、この短距離じゃワンチャン追いつかれて終わり。命からがら逃げれてもまた視界不良の森をアテもなく走り回ることになる。
硬直する睨み合いの末、先に動いたのはドラゴンの方だった。
大きく息を吸い込むと同時に、ドラゴンの背ビレがオレンジ色にぼんやり光り始める。
何か、くる。
息を吸うなんて予備動作をしたドラゴンがやってきそうな脅威行動と言えば、やはりアレしかない。
高熱の息吹による放射攻撃。
「っ…………!」
それを察してオレが走り出すよりも先に、ドラゴンの口が勢いよく開かれる。まず感じたのは爆速の熱風だった。
放たれた、黒煙混じりの火球。
こんな窮地で頼れる唯一の力は、破壊しかない。
突き出した手のひらに、熱の塊が直撃する。
すると輝くヒビが火球に走り、直後に砕けた。
破壊だ。
破壊が、叶ったのだ。
だがそれで問題解決とはならなかった。
砕けた火球の中核に凝縮されていた火炎が爆散し、オレの身体は小爆発に飲まれて後ろに吹き飛んだ。
「がっ……!?」
足が浮くほどの吹き飛びで背中から崖に衝突し、肺が潰れんばかりの衝撃と圧迫が呼吸を打ち止める。
消えない痛みと熱を抱きながら地面を転がっていると、ドラゴンの背ビレが再び光りだした。
第二射が来る。今度こそ破壊を狙わず避けなければ……、あんな爆発を何度も受け止められるほどオレはタフじゃあない……!
熱風と共に、燃える顎が再び開かれる。
地面を蹴って走り出すが、ドラゴンとは思っていた以上に賢い生物だったらしく、オレの進行方向に向けて先回りするように火球を放ってきた。
急ブレーキをかけても止まりきれない。
落下した時と同じように慣性を壊して強制ストップを――――、と判断を切り替えた時にはもう、火炎はすぐそこまで接近していた。
「伏せてっ!」
その声は森から飛び出してきた人影からのものだった。
白い鎧を着た軽装の女戦士がオレと火球の間に立ち、鞘から抜いたロングソードを杖のように構え、指で撫でる。
「寵愛の女神よ、我に奇跡を引き起こす加護を与え給え! 望むは白の十六、『魔障壁』!」
剣を構えただけでほとんど無防備だったところに勢いよく火球が直撃したように見えたが、恐る恐る目を開いたところで、それが間違った認識だったことを知ることになる。
「……なんだよ、これ!」
驚くことに、爆発も火炎も女戦士の前で急停止して離散していたのだ。
いや、散ったというよりは、壁にぶつかって別方向に流れ出していったと言うべきか。辺りを囲む炎が、女戦士を中心に蓋をする半透明なドーム型の障壁の輪郭をなぞり、露わにさせていた。
オレ達を守ったこの透明な壁は恐らく、魔法。
現実の世界にはない、虚構の概念だ。
そうだ、オレは非現実にやってきたのだ。
これからオレの前に立ちはだかるのは、剣と魔法。魔物や怪物、これまでの常識では推し量ることのできない存在や概念の数々。
妹を救い出すためには、そういった不可思議なもんの雨嵐を正面から受け止めなくてはならない。
現実を取り戻す。
この窮地をすり抜けて、必ず理紗と家に帰るんだ。
コメント
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あら、お疲れ様です。愚痴を聞いてほしいときって、なんだか急に言葉が出てこなくなったりしますよね。もしよかったら、ゆっくりでいいので話してみてください。何かあったんですか?