『夏休み』
夢×灰谷竜胆
8月が始まった。
俺の学校は絶賛夏休み期間中。
夏休みと言っても特にやることは無い。
夏休み期間中は抗争も取引もない。
夏休み期間中はどこも人が多いから。
俺らが怪しいことや喧嘩をしてたら直ぐに人が集まるし、サツの目もいつもより厳しい。
家にいるのも暇だし、久し振りに外に出ようと思った。
久し振りに外に出たが、特に寄るところも無い
俺は一体何をしに来たんだろう。
そう思い、ふと前を見ると広がる海の中心にミディアムヘアの白いワンピースに麦わら帽子を被った俺と同い年くらいの少女がいた。
さっきまでいなかったのに、どこから出てきたのだろうか。
不思議と体が勝手に動き、少女の元へ進んだ。
少女の後ろまで来た時
『海、好き?』
その声は可愛らしくて、夏の雲のように透き通る声だった。
『……まぁ、普通かな』
なんて、曖昧な答えを返すと
『私も海好きなの!』
“も”って、、、俺は好きなんて言ってねぇのに
『ねぇ君、お名前は?』
急に名前を聞かれた。
答えようとしたが、再び口を閉じた。
俺が名前を言ったらこの子はどうなる?
俺の事が怖くなって逃げるか。
俺の事を嫌うのか。
周りに話すか、サツに話すか……。
さっき会っただけ、そのはずなのに俺は何故か
こいつにだけは嫌われたくなかった。
『言わない……』
そう答えた。
しばらく沈黙が続いた。
『私は夢っていうの!』
『ぇ……』
『可愛い名前でしょ!!!!』
『まぁ、うん……』
まさかこいつから名乗ってくるなんて、、、。
俺は名乗らないのに……。
俺も名乗った方がいいのか、なんて考えていると
『無理して名乗らなくていいよ。』
『私も自分の名前言うの嫌いだもん!!!』
『じゃあなんでお前は名乗ったんだよ、、、』
『……君になら名乗ってもいいかなって』
変な奴だなと思った。
いや、こいつは変な奴だ。絶対変な奴……。
でも、嫌いになれない。
『お前、どこのガッコーなの』
『どーせ君は知らないよ』
『言ってみろよ』
『……××女子学院』
『それって、東京じゃねぇの、、、?』
『そうだよ!』
『今は夏休みだからおばあちゃんの家に遊びに来てるの~!!!!』
『へぇ、、、。お前って賢いんだな』
『そんなことないよ、、、笑』
話しているうちに段々日が暮れてきた。
『もう帰らなきゃ、おばあちゃんが心配しちゃう……!!!!』
『そっか、またな』
『うん!またね!』
それから夏休みは毎日海に行った。
そして夢と毎日話した。
海には入れないって言うから、毎日話すだけ、、、。
8月14日
今日はあいつが来ない。
何時間待っても来ない。
偶然予定が入ったのかもしれない。
その日は諦めて帰った。
だけど、あいつはそれ以来俺の前に現れなくなった。
ピーンポーン___。
蝉の鳴き声に混じって響くチャイムの音。
前にあいつからお婆さんの家を教えて貰ってたから誘いに来た。
しばらくすると戸が空いてお婆さんらしき人が出てきた。
『ぁ、こんにちは……。』
『はい、どうされましたか?』
『夢はいますか?』
『最近いつもの場所に来なくて……』
お婆さんは目を見開いた。
そして俯き、声を震わせながら俺に言った。
『夢は、3年前の今日に亡くなりました…』
『ぇ……?』
それからお婆さんは俺に全てを話してくれた。
夢は××女子学院の学生だった。
夢の通っていた日本でもトップクラスの学校だった。
夢は頭が良かった。
特に国語は周りと圧倒的差をつけていた。
夢は本を読むのが昔から好きだった。
だから文章も、漢字も、単語の意味も全て理解するのが早かった。
夢は性格も顔もよく、よく他校の男子からモテていたそうだ。
そんな時、夢は他校の男子生徒に告白された。
だが夢は断った。
その人の彼女が友達だったから。
数日後、既に噂は広まっていた。
だが噂の内容は少し変えられていた。
夢が友達の彼氏と知っていながら男子生徒に告白をした。
そんな噂が広まっていた。
それからは苦しい日々が夢を襲った。
私物は無くなっていて
机の上には落書き
カバンもズタボロ
夢の大好きなキーホルダーは泥水の上に浮かんでいて
夢の自慢のロングヘアも一瞬でミディアムになった。
そんな時夢は倒れた。
精神科に行くとストレスが原因だと言われ、
気持ちを落ち着かせるためにもお婆さんの家に来たそうだ。
でも、気持ちが落ち着くことはなく
海を目の前にして夢は飛び降りた。
自分も大好きな本の中の主人公になったつもりで___。
××年後
あれから俺は上京した。
今は”梵天”という犯罪組織の幹部をしている。
『うわ、懐かし~笑』
ショートヘアの兄貴と並んで任務のために
数年ぶりに地元へ来た。
『ここの店潰れたんだ』
『え、あのおじさんの家どこだっけ』
『俺の秘密基地が家になってる、、、!!?』
そんなくだらない話をしながら海辺を歩いていると
チリン___
風鈴の音がなった。
途端に麦わら帽子を被った白いワンピースの少女とすれ違った。
思わずふりかえったがそこには誰もいない。
『竜胆~、今何時~?』
『……ぁ、今見る、、、』
スマホを出そうとポッケに手を入れると
『海で話してくれた男の子へ』
と可愛らしい文字で書かれた封筒
驚いて、中身を見ようと封筒を裏返した先には
『来年の夏も、再来年の夏も、ずっとずっとここで待ってるよ』
夢より___。
𝕖𝕟𝕕 𓂃 𓈒𓏸