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坂沼(サカヌマ)は長たるいあくびをした。
あくびをする暇があれば仕事をした方が良いのだろうけど、つまるところ。あくびをするくらい暇だという事であって、仕事をしない訳ではない…暇なのだ。
兎に角。
毎日のささやかな楽しみだった。隣人が住む茅葺きのボロ屋から、猫と婦人らしき人間が格闘する音も。年寄りネコが死んだことで閑散とし。廃屋から時折、茅葺き(カラブキ)が風に擦れる音しかしない退屈な景色に変わっていた。“隣の芝は青く視える“とはよく言ったものだけど、今は。とても、そんな風には感じられない。
「……暇だ」
どうも、最近仕事にハリを感じないのは気のせいだろうか。
最近の少し感触があった仕事でも、血統書付きの犬についていた黄金製の首輪が本物かどうかとか、意味もわからないものばかりだ。くだらん。はっきり言って、それなら鑑定士よか、質屋か、宝石店に持ち込んだ方が細密に結果がでるだろうに。
これじゃ鑑定士として名折れだ。もっとおどろおどろしい厄介な依頼が欲しくなってきた。
最近、張り合いが無さすぎるせいなのか。ついに、気づけば自分の周りにある壺や茶碗に価格や価値をつけている始末だ。…こんな事じゃダメだ。
わかってる。
記述が三点リーダーばかりになるのは、ありあまるページを埋めるためで、別段巧妙な仕掛けや壮大な伏線や含みがあるわけじゃない。
鑑定士が文章なんか書くべきじゃないな。
これだから最近の鑑定士は横着(オウチャク)で威厳がない、なんで言われるのかもしれない。
わかってる。
けして暇なんかじゃない、ただ悪あがきをしてるだけだ。鑑定士なんて所詮は慈善事業、ここいらが潮時なのかもしれない。
今、『オカルト専門誌』のライターをしているのだって、別段“確固たる意志“や目標に突き動かされてとか。そういうわけではなく、単にコミュニケーションを最小限に抑えられる職が他に見つからなかったからだ。
鑑定士なんて、所詮はそんなものだ。このご時世じゃ鑑定士人生を生きて、“生粋の鑑定士“のまま棺桶に入るなんてファンタジーなことは滅多に起こりはしない。
ライター繋がりでオカルト小説を書くことになったけれど、それもおそらく大した収入にはならないだろう。
「プロは完璧でなければならない、か」
まぁ、由緒ある鑑定士が誇りを失った事なんて、今に始まった事じゃないけどな。
TVに出演して出演料を握らされて帰るような鑑定士がごまんといる中、先祖代々の生家でこうして鑑定を続けていられている自分が、まだ比較的運がいいことくらい自覚しているつもりだ。ネットが普及したこのご時世だと、わざわざ腕利きの鑑定士に依頼する手間より円滑さを求めて、ネットに蔓延る『エセ鑑定士』に依頼する人間が多いから仕方ないか。
俺が、客の立場なら、まどろっこしい鑑定よりも安価で高い鑑定額を出してくれる方を選ぶだろう。
客は責められない。
「幽城とかいう“子ども”・・まだかなぁ」