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目覚めるとそこには白い壁があった。立ち上がって辺りを見渡す。不透明のプール。やけに眩しい光源。白い床。白い壁。
なんだここは?確か俺はついさっきまで…ダメだ、思い出せない。
「…ん?」
無機質な空間の中に、1人倒れている人物を見つけた。
あれは…伊吹?
近づいて顔を覗き込む。
「…伊吹。伊吹起きろ」
その音が遅れて空間中に響く。
「…ん〜?」
志摩が声をかけると、伊吹はすぐに起きた。
「…ここどこ?」
「分からん。俺も目を覚ましたらここにいた」
伊吹は大きくあくびをして周りをキョロキョロ見る。
「とりあえず出口を探すぞ」
「はぁい」
「…いま何時なんだ?」
「うーん?」
なぜかスマホも時計もないので時間が分からない。
「…あ、志摩。あれ」
そこにはたくさんの時計があった。
だが、それも別の時刻を指している。
どれが正しいかわからないので、役には立たなさそうだ。
「どれも違うねー。ね、ハク」
「ハク?」
「あ、間違えた。志摩」
「…?」
ずっとずっと同じ景色。でも、違和感がある。大きな違和感。
「ずっと同じような景色でつまんないねー」
ああ、コイツだ。
「お前誰だ?」
「え…やだなぁ冗談やめてよー」
「答えろ。お前は伊吹じゃない」
「…」
志摩が問い詰めると、伊吹?はにっこり笑った。
『あーあ。完璧だと思ったんだけどなぁ』
「…お前は誰だ」
『おー怖い怖い。そうだな、僕は伊吹ちゃんじゃない』
「お前が俺をここに連れてきたのか?」
『うーん半分正解』
「半分?」
『まぁまぁ。それはどうでも良いだろ?』
「…伊吹は?」
『伊吹ちゃんもここにいる。この世界のどこかにな』
「…?」
『志摩ちゃんも気づいてるだろ?ここが現実世界じゃないって』
「どこにいるんだ?」
『それは僕には分からない』
「僕には?」
『弟がいてね、弟のほうが伊吹ちゃんの方にいるんだ』
「俺の姿で?」
『ご明察。ま、すぐにバレたみたいだけど』
「…その姿やめてくれ気色悪い」
伊吹の姿で伊吹が絶対に言わないようなことを言っているので、気色が悪く感じてしまう。
『えーこの姿結構気に入ってたんだけどな』
伊吹?は体がどろりと溶け、中から羽が生えた少年?が現れた。
『ふー』
「……天使?」
『え?僕のことが天使のように可愛いって?いやー照れるな』
「そうは言っていない」
『んー…まぁ天使みたいなものだな』
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「…名前は?」
『名前なぁ…一応シロって呼ばれてるけど』
「シロ?」
『ほら、僕白いだろ?』
「単純だな」
『別にいーだろ』
その少年は羽でふわふわと移動していく。
志摩もそれについていく。
「出口は?」
『んーあっち』
シロが指差した方に進んでみる。
ずっと同じような景色なので、正しいかもわからない。
暗い。暗いのに眩しい。
なんなんだ?
「…ん?」
そこにはバラバラな時計があった。
これ、さっきも見たよな?
志摩はシロの方を見る。シロは笑って、
『こっちだったかも』
「…」
「そもそもここはどこなんだ?」
『うーんそれは答えちゃダメなルールなんだな』
「ルールがあるのか」
『うん。上司が厳しいから』
「上司もいるんだな」
『こんな可愛い子を働かせるって頭おかしいよな』
周りを見てみるが、右を見てもプール。左を見てもプール。
「プールばかりだな」
『上司の趣味だろうな』
「その上司がここを創ったのか?」
『そう』
「なんのために?」
『それはダメだな』
「チッ。引っかからなかったか」
『これでも長く働いてるんでね』
「…お前いくつだ?」
『企業秘密♡』
見た目は少年のような形だが、口ぶりからしてかなり長い年月を生きてきたのだろう。
そんなことを考えていたら、広い空間に出た。そこにはそこの見えない穴がいくつもあった。
『落ちてみるか?2度と戻ってこれなくなるが』
その穴も気になったが、他に気になるものがあった。
「…あれは」
『あぁ…あれは。なんて言うか…罪の意識?』
「罪の意識?」
そこには真っ黒の大きな像があった。
なんとも形容しがたい形をしている。
『志摩ちゃんって苦労してるんだな…』
「は?」
『触ってもいいぞ』
触れるとのことだったので、触ってみる。
ひんやりとしていてぐちゅりとした感触だ。
嫌な感じがする。
シロの方を見ると、遠くの方にいた。
「どうした?」
『僕、 これ苦手だから。早く行こうぜ』
急かされたので、その空間から出て、狭い通路を歩く。
『あれさぁ、僕たちは触ったらダメなんだよな』
「あれって、黒い像か?」
『そう。触ったら壊れる』
「壊れる?」
『死ぬみたいなもんだよ。人間の負のエネルギーはやばいからな』
「あぁ…」
なんとなくわかるのは、警察という職に就いているからだろう。
『でもあれ、人によって違うんだよな』
「?」
『志摩ちゃんはあんな感じだったけど、伊吹ちゃんの方はもっとあったかくて、色も薄かった』
「見たのか?」
『うん。下見って大事だろ?』
「下見って…」
『あ、ちょい待ち。上司から連絡』
シロはそう言って何かに向かって何かを打ち込んでいる。
透明なので、内容は分からない。
『チッ!!!!あんのクソ上司。無茶振りにも程があるだろうが…』
打ち終わったかと思ったら急に低音で文句を言い出した。
『あークッソ』
「…」
『…あーごめんごめん。クソ上司がちょっとな』
「どうかしたんだ?」
『あー…んー…志摩ちゃんさ、伊吹ちゃんに会いたいよな?』
「会えるなら」
『だよなぁ…上司から命令で2人を一緒にさせろってさ』
「へぇ」
『へぇって!すんげえ大変なんだからな?』
「そうなのか?」
『このただっ広い世界の中で、弟からの情報だけで探すんだぜ?クソゲーにも程があるわ』
「あぁ…」
確かに、さっきから結構歩いてきたが、特に変化のない景色が続いている。
そこから得られる情報は少ないだろう。
『とりあえず弟に連絡するか…返信来るまでその辺ぶらつこうぜ』
「仕事はちゃんとしろよ」
『少しぐらい良いだろ』
不透明のプールだらけの中に一つだけ透明なプールがあった。
気になり近づく。
「これ、触っても良いやつか?」
『あーうん』
触れてみる。すると、手に電流のようなものが流れ、すぐに引っ込めた。
シロの方を睨む。
『安全とは言ってない』
「お前な…」
『っしゃ!』
例の透明なプールの中を覗き込んでいた時に急に背後から大きい声がしたので、
その中に落ちそうになり慌てて後ろに下がる。
『おしおしおし。弟たち、もう二階にいるってさ』
「二階?二階があるのか」
『うん。全部で三階ある』
「へぇ…」
『とりあえず二階に向かうからついてこいよ?』
そこからしばらく歩いていると、ウォータースライダーが並んだ空間へ出た。
『あ、ここからは濡れるぞ』
「は?まじか…」
『濡れるの無理な人?』
「いやそう言うわけではないが…」
不透明の水に入るのは抵抗感がある。だからと言って透明の水なら良いってわけではないが。
先ほど騙されたばかりだ。大丈夫か?
『なら良いよな』
シロはそう言って目の前のウォータースライダーに乗り込み流れて行った。
…俺も行くしかないのか。
ウォータースライダーの水が服に染み込んで行くのが感じられた。
『この先だ』
ウォータースライダーの先は、広いプール。透明なのか微妙な色をしている。
シロはもうすでにプールから上がっていた。
シロが指差したのは、プールを上がった先にあるトンネルだった。
「お前、濡れないのか?」
『ん?あぁ。濡れてもすぐに乾くからな』
「羨ましい限りだな」
『でも、現実世界よりかは動きやすいだろ』
言われてみれば。現実なら、衣服が水を吸って重くなるはずだ。
でも、ここではそれがない。
トンネルを抜けるとそこには滑り台があった。
やけに明るい色をしている。
『ここから二階に行く』
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二階
「…ボールプール?」
『あーいつも思うけどこの滑り台長いんだよな』
二階に通じるらしい滑り台の先には大量のボールが入ったボールプールだった。
「お前の上司の趣味変わってるな」
『それは僕もそう思う』
「…安全だよな?ここ」
中が見えないので、安全か分からない。
『大丈夫。安全だ』
大量のボールに足を取られつつ、シロについていく。
「…ん?」
足元に違和感がして、見ようとするが、ボールのせいで見えない。
…掴まれている?
『…モテモテだな志摩ちゃんは』
シロが意味不明なことを言ったかと思ったら、志摩の足を掴む力が強くなる。
このまま引き摺り込まれるかと思いきゃその手はなくなっていた。本当になんなんだ?
足に掴まれた感触が残っている。
「…安全?」
『…てへっ』
『…弟たちはまだ先にいるみたいだな』
「…伊吹がじっと待っていられるとは思えないんだが」
『…流石だな。いまも進んでるよあいつら』
「…はぁ」
『弟は後で説教だな』
ボールプールを抜けたと思いきゃ、その空間はコンビニを連想させるような棚が並んでいた。
だが、棚の中は空っぽだ。
「…棚の意味あるのか?」
『僕に聞かないでくださーい』
「上司の趣味?」
『多分』
ふと物音がしたような気がしたので後ろを振り返る。
そこには何もない。
だが、物音はする。
『なんか聞こえる?』
「なんの音だ?」
『お化けだったりして』
「俺はそう言うのは信じない派だ」
『………わっ!!』
ビクッと肩を跳ねさせる。
『あっはははは。びくってなったな!』
「…」
イラついたので、シロを殴ろうとしたが、避けられた。
『ちょっ。ひどくなーい?こんな可愛い男の子を殴ろうとするなんて…』
「別にどうもしない」
『えー』
いつの間にか物音は聞こえなくなっていた。
『…志摩ちゃんは元の世界に戻りたい?』
「?当たり前だろ」
『ここならお腹もすかない。嫌なこともない』
「…それは」
『伊吹ちゃんとは会えなくなるが、それでも…』
「…」
『ここは天国みたいなところだからさ、楽しいぞ?』
急にこいつは何を言い出すんだ?
俺にここに残れと?
…なんだかシロの提案も悪くないような気がした。
なぜか伊吹の顔が浮かぶ。
「…………………俺にとっての地獄は伊吹が居ない事だ」
『…』
「だからお断りさせてもらう」
『……あーあ残念。勧誘失敗』
「勧誘だったのか」
『うん。ホラ僕たち忙しいからな。人手欲しいんだよ』
「大変なんだな」
『勧誘できる人間も限られてるしさ』
「へぇ」
『ちょうど伊吹ちゃんみたいな子はダメだね』
「?そうなんだな」
『ああ。ああいう奴は…こちら側に来てはいけない』
そう言うシロの表情はどこか寂しそうだった。
『なんか暗い話になったな。この話は忘れてくれ』
たくさんの棚を抜けると、今度は赤い壁が続いていた。
『うーーーーん?』
「どうした?」
『弟の情報からはこの辺にいるはずなんだけどな?』
何かを見ながら唸っているシロを横目に、上を見上げていた。
天井には、無数の光源がある。こんなに要るか?
「あ!志摩ちゃーーーーん!!!」
背後から懐かしい声がしたので振り向く。
「今度は本物だよね?」
「…ああ。お前も本物だよな?」
『兄さん。とりあえず会えてよかったです』
『ああ。お前は後で説教な』
『えっ?』
「ハクったらひどいんだよ。最初志摩のカッコしてさ…」
「ハクってのが弟の名前か?」
『あ、はい。ハクと言います』
『僕はシロ。伊吹ちゃんよろしくな』
「シロ?よろしく!」
『さてと合流できたし、そろそろ最終階に行くか』
『……そうですね』
「そこに出口があるのか?」
『…それはお前ら次第だな』
「オレら次第?」
『言ってみれば分かりますよ』
「ふーん?」
みんなで歩き出す。たくさんの足音がするはずなのに、するのは水の音だけだった。
声が遅れて聞こえる。
「…なぁ伊吹。ここに来る前のこと覚えてるか?」
「全然」
「だよな。俺も全く覚えていない」
「なんでオレたちここにいるんだろうね」
『それは貴方たちがきけーーーー』
『おい、それは言ったらダメなやつだろ』
『あ、そうでした』
「えーーーっ!一番気になるところで止めないでよー」
きけ?俺たちが「きけ」だからここにいる?どう言うことだ?
「おおっ。また不思議なとこだねー」
『はい。あの窓一つ一つに住民がいるんですよ』
「へぇ!そうなんだー」
長い通路から抜けたと思ったらそこには窓らしきものがたくさんあるマンションらしきものが
向こう側にある。窓の中は暗くて何も見えなかった。向こう側に行くことはできないようだ。
「…ん?あそこだけ電気がついているな」
無数の窓の中、一つだけ赤い明かりがついている部屋があった。
なぜか視線を感じる。
「誰かいるのかな?おーい。こんにちわー!」
「やめとけ」
「…!消えた」
伊吹が呼びかけた瞬間明かりは消えた。
だが、視線は感じるままだ。
『そういえば、伊吹さんはどうして僕のことがすぐに分かったんですか?』
『ああ。僕もすぐにバレたな』
「あー」
「ふっふっふっふ。それは…相棒だからだよ!」
「いつも見慣れてるからだな」
「愛だね!」
「いつも見慣れてるからだな」
『…何と無く分かった気がします』
『これは真似できないな』
皆笑う。
「…?」
バッと、伊吹は勢い良く振り返る。
俺も振り返ってみるが、そこは何もなかった。
「…」
「どうした?」
「…っな」
「…おい?」
「…なんでもない」
「…?」
『後少しだ』
『結構グロいので、気をつけてくださいね』
「へ?」
「グロい…」
_______________________________
三階(最終階)
「おぉ…」
「ワーオ」
三階、最終層には今までと一風変わり、肉塊のようなものが壁や床になっている。
ぐちゅぐちゅしていて気持ち悪い。
『ね。グロいでしょう』
「なんでここだけこんなグロいの?」
『中心に近いからだな』
「中心?」
『あそこです』
ハクがそう言って指差した先には、
ドクンドクンと動く心臓があった。
「…心臓」
「動いてるね」
『あれが中心だ』
『そろそろお別れの時間ですね』
「え?もう会えないの?」
『それは分かりません』
『でも、もう会うことのない方が良いな』
心臓の中には大きな穴が空いている。
「…まさか。この穴に飛び込めと?」
『正解だ』
「…マジか」
『別に無理には言わない。ここに残りたいのなら…残れば良い』
「「…」」
穴の中を覗き込んでみるが、底は見えない。
『もし行くのなら急いだ方が良いですよ』
「え?」
『こうしてる間にも穴は小さくなっていきます』
…飛び降りるか、ここに残るか…
「…志摩」
「…お前にとっての地獄は?」
「志摩がいないこと」
「…」
伊吹に手を掴まれる。
残れば、楽な生活ができる。飛び降りたらいつもの生活。
…俺はどうしたい?
伊吹の顔を見る。伊吹は笑顔でこちらを向くだけだった。
志摩は大きくため息をつく。
「…伊吹、行くか」
「うん!」
伊吹と志摩は顔を見合わせる。
伊吹は志摩の手を引く。志摩もそれに応え、
飛び降りる。
『もう2度とこっちに来るなよ』
『頑張ってくださいね』
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柔らかい日差しを感じ、ゆっくり目を開ける。
「志摩さん!良かった…」
そこには九重がいた。
事情を聞くと、どうやら志摩と伊吹は犯人の逮捕の際に銃で撃たれ、
血がたくさん流れたので、目を覚ますかわからない状況だったようだ。
「伊吹は?」
「伊吹さんも先程目を覚ましたようですよ。陣馬さんについてもらっています」
「…そうか」
あの長い長い夢は…なんだったのだろうか。