テラーノベル
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リビングには、重たい沈黙が残っていた。
すちは俯いたまま、膝の上で手を握っている。
らんは父親を見ていた。
らん「……だからこそ、大人が気づいてあげるべきなんじゃないですか」
父親はしばらく黙っていた。
そして、すちを見る。
父「お前はどうしたい」
すちは顔を上げる。
すち「……」
父「言ってみろ」
すちは迷った。
けれど、五人がいる。
みんなが待っている。
だから。
「休みたいです」
すちが小さくそう言った。
父親は、すちを見た。
父「……休む?」
すちの肩がびくっと揺れる。
父「何甘えたこと言ってんだ」
すち「……すみません」
父「誰の稼ぎで生活できてると思ってるんだ!」
すちは俯いた。
父「具合が悪いから何もしません、なんて通ると思うな」
すち「……はい」
その瞬間。
らんが立ち上がった。
らん「……もう無理」
父親がらんを見る。
父「何だ、お前は」
らん「もう、無理です」
父「他人の家庭に口を出すな」
らん「他人だからって、何も言っちゃいけないんですか?」
父「すちは俺の息子だ」
らん「だから何ですか?」
らんの声が震えている。
怒っているのが、誰の目にも分かった。
らん「息子だったら、何を言ってもいいんですか?」
父「お前に何が分かる」
らん「分かりませんよ!」
らんは言い返す。
らん「でも、少なくとも今のすちが普通じゃないことくらい分かります!」
父「家庭のことに口を出すな!」
らん「じゃあ聞きますけど!」
らんが一歩前に出る。
らん「昨日からちゃんと食べてないすちに、水持ってこい、飯を作れ、洗濯しろ、風呂を準備しろって言って」
らん「今日も学校を休むくらい具合が悪いのに、休むなって言って」
らん「それで『家庭のことだから』って、俺たちが黙って見てろっていうんですか?」
父「すちにはすちの役割がある」
らん「役割?」
らんの声が低くなる。
らん「それ、すちが自分で決めたんですか?」
父親は答えない。
らん「違いますよね」
父「……お前には関係ない」
らん「あります」
即答だった。
らん「友達だから」
すちが顔を上げる。
らん「俺たちは、すちの友達だから」
その横で、いるまがスマホを握りしめていた。
しばらく黙っていたいるまが、静かに口を開く。
いるま「……もう呼んだ」
なつ「いるま……?」
いるま「警察」
すちが目を見開く。
すち「……え?」
いるま「このままじゃ無理だろ」
父親の表情が変わる。
父「余計なことを……」
いるま「余計じゃねぇよ」
いるまは父親を見る。
いるま「俺らだけでどうにかできる話じゃねぇ」
らんはまだ父親と向き合っていた。
父「お前たちは何も知らないだろう」
らん「じゃあ教えてくださいよ」
父「……」
らん「なんで、すちがこんなに『はい』しか言えないのか」
父親は黙ったままだった。
らん「なんで、具合悪いのに休みたいって言うことすら怖がってるのか」
らん「なんで、自分が嫌だと思ってるのかすら分からなくなってるのか」
すちが小さく呟く。
すち「……らんらん、もういいよ」
らん「よくない」
すち「でも……」
らん「よくないよ、すち」
そのとき。
玄関の方から声が聞こえた。
警察が到着した。
警察官が部屋に入り、状況を確認する。
警察官「まず、皆さん落ち着いてください」
らんはまだ父親を見ている。
警察官「あなたも、一度こちらへ」
らん「でも……」
警察官「話は聞きます。だから、今は少し落ち着きましょう」
らんは悔しそうに口を閉じた。
らん「……はい」
警察官は全員から順番に話を聞いていく。
すちには、今まで家でどんなことがあったのか。
今日、何を言われたのか。
みこと、こさめ、なつには、何を見たのか。
いるまには、なぜ通報したのか。
父親にも、すちとの生活について話を聞く。
それぞれ別々に話を聞かれる中。
すちは何度も同じ言葉を繰り返していた。
すち「……今まで、こういうものだと思ってました」
警察官は静かに頷く。
警察官「そう思っていたんですね」
すち「……はい」
少し離れた場所では、らんが警察官に話していた。
らん「すちがずっと『はい』って言ってるのも見てて」
らん「具合悪いのに動かされてるのも見てて……」
らんは一度言葉を止める。
らん「……俺、見てられなかったんです」
いるまも自分の話をする。
いるま「らんがずっとあいつと口論してたんです」
いるま「でも、俺らだけじゃどうにもならねぇと思ったから通報しました」
なつも、こさめも、みことも、それぞれ見たことを話した。
しばらくして。
玄関が開いた。
帰ってきた母親が、警察官と友達がいることに驚いて立ち止まる。
母「……すち?」
すちが母親を見る。
すち「……お母さん」
母親はすちの顔を見る。
そして、少し青ざめた。
母「……どうしたの、その顔」
すちは答えられない。
母親はゆっくりすちのところまで歩いてくる。
母「……ごめんね」
すちが顔を上げる。
母「お母さん、気づいてあげられなくてごめんね」
すち「……」
母「ずっと一緒にいたのに」
母親の目に涙が浮かぶ。
母「すちが、こんなに我慢してたの……気づかなかった」
すちは何も言わない。
ただ、母親を見ていた。
母「ごめんね……」
すちはしばらく黙っていた。
そして、小さく。
すち「……うん」
それだけ言った。
その夜。
すちは母親と一緒に、家を離れることになった。
しばらくの間。
父親とは別に暮らすことになった。
母親と二人だけの静かな部屋。
すちは布団の上に座っていた。
母親が隣に座る。
母「……今日は、もう何もしなくていいからね」
すちは少しだけ戸惑う。
すち「……何もしなくて、いいの?」
母「うん」
すちは黙って頷いた。
今までなら、すぐに「はい」と答えていた。
でも今日は。
少しだけ考えてから、頷いた。
コメント
1件
あーもう、この話は刺さりすぎてやばかった……。 すちが「休みたいです」って言うまでが本当に長くて、それなのに父親に「甘えたこと言ってんだ」って一蹴されるところ、見てて胸が潰れそうだった。でもそこでらんが「友達だから」って立ち上がって、いるまが警察呼ぶ判断したのも、子どもだけで抱え込まない選択としてめちゃくちゃ正解だと思う。 最後に母親が「気づいてあげられなくてごめんね」って言ってくれて、すちが少しだけ考えてから頷いたシーン、本当によかった。あの「はい」じゃない頷きが、すちの変化を感じさせてくれたわ。 碧さんの描く閉塞感と、そこに差す小さな光の描写、毎回好きだわ。続きも気になる🔥
なぎ
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ゆき
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