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中学一年生。モテる。
スタイルがよく、運動神経抜群!
でも勉強が大の苦手。
颯のことが好き。
中学一年生。不器用。女子嫌いと有名。
イケメンで、モテている。
運動と勉強どっちも得意。
帆乃夏のことが好き。
中学一年生。颯と仲がいい。
帆乃夏と仲が良いが、颯のことが好き。
颯の恋の相談相手。
頭がいいが、運動は苦手。
中学一年生。帆乃夏と仲がいい。
帆乃夏の幼馴染的存在で昔から好き。
勉強は苦手だが、運動は得意。
フレンドリーで、みんなと仲がいい。
昼休み。 グラウンドの端にある小さな芝生スペース。 帆乃夏と颯は、サッカーボールを蹴り合っていた。
「颯、パス下手すぎ!」
「ほのが受け取るの下手なんだろ」
「言い訳すんな〜!」
帆乃夏は笑いながら、ボールを追いかける。
ふたりだけのミニゲーム。 周りのクラスメイトは教室でお弁当を広げていて、グラウンドはほぼ貸し切り。
颯は、帆乃夏の動きを見ながら、少しだけ笑う。
「…ほのって、運動神経いいのに、ボールだけは苦手だよな」
「それ、褒めてる?けなしてる?」
「どっちも」
ふたりの笑い声が、風に混ざって広がる。
そのとき、ぽつりと雨が降り始めた。 空は曇っていたけど、急に本降りになっていく。
帆乃夏が空を見上げる。
「うわ、降ってきたね。どうする?」
颯は、ボールを足元で止めて言った。
「…続けよう。濡れても、どうせすぐ乾くし」
帆乃夏は、少しだけ驚いた顔をして、でもすぐに笑った。
「じゃあ、負けた方がジュース奢りね!」
雨の中、ふたりは走る。 ボールを追いかけて、笑って、転んで、また立ち上がる。
帆乃夏の髪が濡れて、頬に張りつく。 颯は、その顔を見て、ふと立ち止まる。
「…ほの、楽しい?」
「うん。…めっちゃ楽しい」
「俺も」
颯は、少しだけ照れたように言った。
雨粒がふたりの間に落ちて、でもその距離は、もう気にならなかった。
帆乃夏は、ボールを拾って颯に渡す。
「…颯って、時々すごく優しいよね」
「時々じゃなくて、いつもだよ」
「それは…ちょっと嘘っぽい」
「じゃあ、信じさせる」
颯は、そう言ってボールを蹴り出す。
帆乃夏は、笑いながら追いかけた。 雨の中、ふたりの笑顔だけが、晴れていた。
昼休みが終わる頃。 雨は小降りになっていたけど、帆乃夏と颯はまだグラウンドの隅にいた。
制服は濡れて、髪も肌も冷えていたけど、ふたりの笑顔は熱を持っていた。
帆乃夏が、息を整えながら言う。
「…やば、めっちゃ濡れた。怒られるかも」
颯は、少しだけ笑って言った。
「でも、楽しかったろ?」
「うん。…めっちゃ楽しかった」
帆乃夏は、濡れた前髪をかき上げながら、颯の顔を見る。
「颯って、こういうとき、なんか無敵だよね。雨とか気にしないし」
「ほのが笑ってるなら、それでいいって思っただけ」
帆乃夏は、言葉に詰まりながら、でも目をそらさなかった。
「…それ、ずるい」
「なんで?」
「そういうこと言うと、ちょっとドキッとするじゃん」
颯は、少しだけ照れたように笑う。
「じゃあ、言わないほうがよかった?」
「ううん。…言ってくれてよかった」
帆乃夏は、そっと言った。
ふたりは、校舎に戻る途中、昇降口の前で立ち止まる。 制服の裾から水が滴っていて、廊下の光が反射していた。
帆乃夏が、ポケットからハンカチを出して、颯の腕に差し出す。
「これ、使って。…私のだけど」
颯は、受け取りながら言う。
「…ありがと。ほのって、時々すごく優しい」
「時々じゃなくて、いつもだよ」
帆乃夏は、笑いながら返す。
その笑顔に、颯は少しだけ目を奪われる。 “雨の中で笑ってたほの”が、まだ目の奥に残っていた。
教室に戻ると、唯がすぐに気づいた。
「え、ふたりともびしょ濡れじゃん!何してたの?」
帆乃夏は、笑いながら言う。
「サッカー。雨の中でも、なんか止まんなくて」
唯は、帆乃夏の顔を見て、ふっと笑う。
「…その顔、颯といるときしかしないね」
帆乃夏は、言葉に詰まる。 でも、否定はしなかった。
月曜の放課後。 教室の窓から見える空は、まだ少し曇っていた。 帆乃夏は、ノートを閉じながら、ふと窓の外を見つめる。
雨の中で颯とサッカーをした記憶が、まだ身体に残っていた。 濡れた髪、笑い声、息の音。 全部が、なんだか心地よかった。
唯が隣の席で声をかける。
「ほの、今日ちょっとぼーっとしてない?」
「え、そうかな?」
帆乃夏は、笑いながら答える。
唯は、少しだけいたずらっぽく言う。
「昨日の雨サッカーのせい?…颯と、楽しそうだったもんね」
帆乃夏は、言葉に詰まりながらも、否定しなかった。
「うん。…なんか、楽しかった。すごく」
唯は、帆乃夏の顔を見て、ふっと笑う。
「その顔、颯といるときしかしないね」
帆乃夏は、窓の外を見ながら、ぽつりと漏らす。
「颯といると、雨も楽しいんだね。…不思議」
その言葉に、唯は静かに頷いた。
「それって、けっこう大事なことだと思うよ」
その夜、帆乃夏はスマホを開いて、颯の名前を見つめる。 メッセージを送ろうか迷って、でも指は動かなかった。
“また、サッカーしよう”
その一言が、なんだか重く感じた。
でも、心の中では、もう決まっていた。
“颯といる時間が、好きかもしれない”
雨は止んでも、心の中にはまだ、あの午後の温度が残っていた。
放課後の図書室。 静かな空気の中、颯は参考書を閉じて、隣に座る唯にぽつりと漏らした。
「…俺さ、帆乃夏のこと、好きなんだと思う」
唯は、ページをめくる手を止める。
「…思う、じゃなくて、好きなんでしょ?」
颯は、少しだけ目を伏せる。
「でも、言えない。…朝陽がいるし、ほのって、誰にでも優しいから」
唯は、静かに頷いた。
「うん。…でも、颯が見てるときの帆乃夏って、ちょっと違うよ」
「違う?」
「うん。…笑い方とか、目の動きとか。颯のこと、ちゃんと見てる」
颯は、言葉に詰まりながらも、ぽつりと漏らす。
「…雨の日、サッカーした。ほの、ずっと笑ってた。俺、あんな顔、初めて見た」
唯は、少しだけ微笑む。
「それ、ほのが颯といるときの顔なんだよ」
沈黙が落ちる。 図書室の窓から、夕陽が差し込んでいた。
唯は、ページを閉じて言う。
「…好きなら、ちゃんと伝えたほうがいいよ。誰かに取られる前に」
颯は、唯の顔を見る。 その目は、少しだけ揺れていた。
「…唯って、強いな」
「違うよ。…好きな人に“好きな人がいる”って言われるの、けっこう痛い」
颯は、言葉を失う。 唯は、笑ってみせる。
「でも、颯が幸せになるなら、それでいいって思えるくらいには、好きなんだよ」
その言葉が、図書室の静けさに溶けていった。
颯は、唯の手元を見ながら、そっと言った。
「…ありがとな。唯」
唯は、ページをめくりながら答える。
「うん。…でも、次は“ありがと”じゃなくて、“好き”って言ってあげてね」
火曜日の昼休み。帆乃夏は、教室の窓際でお弁当を広げていた。
唯と話しながら笑っていたけれど、ふと視線を感じて、顔を上げる。
颯が、数列のプリントを見ながら、ちらりとこちらを見ていた。目が合った瞬間、帆乃夏は少しだけ胸が跳ねた。
“また、見てた”
“なんでだろ。…最近、よく目が合う”
唯が気づいて、にやっと笑う。
「ほの、今、ちょっと顔赤かったよ」
「え、うそ。…暑いだけじゃない?」
帆乃夏は、笑ってごまかす。
でも、心の中では違う理由が浮かんでいた。
“颯の目って、なんかまっすぐで、逃げられない”
午後の授業中。先生が黒板に書いた問題を解いているとき、帆乃夏はまた視線を感じた。
横目で見ると、颯がこちらを見ていた。目が合うと、すぐに視線をそらされたけど、その一瞬が、なぜか残った。
“見られてる”
“でも、嫌じゃない。…むしろ、ちょっと嬉しい”
放課後、昇降口で靴を履いていると、颯が隣に立った。
「…今日、暑かったな」
「うん。…でも、なんか、涼しい気もした」
帆乃夏は、颯の顔を見ながら言った。
颯は、少しだけ笑って言った。
「ほのが笑ってると、空気変わるからな」
その言葉に、帆乃夏の心が静かに揺れた。
“颯って、時々ずるい。…でも、嫌いじゃない”
その夜、帆乃夏はスマホを見ながら、颯の名前をタップしかけて、やめた。
“なんで、こんなに気になるんだろう”
目が合うたび、心が揺れる。
それは、もう“気のせい”じゃなかった。
水曜日の放課後。帆乃夏は、体育館裏のベンチに座っていた。部活の集合にはまだ時間があって、風が少し冷たい。
そこに、颯がゆっくりと近づいてきた。手には、何か小さな袋を持っている。
「…ここ、いたんだ」
颯は、目を合わせずに言う。
「うん。ちょっと早く来すぎたかも」
帆乃夏は、笑って答える。
颯は、隣に座るけど、少し距離を空ける。その距離が、彼らしい。
「…これ」
颯は、袋を差し出す。中には、帆乃夏が前に好きだと言っていた飴が入っていた。
帆乃夏は、驚いた顔をして、袋を受け取る。
「え、これ…覚えてたの?」
「…たまたま見つけただけ」
颯は、目をそらしながら言う。でも、耳が少し赤い。
帆乃夏は、笑いながら言う。
「颯って、ほんと不器用だよね。…でも、優しい」
「…不器用なの、知ってる」
颯は、ぽつりと漏らす。
「でも、ほのが笑ってると、なんか…それだけでいいって思う」
その言葉に、帆乃夏の胸が静かに揺れた。
「颯って、好きって言わないけど、好きって言ってるよね」
帆乃夏は、そっと言う。
颯は、何も言わずに、帆乃夏の顔を見た。その目が、全部を語っていた。
帆乃夏は、目をそらさずに言った。
「…私も、たぶん、そう」
風が吹いて、ふたりの髪が揺れた。言葉はなかったけど、気持ちはそこにあった。
そして、颯はほんの少しだけ距離を詰めた。それだけで、帆乃夏の心は、静かに跳ねた。
木曜日の昼休み。 朝陽は、教室の窓際で帆乃夏と話していた。 いつものように軽い冗談を交えながら、笑い合う。
「ほの、昨日の体育、めっちゃ走ってたな。…颯と競ってた?」
「うん。なんか、負けたくなくて」
その言葉に、朝陽は少しだけ笑顔を崩す。 “颯と競ってた”——その響きが、胸に引っかかる。
「…最近、颯と仲いいよな」
朝陽は、さらっと言う。
帆乃夏は、少しだけ照れたように笑う。
「うん。…なんか、話しやすくなったかも」
その笑顔が、朝陽の胸をざわつかせる。
“俺といるときの笑顔と、ちょっと違う”
放課後、昇降口で颯と帆乃夏が並んで歩いているのを見かける。
ふたりは、言葉少なに、でも自然に並んでいた。
朝陽は、遠くからその姿を見ていた。 唯が隣に来て、ぽつりと漏らす。
「…朝陽、気づいてるでしょ。ほのの目、颯に向いてるよ」
「…わかってる。でも、まだ言ってないんだよ、颯は」
「言わなくても、伝わるってこともあるよ」
朝陽は、昇降口のふたりを見ながら、拳を握る。
“俺は、ずっと隣にいたのに”
“でも、今のほのは、颯を見てる”
その夜、朝陽はスマホを開いて、帆乃夏の名前を見つめる。
“今、送ったら、何になるんだろう”
でも、指は止まらなかった。
「ほの、今度また一緒に出かけよう。…話したいこと、ある」
送信ボタンを押したあと、胸が少しだけ苦しくなった。
笑ってるけど、焦ってる。 それが、今の朝陽だった。
金曜日の放課後。 図書室の窓際。 唯は、プリントを整理する颯の隣に座っていた。
しばらく沈黙が続いたあと、唯がぽつりと言う。
「…ほの、朝陽とまた出かけるって」
颯の手が止まる。
「…そうなんだ」
「うん。…たぶん、誕プレ渡すんだと思う」
唯の声は、静かだけど、どこか揺れていた。
颯は、目を伏せたまま言う。
「…俺、何もしてないのに。勝手に焦ってるの、変だよな」
唯は、プリントを閉じて、颯の顔を見た。
「変じゃない。…でも、動かないと、取られるよ」
颯は、目を上げる。 唯の目は、まっすぐだった。
「ほのの気持ちが、颯に向いてるの、私もわかる。でも、朝陽はちゃんと動いてる。…颯が黙ってたら、ほのは迷うよ」
颯は、言葉に詰まりながらも、ぽつりと漏らす。
「…俺、不器用だから。どう言えばいいか、わかんない」
唯は、少しだけ笑って言った。
「言葉じゃなくても、伝わることもある。でも、伝えようとしなきゃ、伝わらないまま終わるよ」
沈黙が落ちる。 図書室の空気が、少しだけ重くなる。
唯は、立ち上がりながら言った。
「…好きなら、ちゃんと動いて。私が言うのも変だけど、颯には、ちゃんと選ばれてほしいから」
その背中に、颯は何も言えなかった。 でも、心の中で何かが静かに動き始めていた。
金曜日の放課後。昇降口の前で、帆乃夏は靴を履きながら、ふと後ろを振り返った。
そこに、颯が立っていた。少しだけ迷ったような顔。でも、何かを決めたような目。
「…ほの」
颯の声は、いつもより少しだけ強かった。
帆乃夏は、驚いた顔で振り向く。
「颯?どうしたの?」
颯は、言葉を探していた。ポケットの中で手を握りしめながら、視線を帆乃夏に向ける。
「…ちょっと、話したいことがある。今、いい?」
その声には、いつもと違う温度があった。
帆乃夏は、頷こうとした——その瞬間。
「ほのーっ!」
朝陽の声が、昇降口に響いた。
颯と帆乃夏の間に、明るい笑顔が割り込む。
「ごめん、待たせた!ほら、例のやつ、渡したいからさ。ちょっとだけ付き合って!」
帆乃夏は、戸惑いながら朝陽を見る。
「え、今?…でも、颯が——」
颯は、言葉を飲み込んだ。
「…いいよ。俺、また今度で」
帆乃夏は、颯の顔を見る。その目は、何かを隠していた。
朝陽は、帆乃夏の腕を軽く引いて、笑顔で言う。
「すぐ終わるって!ほのに渡したいもの、ずっと考えてたんだ」
帆乃夏は、振り返りながら、颯の目を探した。でも、颯はもう背を向けていた。
“言おうとしてた”
“でも、言えなかった”
その空気だけが、帆乃夏の胸に残った。
金曜の夕方。颯は、昇降口の柱にもたれながら、校舎の外を見ていた。
帆乃夏と朝陽が並んで歩いていく姿が、遠くに見える。
唯が隣に立つ。
「…言えなかったんだね」
颯は、目を伏せたまま、ぽつりと呟いた。
「…もう遅いかも」
唯は、言葉を失う。その声には、諦めと悔しさが混ざっていた。
「ほの、朝陽の隣で笑ってた。…俺が言う前に、もう答え出てたのかも」
颯の声は、静かだった。
唯は、そっと言う。
「でも、ほのの笑顔って、誰にでも優しいよ。…だからこそ、選ばれる瞬間があるんだよ」
颯は、遠くのふたりを見ながら、何も言わなかった。
──
その頃、帆乃夏と朝陽は、駅前のカフェにいた。窓際の席で、アイスココアを飲みながら、話していた。
「ほの、これ。誕プレ、渡したいって思ってたやつ」
朝陽は、小さな箱を差し出す。
帆乃夏は、驚いた顔で受け取る。
「え、私に?…でも、誕プレって、好きな子に渡すんじゃなかったの?」
朝陽は、少しだけ笑って言った。
「うん。…だから、ほのに渡したかった」
帆乃夏は、言葉に詰まる。箱の中には、小さなミラー。帆乃夏が雑貨屋で「かわいい」と言ったものだった。
「…覚えてたんだ」
「ほのが言ったこと、けっこう覚えてるよ。…昔から、ずっと見てたし」
帆乃夏は、ミラーを手に取りながら、静かに言った。
「…ありがとう。嬉しい」
朝陽は、笑顔で言う。
「ほのが笑ってくれるなら、それだけでいいって思ってる」
その言葉に、帆乃夏の胸が少しだけ揺れた。
“安心する”
“でも、何かが足りない気もする”
ふたりの時間は、穏やかで優しかった。
でも、帆乃夏の心の奥には、雨の中で笑った颯の顔が、まだ残っていた。
土曜日の午後。 颯は、駅前の雑貨屋の前で立ち止まっていた。 隣には唯。
ふたりで並んで歩くのは、少しだけ気まずくて、でも心強かった。
「…ほんとに、帆乃夏に渡すの?」
唯が、少しだけ笑いながら言う。
「うん。…誕生日、来週だろ。…俺、ちゃんと渡したい」
颯の声は、静かだけど、決意がにじんでいた。
唯は、棚のアクセサリーを見ながら言う。
「ほのって、シンプルなの好きだよね。…あんまり派手なのは選ばないと思う」
「…唯って、ほののこと、よく見てるな」
「好きだからね。…でも、颯が選ぶなら、ちゃんと応援する」
颯は、目を伏せながら言った。
「…もう遅いかもって思った。でも、やっぱり、言わないまま終わるのは嫌だ」
唯は、そっと頷いた。
「うん。…それなら、ちゃんと動いて。ほのは、待ってると思うよ」
──
月曜日の朝。 帆乃夏は、教室で颯から小さな袋を渡された。
「…誕生日、ちょっと早いけど。…これ、唯と一緒に選んだ」
颯は、目を合わせずに言った。
帆乃夏は、袋を受け取りながら、少しだけ表情を曇らせる。
「唯と…一緒に?」
「うん。…俺、センスないから。唯が、ほのの好みわかってるって言うから」
颯は、照れたように言う。
帆乃夏は、袋の中を見ながら、少しだけ口を尖らせる。
「…ありがと。嬉しい。…けど、なんか、ちょっとだけモヤる」
「モヤる?」
「うん。…唯と選んだって聞くと、なんか、ちょっとだけやきもち」
颯は、驚いた顔をして、でもすぐに目をそらす。 耳が、ほんのり赤くなっていた。
「…ほのが、そう言うの、ちょっと嬉しい」
「え、なにそれ。ずるい」
ふたりは、笑い合う。 その空気は、少しだけ甘くて、少しだけ照れくさかった。
帆乃夏は、袋の中のアクセサリーを手に取りながら、そっと言った。
「…でも、やっぱり、颯が選んでくれたって思うことにする」
颯は、目を合わせて言った。
「うん。…俺が、ほのに渡したかったから」
その言葉に、帆乃夏の胸が静かに跳ねた。
月曜の昼休み。 中庭のベンチに、朝陽・颯・唯の三人が並んで座っていた。
話題は、昨日の部活のことから、自然と帆乃夏の話へと移っていた。
「ほの、最近ちょっと雰囲気変わったよな」
朝陽が、ジュースの缶を開けながら言う。
唯は、少しだけ笑って言った。
「うん。…なんか、誰かのこと考えてる顔してる」
颯は、黙って缶を見つめていた。 その沈黙が、何よりも雄弁だった。
朝陽は、颯の横顔を見ながら言う。
「颯、プレゼント渡したんだろ?…ほの、喜んでた?」
「…うん。…でも、俺、ちゃんと言えてない」
颯の声は、低くて、少しだけ揺れていた。
唯は、そっと言う。
「でも、ほのは、ちゃんと受け取ってたよ。…気持ちも、たぶん」
そのとき、帆乃夏が中庭に現れた。 制服の袖を揺らしながら、ふたりの姿を見つけて駆け寄ってくる。
「なに話してるのー?」
帆乃夏の声が、空気を変えた。
朝陽は、すぐに笑顔を作る。
「いや、ほのの話してた。…昨日の部活、めっちゃ走ってたなって」
帆乃夏は、笑いながら言う。
「だって、颯が本気出してくるんだもん。負けたくないし」
その言葉に、颯は少しだけ目を伏せる。 でも、口元がわずかに緩んでいた。
唯は、帆乃夏の顔を見ながら、静かに言う。
「ほのって、誰かの前だと、ちょっとだけ笑い方変わるよね」
帆乃夏は、驚いた顔をして、でもすぐに笑った。
「え、そうかな?…気のせいじゃない?」
朝陽は、その笑顔を見ながら、心の奥がざわついていた。 颯は、言葉にできないまま、帆乃夏の横顔を見つめていた。
唯だけが、その空気を全部感じ取っていた。
“この中で、誰が選ばれるんだろう”
そんな思いが、胸の奥で静かに揺れていた。
文化祭まで、あと二週間。 教室では、出し物の話し合いが進んでいた。
「うちのクラス、喫茶店に決定〜!」
委員長の声に、歓声が上がる。
帆乃夏は、メニュー係になった。 そして、なぜか颯とペアに。
「え、私と颯?…なんか、意外」
帆乃夏は、少しだけ照れながら言った。
「俺も、意外。…でも、頑張る」
颯は、目をそらしながら答えた。
唯は、装飾係。朝陽は、呼び込み担当。 それぞれが、違う場所で準備を始めていた。
──
放課後の準備室。 帆乃夏と颯は、メニュー表のデザインを考えていた。
「このフォント、かわいくない?」
帆乃夏が言うと、颯は少しだけ笑った。
「…ほのが言うなら、かわいいんだと思う」
「なにそれ。ずるい」
ふたりは、笑い合う。 その空気は、静かに甘かった。
でも、準備室のドアが開いて、唯が顔を出す。
「ほの、ちょっと手伝ってほしいんだけど」
帆乃夏は、立ち上がりながら言う。
「うん、すぐ行く!」
颯は、帆乃夏の背中を見ながら、そっと呟いた。
「…やっぱ、文化祭って、ちょっと怖いな」
──
その夜、帆乃夏はスマホを見ながら、唯のストーリーに目を留めた。
「颯と雑貨屋で買い出し〜」という文字と、並んだ影の写真。
帆乃夏の胸が、少しだけざわついた。
“唯と颯、ふたりで?”
“なんで、私じゃないの?”
その感情が、やきもちだと気づいたとき、帆乃夏はスマホを伏せた。
──
文化祭の準備は、少しずつ進んでいた。 でも、心の準備は、まだ誰も終わっていなかった。
土曜日の午後。 文化祭の買い出しで、帆乃夏と颯は駅前の雑貨店に来ていた。
メニュー表に使う小物や、テーブル装飾のアイテムを探している。
「このレース、かわいくない?」
帆乃夏が棚の奥から取り出す。
「…ほのが言うなら、かわいいんだと思う」
颯は、少しだけ照れたように言う。
帆乃夏は、笑いながら歩き出す。
「じゃあ、これにしよ——」
その瞬間、足元の段差に気づかず、帆乃夏の体が前につんのめった。
「わっ…!」
バランスを崩した帆乃夏を、颯がとっさに抱きとめる。 ふたりの距離が、一気にゼロになる。
帆乃夏の手が、颯の胸に当たっていた。 颯の腕が、帆乃夏の背中を支えていた。
目が合った。 近すぎて、言葉が出ない。
帆乃夏の頬が、みるみる赤くなる。 颯も、目をそらせずに、ただ見つめていた。
「…ごめ、転んじゃって」
帆乃夏が、かすれた声で言う。
「…大丈夫?」
颯の声も、少しだけ震えていた。
ふたりは、ゆっくりと距離を戻す。 でも、空気はまだ近いままだった。
帆乃夏は、レースの布を握りながら言う。
「…颯って、こういうとき、ちゃんと助けてくれるんだね」
「…ほのだったから、動けた」
その言葉に、帆乃夏の胸が跳ねた。
店内のBGMが、静かに流れていた。 でも、ふたりの間には、それよりも甘い沈黙があった。
──
店を出たあと、帆乃夏は唯にメッセージを送った。
「颯と買い物してたら、ちょっとだけ…ドキッとした」
唯からの返信は、すぐに届いた。
「それ、好きってことだよ」
帆乃夏は、スマホを見つめながら、風に吹かれていた。
“近すぎて、言葉が出ない”
でも、気持ちは、ちゃんと動いていた。
買い物から帰った帆乃夏は、教室の自分の席に荷物を置いた。 雑貨店での颯との距離が、まだ胸の奥に残っていた。
そのとき、朝陽が声をかけてきた。
「ほの、ちょっとだけいい?」
帆乃夏は、少し驚いた顔で振り返る。
「うん、なに?」
朝陽は、帆乃夏の腕を軽く引いて、廊下の端へと連れていく。
窓から夕陽が差し込む、静かな場所。
「…買い物、颯と行ったんだよね」
「うん。文化祭の準備で」
「…楽しそうだった?」
「え?…まあ、普通に」
朝陽は、少しだけ笑って言った。
「ほのって、颯といるとき、ちょっと顔違うよね」
帆乃夏は、言葉に詰まる。
「…そうかな?」
「俺、ほののこと、ずっと見てるから。…そういうの、わかる」
朝陽の声は、静かだった。でも、真っ直ぐだった。
帆乃夏は、目をそらしながら言う。
「…朝陽って、時々ずるいよね。そういうこと、さらっと言うから」
「ずるいって思ってくれてるなら、ちょっとは俺のこと気にしてるってこと?」
朝陽は、笑いながら言う。でも、その目は本気だった。
帆乃夏は、何も言えなかった。 でも、心の奥が静かに揺れていた。
「…俺、ほのの隣にいるの、好きなんだと思う。…いや、好きって言うと、なんか違うかもだけど」
「…違うの?」
「うん。…“好き”って言葉にすると、軽くなりそうだから。俺は、ほののこと、ちゃんと大事に思ってる」
その言葉が、夕陽の中に溶けていった。
帆乃夏は、胸が少しだけ苦しくなった。
“告白じゃない。でも、ちゃんと伝わった”
──
その夜、帆乃夏はスマホを見ながら、唯にメッセージを送った。
「朝陽に、なんか…“好きって言わない告白”された気がする」
唯からの返信は、すぐに届いた。
「それ、たぶん本気だよ」
帆乃夏は、スマホを胸に当てて、目を閉じた。
“颯の顔も、朝陽の言葉も、どっちも残ってる”
文化祭まで、あと三日。 教室では、出し物の準備が佳境に入っていた。
帆乃夏は、メニュー表の仕上げに追われていた。 その横で、颯は静かに装飾用の布を折っていた。
「颯、それ…私がやるよ」
帆乃夏が言うと、颯は首を振った。
「…ほのが疲れてると思ったから。…俺がやる」
その言葉に、帆乃夏は少しだけ胸が揺れた。
“颯って、いつもこう。言わないけど、気づいてくれる”
──
放課後。 帆乃夏が忘れ物を取りに戻ると、教室には颯がひとりでいた。
「…あれ、颯?」
「…ほののメニュー表、ちょっと直してた。…文字、にじんでたから」
帆乃夏は、驚いた顔で言う。
「え、私、気づかなかった…」
「…ほのが作ったやつだから、ちゃんと綺麗にしたかった」
颯は、目をそらしながら言った。
帆乃夏は、胸がぎゅっとなる。
“言葉にしないけど、伝わってくる”
──
文化祭前日。 帆乃夏の机の中に、小さな袋が入っていた。
中には、手作りのしおり。帆乃夏が好きな花の模様が描かれていた。
「…これ、颯が?」
唯が、そっと言う。
「うん。…ほのが本読んでるとき、いつもページ折ってるからって」
帆乃夏は、しおりを手に取りながら、目を伏せた。
“言ってくれない。でも、ちゃんと見てくれてる”
──
その夜、帆乃夏はスマホを見ながら、メッセージを打っていた。
「颯って、言葉にしないけど、私のこと、すごく見てくれてる気がする」
唯からの返信は、すぐに届いた。
「それ、好きってことだよ。…言わなくても、伝わるって、颯は信じてるんだと思う」
帆乃夏は、しおりを胸に当てて、目を閉じた。
“言葉じゃない。でも、ちゃんと届いてる”
文化祭前日。 教室は、紙テープとポスターで彩られ、いつもと違う空気に包まれていた。
放課後の準備は、少しだけ浮ついていて、少しだけ緊張していた。
帆乃夏は、メニュー表の最終チェックをしていた。 その隣で、颯が静かにテーブルの配置を整えていた。
「…颯、ありがとう。私、気づかなかった」
「…ほのが作ったやつだから、ちゃんと見てた」
その言葉に、帆乃夏は胸が少しだけ跳ねた。
“言葉じゃない。でも、伝わってくる”
──
唯は、窓際で飾り付けをしながら、ふたりの様子を見ていた。 朝陽が、廊下から戻ってくる。
「ほの、まだ準備してる?」
「うん。颯と一緒に」
朝陽は、少しだけ眉を動かした。
「…そっか」
唯は、朝陽の顔を見ながら言う。
「昨日の“告白未満”、ほの、ちゃんと受け取ってたよ」
「…でも、颯の“言葉にならない優しさ”も、ちゃんと届いてる気がする」
朝陽の声は、少しだけ揺れていた。
──
その夜。 帆乃夏は、帰り道で颯と並んで歩いていた。 夕暮れの空が、ふたりの影を長く伸ばしていた。
「…明日、楽しみ?」
颯が、ぽつりと聞く。
「うん。…でも、ちょっと怖い。なんか、いろんなことが変わりそうで」
帆乃夏は、空を見上げながら言った。
颯は、少しだけ歩みを止めて言う。
「…変わっても、俺は、ほのの隣にいたいと思ってる」
帆乃夏は、驚いた顔で颯を見る。 でも、颯は目をそらしていた。
“それって、告白じゃない”
“でも、ちゃんと伝わる”
帆乃夏は、そっと言った。
「…私も、変わっても、颯と話してたいって思ってる」
ふたりの間に、風が吹いた。 言葉のない夜。 でも、気持ちだけが騒いでいた。
──
その夜、帆乃夏はスマホを見ながら、唯にメッセージを送った。
「颯、言ってないけど、言ってるみたいだった」
唯からの返信は、すぐに届いた。
「それ、ほのがちゃんと聞いてるからだよ」
帆乃夏は、スマホを胸に当てて、目を閉じた。
“明日、何かが変わるかもしれない”
でも、それを少しだけ楽しみにしていた。