三連休の真ん中。
東京に着き、人混みをなんとかかき分けて八重洲中央口へと向かった。
本当はホームまでシヴァさんが迎えに来てくれる予定だったんだけど
『寝坊した!』
というメッセージと、必死に謝る土下座のスタンプが送られてきて次に
“こんなギリギリに連絡してごめん、焦りすぎて連絡するの忘れた”と理由が綴られていた。
「楽しみすぎて寝不足だったのカナ…?」
るなも昨日は夜遅くまで準備して寝不足だったど、約三時間爆睡だったから元気になりました。
大阪たってから記憶ないもんね。
「るなさんっ」
「シヴァさん!」
ちょうど改札口を出たところで、こちらに向かって走ってくるシヴァさんを見つけた。
改札はごった返していたけれど、人並みのなか頭一つ出てる彼氏さんだからすぐわかる。
「もーマジなんでこんな日に寝坊すんだか…」
ぜえぜえ、と息も絶え絶えなシヴァさんは膝に手をついて身体を折った。
「でもこんなに人が多いのに、るなのことよくわかりましたよね?」
るながシヴァさんを見つけられたのは身長のおかげなのだけど、逆にしたら難しいのに。
「そりゃぁ、まぁ…彼女だから?」
「そうなんですか?」
「わかるよ、すぐ」
照れたのか、るなから顔を逸らした。…耳が真っ赤だった。
ねぇ、耳が、と言おうとすると、”この話はお終い”と言わんばかりにキャリーケースと右手を奪われる。
けれど、歩く速さは私に合わせているのかゆっくりだ。
シヴァさんはとっても優しくて、恐いくらいるなを優先してくれる。喧嘩なんてぜったいしないと思う。
繋いだ手は二人とも、とっても熱い。
すきだなぁ、そんな気持ちが頭からつま先までいっぱいにある。
知り合ってからはだいぶ経つけど、告白して9ヶ月、付き合ってから半年そこそこ。
最初のころよりも着実に、二人でいる時の空気がやわらかくてあったかくなっていた。
それがとっても嬉しかった。
「じゃあその、かぼちゃのスープ作ってたから寝不足になっちゃったんですか?」
「そーなんだよ…ふぁあ」
シヴァさんのお家がある最寄駅について、お昼とお夕飯の材料を買うために駅下のスーパーに寄った。
るなのリクエストはきのこのパスタかハンバーグ…だったんだけど。
どっちか迷っていたら、「なら両方作ればいいじゃん」なんて言われてしまった。
「もぉーそんな色々作らなくて大丈夫ですよ、なんか悪いです」
「いーんだよ。のあさんからかぼちゃもらってて、そろそろ食べなきゃいけなかったからさ」
あくびを噛み締めたせいか目の端に涙が溜まったシヴァさんが、買い物かごにキノコにサニーレタスにトマトにさくさく入れている。
「生クリームもあって、なら作っちゃおうかなって思っただけ」
「そんな生クリームとかぼちゃあるからポタージュ作るかぁ、なんて発想なかなかないですよ」
料理上手で困る。るなもまったく料理ができないわけではないが、こうもシヴァさんのスキルが高いと出番なんてない。
るなも何かしてあげたいな…ふと目線を横に映すとたまごのコーナーにきていた。
そうだ!
「シヴァさんっ、だし巻きたまごつくっていいですか?食べれますか?」
「めっちゃ好きだよ、つか作ってくれんの?」
「夏の配信でのあさんの作っただし巻きたまごいっぱい食べてたでしょ」
「よく覚えてんなぁ」
わはは、とシヴァさんが軽く笑った。
…覚えてるもん。
夏休みの毎日配信9日目、『ほろ酔い雑談』
四人でお酒飲んでて聞いてるるなも楽しかったんだけど。
“だし巻きうめー”
のあさんお手製のだし巻きを頬張っているらしいシヴァさん。
おいしいおいしいと何度も聞こえてくる、あの低い声にちょっと嫉妬したのだった。
「るなも何か作りたくて…どうですk「食べる。絶対食べる。」
即答された声にすごい圧力がかかっていた。
「るなさんの料理絶対食べる」
そんな真顔で言わなくても…
すごくはっきり言われて恥ずかしくなった。
シェアハウス時代はあまりお料理当番はしなかった。忙しすぎて、やっても夏休みとか長期の休みの時に数回だけ。
「俺さ、るなさんの料理食べたことないの。」
「あれ?そうでした?」
「いつもタイミング悪くてね。みんながるなの料理美味しかったー、なんて教えてくれるモノだから、ずりーなぁなんて思ってたんだよね」
だから嬉しい、なんてニコニコされちゃって
嫉妬してたからなんてとてもじゃないけど言えなかった。
シヴァさんのお部屋について思わず辺りを見回した。男の人の一人暮らしにはやや広い。
「デカいから圧迫感感じちゃうんだよね」
シェアハウスの個室より広い1Kは、端はベッド、その近くに大きなパソコンを置いたデスク。サイドの本棚には何やらお仕事関係の本が数冊、あとは漫画、手前に小さなアニメのキャラクターらしきマスコットが置かれている。
反対側には電子機器がならび、シヴァさんのマウスコレクションも飾ってあった。
緑、黒、時たまグレーでまとめられていてとっても落ち着いた
男の人の部屋、という感じ。
「シヴァさんお部屋綺麗ですねぇ」
「片付け頑張ったんだよ」
るなさんくるからさ、と言いながら買ってきた食材の入った袋をキッチンに置く。
キッチンを見るとやはりと言うか、さすがと言うか。男の人の一人暮らしには充実していた。
そろそろ手を洗ってこないと。右手は未だ繋がれたまま。
自然と離れるかな、なんて見ていたけど、シヴァさん器用に右手で食材出してるから、笑ってしまった。
「どしたの?」
「…あの、手が全然離れないなって」
「っあ!」
スーパーでは一度離したけど、またその大きな手でるなの手を包んでくれたから
けど家の中で手を繋いでもね…甘酸っぱい幸せを感じていた。
「メシ作るわ、るなさんテキトーに休んでていいよ」
手を洗ってキッチンへ戻ると、腕をまくってエプロンをつけたシヴァさんが手際よくしめじを割いているところだった。
休んで、と言われてもエプロン姿が気になって仕方ない。邪魔にならないようお料理の工程を見守る。
「でもなんできのこのパスタ?」
「夏の配信で言ってて美味しそうだったからです」
ああ、なるほど。そうなんだよ、俺好きなんだよね、と視線はそのまま、手は動かしたまま、配信と同じことを話し始めた。
男の人が料理するってなんでこんなかっこいいんだろう…っていうか
早い。手際が良すぎる。
パスタを茹でるお鍋はぐつぐつ音を立てているし、野菜、肉と順番に切られたものはバットに並んでいるし。
「ごめん、にんにく入れさせてー」
ひとかけら、皮を剥かれたニンニクは包丁をねかしてググっとシヴァさんの重みにより潰された。
フライパンにオリーブオイルを垂らして潰したニンニクを入れて、あたたまるまでにさっきまで使っていたまな板と包丁を洗ってって
早くない??えっ??なんで?
そこでシヴァさんはレシピを見てないことに気づいた。
「シヴァさんレシピとか見ないんですか?」
「きのこパスタよく作るから覚えちゃっててさぁ、この間ものあさんたちに作ったんだよ」
困ってる、けどどこかほっとけなかった、そんな顔をるなに向けた。
“のあさんたちに”
つきん、と胸の奥が痛む。
(わぁ〜ばかばかるな、だめだそんなの!)
さっきから見え隠れする邪の心が嫌で、払おうとぶるぶると顔を振った。
当たり前だよ、るなといる時よりも長い時間合っているし。
シェアハウスで撮影することもあるんだから、ごはん作ることもあるし。
のあさんはご飯当番おおいから、そのお料理を食べることなんていっぱいある。
つきん、つきん。
まだ胸の奥が痛む。頭ではわかっているはずなのに、心がわかってないんだ…。
わがままな気持ちがおっきくなって変なこと言ってしまったらどうしよう。
この気持ち今日は一日しまっておかなくては、と固く誓った。
「すごい〜〜おいしい〜〜〜しあわせ〜〜」
テーブルに並べられたきのこのパスタ、昨夜仕込んだというかぼちゃのスープ、蒸した胸肉ときゅうりのサラダ。
全部がぜんぶ美味しい。美味しすぎる!!
なにここお店?お店なの??
バグる脳内をなんとか鎮めて食べることに集中した。
食べたかったきのこパスタなんか予想以上に絶品で、口に入れた瞬間叫んじゃった。
「いや、フツーだって」
「フツーのレベルが高いんですよ!」
るなも”パスタソースとあえるだけ”なら得意だけど、どうもペペロンチーノみたいなフライパンで作るパスタメニューは下手くそで。
焼きそばみたいにパサパサになっちゃうの。
「あー、茹で上がったらすぐ和えるだけにしとくといいよ。あとは茹で汁と仕上げにもっかいオリーブオイルいれて乳化させるの」
ニュウカ??知らない単語がて出てきて首を傾げると、
水と油が混ざり合うことだと教えてくれた。
「急いでやらなきゃだめですか?」
「時間立つと、パスタが水分すっちゃうから」
はぇー、そうなんですね…
…ねぇ待って?
シヴァさんてヤバくないですか??
お料理好きだからってこんなに作れるモノなの???
もしかして、相当スキルが高いんじゃぁ…
そしたらるなの卵焼きなんてとてもじゃないけど見せられない。
美味しいパスタに打ちのめされてしょんぼりしてると、案の定シヴァさんが気づいた。
「どした?」
「あの…るなやっぱりだし巻き作らなきゃだめでふか?…こんな美味しい料理の手前、恥ずかしくなってきたんですが…」
「ダメだよ、つくんなきゃダメ」
「ええっ!?」
シヴァさんのことだから、いいよ、って免除してくれると思ったのに。真っ向からダメと言われてしまった。
「だって美味しくないですよ…」
「ダメだよ、俺食べたいもん」
「えぇ?ほんとにいいんですか…?」
最近やっと綺麗に巻けるようになったけど不格好だし。焼きすぎて焦げちゃったりぱさぱさになることもあるのに。
「るなさんが俺のために作ってくれるなんて、初めてだろ。絶対食べたい」
「うーん、練習してからとか、ダメ?」
「他の誰かの胃に入れてから俺んとこくんの?…ダメだよ」
ええっ、なんだろうそれ。
他の人に食べさせちゃダメってことなのかな?
美味しくなってからのほうが絶対いい気がするのに。
私の納得してない様子にシヴァさんはだからええと、とほおを搔く。
それから、はずかしいけど、と前置きされて
「彼女の頑張った料理を一番に食べたい。…彼氏の特権使わせて」
“るなの作ったお料理が食べたい”
その気持ちがすごく伝わってこちらも盛大に照れてしまった。
「じゃあ、じゃあ…明日の朝ごはんに作りますっ」
「楽しみにしてるわ」
お昼も夜もごはんがもりもりのためだし巻きたまごは明日の朝ごはんになった。
二人で食器を洗い片付け、シヴァさんは後ろを振り向いて電気ポットにお湯を沸かした。
「るなさん麦芽飲料かココア、どっち飲みたい?」
「あったかいココア…ってさっき買いましたっけ?」
さっきスーパー行った時買った覚えはなかった。
「買っておいた。麦芽飲料なら冷蔵庫にあるよ」
「ええっ!?」
冷蔵庫をあけてみると、ココア麦芽飲料が三つ並んでいる。
「買っておいてくれたんですか?」
「うん、好きだよね?あってる?」
「す、好きですけど…」
ならよかった、ほっと息をついてるなの前をおっきな手が横切っていった。
シヴァさんはジンジャーエールを飲むらしい。
るなもココアを作ってたったまま一息つく。
隣のシヴァさんもまた、一口飲んでほっとしている様子だ。
何かしたいことある?と尋ねられた。
「るな実はやりたいことがあるんです!!」
「な、なにやりたいことって…」
私を見てまるでお化けにあったように、シヴァさんはびくびくしだした。
別にそんなコワいこと言うわけじゃないのだけど。何をそんなにコワがってるのかな。
「人形屋敷の動画一緒に見たいです」
「あーなんだ、そんなこと…」
「あともういっこお願いあるんですけど、それは後で言いますね?」
「…ええっ、まだあるの!?」
青い顔したシヴァさんが後退りするものだから。
「大丈夫、ちょっとしたお願いですから」
「ぇえ…るなさんのちょっとしたお願いコワイのよ…」
お手柔らかにお願い、なんて口走ってた。
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🐸さんあまあまですねぇ🎶 お腹ペタペタ気にしてるの凄く可愛いです(笑) ❄ちゃんはあんまり気付いていないし…🐸さんももっとアピールしなきゃですね(?) 🍪さん達に作ったと🐸さんが言って、❄ちゃんは嫉妬して、、尊いのループですねぇ💕💕 🐸さんもなぜ女子の名前を出しちゃうのかちょっとビックリです(笑)❄ちゃんのやりたいことのお願い可愛いです💕人形屋敷が見たいって凄く可愛いです〜♪ やっぱ🐸❄最高ですねぇあ
svrnてぇてぇっす。応援してます!!
お読みいただきありがとうございました。🐸さんは甘やかすタイプ、❄️ちゃんはそれにあんまり気づいてないタイプと今回はそんな感じで書いております。 ビクビクしてるのはお腹ぺたぺたのトラウマです。