俺は生まれつき目が見えなかった。
でも、優しい両親に可愛い弟。
それなりに幸せな日々を送っていた。
ある日親が言ったんだ。
「律!貯金ができたの!目の手術、できるよ!」
『ほんと?!母さん!俺、見えるようになるの…!?』
「そうよ…!ごめんね…!何も見えない子に産んでごめんね…!」
父さんも母さんも、俺のために必死にお金を貯めて、俺の事を怒らずに、目の手術をさせてくれて、幸せだと思った。
弟を見るまでは。
手術が終わって、目を開くとカラフルな景色が目に飛び込んだ。
『わぁ…!』
感動しすぎて声もでなければ、医者の前で涙ぐんでしまった。
「初めて世界を見たものね、涙が出るのも仕方ないわ。」
「小さいのに大変だったでしょう?」
「よく頑張ったね。」
お医者さんや看護師さん達の労いの言葉もあり、俺は大声で泣いてしまった。
泣き疲れて寝てしまっており、次に起きたのは日が変わってからだった。
すると看護師さんが病室に入ってきた。
「あ、律くん、おはよう。今日、親御さんがお見舞いに来るって言ってたよ。」
『本当ですか!』
「うん、じゃあ律くん体調チェックしようか」
『はい!』
体調にも異変がなく、朝ごはんや着替えを済ませ、見舞いが来るまで待っていた。
コンコン。
するとノックが聞こえた。
『はーい!』
返事をすると、ガラガラと音を立てて扉が開き、声が聞こえた。
「兄さん!」
よく知ってる声。
『あ!り…』
『く?』
視界に入ったのはアザだらけの少年。
つまりは、俺が可愛がっていた弟はアザだらけだったということ。
(は…?誰に付けられたんだよ…その傷とアザ…。絶対に許せねぇ…許さねぇ……。)
ただ弟を見つめることしかできないと、歩斗は何を思ったのか急に泣きそうな声になって言った。
「ごめん…果物、置いとくから…食べてね…じゃあ…」
そして、急いで病室から出ていってしまった。
「歩斗!」
(ごめんって…謝るのは何も言えなかった俺の方だろ…)
それ以降、退院まで歩斗に会うことはなかった。
退院の日。
「本当に良かったの?親御さんのお迎え待たなくて。」
『はい!早く帰ってびっくりさせたかったので!』
歩斗と会ったあと、病院の電話を使って親に電話をしてみたことがあるが、歩斗のアザについて聞いても適当にはぐらかしていた。
(絶対怪しい…!)
だから、少しでも早く帰って、なにか現場を掴めたら…と考えていた。
持っていたお小遣いでバスや電車を乗り継ぎ、家まで帰ってきた。
そして、扉を開ける。
『ただいま…』
小声ではいると、奥から声が聞こえてきた。
決して楽しそうには思えない内容だった。
「なぁ、これ殺したらどうなるかなぁ?」
扉を開くと、弟が両親に殴られたり蹴られたり、刺されたりしていた。
『……!』
「ちょっとぉ〜殺さないでよ〜?児童手当貰えなくなっちゃうじゃないの〜」
「それもそっかー!ははははっ!」
「あははははっ!」
俺の視線を感じたのか、歩斗が呟いた。
「に……さ…」
(あぁ歩斗…無理して声出さなくてもいいのに…)
すると先程までとは違う態度で俺に話しかけた。
「り、律?!帰ってこれたのね…! 」
「す、すまんなぁ迎えに行けなくて…」
「確か迎えの時間は1時間後のはずだったんだけど…!」
こいつらは慌てふためいているが、そんなの知ったこっちゃない。
(そんなことより歩斗を何とかしなくちゃ…)
『……』
『父さん、母さん、俺お腹すいたよ、外食行かない?』
「え……えぇ!そうね!行きましょう!」
「は、ははは!すぐに車を出すぞ!」
こいつらは急ぎ足で玄関の方に行き、俺は地面に這いつくばってる歩斗に口を動かした。
【に・げ・ろ】
そう伝え俺は歩斗を一刻も早く1人にするため急いで車に乗りこみ、こいつらと一緒に出かけた。
(歩斗、上手く逃げれてるかな……)
外食を済ませ、家に帰り、俺は親に言った。
『目が見えるようになったのが嬉しいから、少し散歩してくるよ』
親は喜んで承諾し、俺は歩斗の痕跡を探しに出かけた。
少しでも残っていたら、カネ目当てのあいつらに捕まってしまうかもしれない、そう思ったからだ。
すると…
『この靴…玄関にあった…しかもボロボロで…』
『まさか…歩斗……?』
歩斗の靴が川沿いに落ちていた。
『り……く?』
(俺は…歩斗を守れなかったのか…?)
そう考えると涙が溢れてきた。
(あぁ、俺…)
(自分が思ってる以上に歩斗のこと大好きじゃん…)
歩斗がいない人生なんて、どうでも良く思えた。
(あんな、俺の愛する歩斗を虐待して自殺に追い込んだあいつらなんかと一緒にいたくねぇ…!)
だったら、歩斗が死んだこの川で一緒に死んでやる、そう思った。
思ったら行動は早かった。
柵を乗り越えて、ちょっと深呼吸して飛び込むだけだった。
後悔なんてない。
歩斗と一緒のところへ行けるなら──
『うわぁぁぁ!!!』
突然の大声に俺はびっくりして飛び起きた。
「あ!やっと起きたあ」
目の前には生意気そうな巫女。
『なんだよ、俺の邪魔しやがって』
「邪魔?それがイマイチなんのことかは分からないけど…」
「君、死にたいほど辛いことあったんじゃない?」
『あったよ弟が死んだんだよ愛する弟がさ!同じところに逝かせてくれ!!』
「わあおちょーイラついてんじゃん」
「とりあえず何があったのか話してみなってブラコンお兄さん 」
『うるせぇ!』
(なんだコイツ…)
ムカつきはしたが、とりあえず言われるままに話した。
『な?わかっただろ?俺は死にたいんだよ』
「うーん、なんて言うか、君の弟くんってもしかして実鳴歩斗くん?」
『えっ、なんで歩斗の名前を…』
「ここはね、麗流楼水って言って、居場所を失った人が集まってくる町なんだ。」
「たくさんの人がここに迷い込んで暮らして…君の弟くんも、ホント数時間前とかに来たんだよ」
『!!!』
「もし良かったら、律くんもここに住まない?」
『住む!!』
「おお、食いつきいいねぇ」
「では実鳴律くん、君を麗流楼水に歓迎します!」
そして、未彩に案内され…
『歩斗!!!』
「に、兄さ…」
『歩斗!やっと会えた!!!俺…おれぇっ…りくが死んだかと…うわあああああ』
「兄さん…僕…兄さんに会えて嬉しい…」
『俺もだああああ!!!』
「感動の再会だねぇ…」
今度こそは弟を守ると誓った。
その後、歩斗は友達のような関係になりたいと律を呼び捨てするようになるのは、また別の話。
コメント
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目見えるようになってわー!ってなったのに、家庭の真相知っちゃって、でもその後のりつの対応が大人すぎて、珍しく律がかっこよく見えましたw