次々と空から舞い降りてくる神龍たちの中に『黒』の姿は無かった。
しかし、ラトから聞いた色以外の色を纏った神龍がいることに気づく。
白く光る神龍。
それを見ていると目の前にはいつの間にか
『何か』が居た。
姿は見えない。
けど『何か』は居る。
そのとき声が聞こえてきた。
「私は全ての季を司る神です」
「今、あなた方には私の姿がどう映っていますか?」
と。
全ての季を司る神?
てことは透の神龍だろうか。
柧夜が先生と呼ぶ神龍…
というか姿がどう映っているか?
姿と言ってもあまり見えない。
ただ、龍の形をしていることは分かっている。
だから、
多分、
姿は
「龍」
「金魚」
『龍』だと思い、そう呟くように言った。
が、叶向が答えた姿は『金魚』
互いの顔を合わせながら疑問の言葉を呟く。
「きっと君には私たちが龍に見えてるんでしょ?」
そう言いながら透は姿をフユの時のように人間へと姿を変えた。
「そして貴方には金魚の姿が見えている」
「どちらも間違っていないわ」
とても美しい女性だ。
言葉で表せないほどの美人。
見えないけど見える。
「御主、まさか先生に惚れたのか?」
少しばかり透を見ていると柧夜にそんなことを言われてしまう。
眉間に皺を寄せた顔を向けると
「先生はあげぬぞ」
「妾のモノだ」
そんなことを言う。
「そういえば『黒』は?」
俺がそう言うと、
透の後ろから白く光る龍がおずおずとこちらへ向かってきた。
「自分…元、黒です……」
と力無さげにそんなことを言う。
「自分の役目は各神社を駆け巡って幸の粉を撒き散らすという役目がありまして…」
「その時にニンゲンの負も共に請け負っちゃったっぽいんですよね…」
と透の顔を気にしながら、
そして俯きながら。
そう言った。
『怒るんだろうか』そう思いながら透を見ていると
「次は無いようにお願いね」
と笑みを向けた。
まさかの圧をかけるタイプ…
それのせいで白の龍は縮みこまっってしまった。
それが少し面白くて小さな笑みを零す。
「そろそろお別れですよ」
そんな透の声が辺りに響き、
「そっか…」
「そうだね」
と俺と叶向は同時に声を漏らす。
「千秋、妾は覚えているぞ。いつまでも」
耳元で囁くようにそんなことを言われ、
小さな涙が頬を伝う。
ほぼそれと同時に柧夜が俺の頭を撫でる。
もう少しここに居たい。
あと少しだけ。
そう思っていても、
時間は許してはくれなかった。
俺の周りにあの時見たような真っ赤な金魚がぐるぐると回り、俺は現世へと戻された。
気づくと俺は家の裏にある祠の前に居た。
あのとき見た蔦や苔だらけの祠。
『もう戻ってきたんだな』そう思うと尚更涙が溢れる。
しばらく声を殺して涙を零していると空から冷たい何かが降ってきた。
雪だ。
そう。
冬が来たのだ。
『久しぶりに森を出てみようかな』そう思い、
学校に行く日でも無いのに森の外へと出た。
そして目に映ったのは、
遠くの方から歩いていて来る見慣れた人物。
互いの目が合った時、同時に声を漏らした。
「「あ」」
Fin.