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体を穿つような雨の日だった。
2月の後半、やっと雪が溶け始めた時に嵐のような雨が都市を覆った。
こんな嵐の中、海に息子を1人置いてけぼりにする親は多分ウチの親だけだと思う。
既に数時間前に日が落ち、真っ暗になってきたが誰か来てくれる様子もない。いっそのことこのまま死んでしまいたい。もうあんな家に戻りたくない。
海に足を踏み入れると瞬時に足の感覚が無くなった。
砂浜近くで少年の遺体が発見されたら迷惑がかかりそうなので沖に出ることにした。波に揺られてばかりじゃ死ねないので肺の息を全て抜き沈むことにした。
「お父さん、ごめん」
なぜその言葉が出たのか分からないがもうどうでもいいので何も考えず沈んでいく。
もうそろそろ目の前がチカチカし始め、息が苦しくなってきた。
そんなとき遠くから誰かが泳いでくる音がした。暗くて何も見えない。どんどん近づいてきて、自分の体が浮上し、ついに顔が海面から出た。
久しぶりの空気に肺が噎せ返る。
「少年、大丈夫か」
安心するトーンで話しかけてくれた男性は自分をしっかり抱えてゆっくり陸まで泳いでくれた。
「ありがとうございました……」
「少年、わざと海に入ったね」
責める口調だが、この人が言うと何もかも許して貰えそうな雰囲気だ。
「ご、ごめんなさい……」
「大丈夫、責めてないよ。悩んでいるならお兄さんに言ってね」
抱きしめながら言われた言葉は自分が誰かに言って欲しかった言葉だった。その瞬間大粒の涙が頬をつたった。そして何もかも話した。親のこと、家での扱い、入水した理由全部を。
お兄さんは全てを真剣に聞き、受け止めてくれた。
「そうだったんだ、よく耐えたね。偉いぞ!」
頭をこねくり回され、次第に笑いが漏れていった。
「ところでお兄さんは誰?」
「僕は、海洋警察部隊の下っ端だよ」
それが自分の人生を歩む引き金となった。