「すンませんでしたッ!!」
「へ?」
ここは喫茶店『うずまき』。
武装探偵社よりも下の階にある探偵社員ご用達の店である。
「その、試験とは云え随分と失礼な事を__」
「ああ、いえ、良いんですよ!」
「何を謝ることがある。あれも仕事だ谷崎」
「国木田も気障に決まってたもンなァ?」
「『独歩吟客』!」
異能力発動時の真似っこをしてみると、「ばっ……違う!」と帰ってきた。
「あれは事前の手筈通りにやっただけで____」
「探偵社ではともかく、ここで騒ぎ起こすのは辞めた方がいいと思うンだがなァ」
「……」
一言静止の言葉を掛けてやると、直ぐに落ち着いた。矢っ張り国木田は扱いやすい。
「ともかくだ小僧。貴様も今日から探偵社の一隅。ゆえに周りに迷惑を振りまき、車の看板を汚す真似はするな」
「俺もその他の皆もその事を徹底している。なぁ中原」
「あ〜、葡萄酒飲みてェ…」
「黙れ迷惑噴霧器!仕事終わってないんだぞ!?」
「大体お前はいつも____」
あ、これめんどくさい奴だ。
谷崎の方で何か話してッし聞くか
「改めて自己紹介すると、…ボクは谷崎。探偵社で手代みたいな事をやってます」
「そンでこっちが「妹のナオミですわっ!♪」
勢い良くぎゅっ!と抱き着いたものだから谷崎が思わず「いてっ」ッつってるじゃねェか、
「兄様のコトなら…何でも知ってますの」
「き___兄妹ですか?本当に?」
「あら、お疑い?」
「勿論どこまでも血の繋がった実の兄妹でしてよ…?このアタリの躰つきなんてホントにそッくりで……。、ねぇ兄様?」
語尾に♡が着く程の甘い声でナオミは云う。
ナチュラルに服の下に手入れて腹触ってるが見ない事にしておく。うん。
「いやでも……」
何か反論しかけた敦の肩に国木田は手を置く。
「こいつらに関して深く追及するな」
「あ……はい」
まぁ谷崎兄妹に対しての反応はそうなるわな
「そういえば皆さんは探偵社に入る前は何を?」
しん、と静まる。
「?」
「何してたと思う?敦」
「へ?」
「いやなァ、定番なンだ。新入りは先輩の前職を中てンだ。」
「はぁ……じゃあ……」
顎に手を当て、考える仕草をする。
「谷崎さんと妹さんは……学生?」
「おっ、中ッた!凄い」
「どうしてお分かりに?」
「ナオミさんは制服から見たまんま、谷崎さんの方も___齢(とし)が近そうだし勘で」
「ヘェ、やるじゃねェか。じゃァ…国木田は?」
「止(よ)せ!俺の前職など如何でも___」
「うーん…、お役人さん?」
「惜しい、此奴は元学校教諭だ。数学の先生だな」
「へえぇ!」
余り良い気分では無さそうな国木田と驚く敦はちょっと面白い。
「昔の話だ、思い出したくもない」
あ、敦の考えてる事分かる
__「ここはxの累乗を使うに決まっているだろう!!」
___とか思ッてンだろうなァ
それから、少しにや、と口角を上げて問う。
「じゃァ俺は如何だ?」
「中原さんは……国木田さんと同じ学校の先生とか!」
「違ェよ」
「無駄だ小僧、武装探偵社七不思議の一つなのだ。こいつの前職は」
「最初に中てた人に賞金が有るンでしたっけ?」
「そうなンだよなァ、だァれも中てられなくて懸賞金が死ぬ程膨れ上がってやがンだ」
「俺は溢れ物の類だと思うが、こいつは違うと云う。しかしこんな奴がどこかにふらふらと歩き回らない勤め人だった筈がない」
「俺ァめちゃくちゃ真面目に働いてたぜ?国木田」
「ちなみに懸賞金って如何ほど__」
「参加すンのか?賞典は今____」
_____七十万だ。
そう云った瞬間敦のやる気が漲ったのが分かった。
無一文だったからかこいつ金に貪欲だなァ…?
「中てたら貰える?本当に?」
「男に二言にゃねェよ。」
キッ、と目付きが真面目になったと思えば、
「勤め人(サラリーマン)!」
「違う」
「研究職!」
「違う」
「工場労働者!」
「ちがーう」
「作家!」
「違う」
「役者!」
「違う。…が、役者かァ…照れンなァ?」
「うーん…うーん……」
敦は総当りで必死に考えている。
「本当は浪人か無宿人の類だろう?」
「違ェっつッてンだろ?この件にゃ流石に嘘は着かねェよ。」
席を立って、去る素振りを見せる。
「降参かァ?じゃ、今日は手前の奢りな」
「あ゙っ!」
「嘘だよ、俺が全部払ってやらァ」
全て支払ってから、武装探偵社の事務所まで帰る。
ちょこん、と一人長めのソファに座っている金髪ショートカットの女性。
それに対し、俺も含めて計五名の内の谷崎だけが一つのソファに座り、その他俺以外はその後ろに控える。
ちなみに俺は出入口と扉前に居る。
「……あの、」
一向に話を始めない様子の我々に痺れを切らしたのか女性が話し掛ける。
「えーと、調査のご依頼だとか…それで詳細は……」
「依頼、と云うのはですね、我社のビルヂングの裏手に……最近善からぬ輩が屯(たむろ)している様なんです。」
「善からぬ輩ッていうと?」
「…分かりません、ですが襤褸(ボロ)をまとって日陰を歩き、聞き慣れない異国語を話す者も居るとか」
「そいつは密輸業者だろう。」
「軍警がいくら取り締まっても船蟲(フナムシ)のように湧いてくる。港湾都市の宿業だな」
「ええ、無法の輩だという証拠さえあれば軍警に掛け合えます。ですから、」
「現場を張ッて証拠を掴め、か。……じゃァ、敦。手前が行けよ。」
「へッ!?」
指名されるとは思ってなかったのか、吃驚している。
「ただ見張るだけなンだろ?密輸業者は無法者だが…大抵は逃げ足だけが取り得の無害な連中なンだよ。初仕事にゃ丁度良いだろ?」
「で、でも」
「谷崎が同行しろ。ナオミも着いて行っていいから」
「はい」
俺が入口側に居た理由___
何故かと云うと、女性に見覚えがあったから。
ポートマフィア、樋口一葉。
相手は俺を知らねェが、俺は彼奴を知ってる。
そこから女性が扉を開け、武装探偵社を去る時。
すれ違いざまに、盗聴器を入れる。
ただ単に敦が心配だったのもあるが…まァ、それも兼ねてだ。
「おい小僧」
「不運かつ不幸な短いお前の人生に些か同情が無いでもない。故に____」
「この街で生き残るコツを一つだけ教えてやる」
国木田は或る写真を取り出す。
そこには黒髪で、横髪の先は白く染まっている男。
ポートマフィアの“芥川龍之介”と云う男だった。
「こいつには遭うな。遭ったら逃げろ」
「この人は____?」
「マフィアだ。尤も他に呼びようがねェからそう呼んでるだけだがなァ。」
「港を縄張りにする兇悪なポートマフィアンとこの狗だよ。名は芥川」
「マフィア自体が黒社会の暗部のさらに影のような危険な連中だが、その男は探偵社でも手に負えん。」
「俺ァそいつと闘って見てェがなァ……何故か来てくンねェンだよなァ……」
そう呟くのも聞いて、敦が純粋な疑問を投げ掛ける。
「何故___危険なのですか?」
「そいつが能力者だからだ。殺戮に特化した頗る残忍な能力で軍警でも手に負えん。俺でも___奴と戦うのは御免だ」
何時もの鶴見川、何時もの風景。
「あぁ、こう云う物程綺麗なモンはねェなァ…正に“百億の名画に勝る”つッてな」
彼奴の拘束された姿程じゃねェが、と呟く。
「…」
耳にイヤホンの様な物を着け、盗聴器の音声を聴く。
『なんか……鬼魅(きみ)の悪い処ですね』
『……おかしい』
『本当に此処なンですか?ええと___』
『樋口です』
『樋口さん、無法者と云うのは臆病な連中で___大抵取引場所に逃げ道を用意しておくモノです。でも此処はホラ、…捕り方があっちから来たら逃げ場がない』
『その通りです』
『失礼とは存じますが、嵌めさせて頂きました。私の目的は___』
『貴方がたです』
『芥川先輩?予定通り捕えました。これより処分します』
『芥川……だって?』
『重畳……五分で向かう』
『我が主の為___ここで死んで頂きます』
『こいつ____ポートマフィア……!!』
機関銃の発射音が聞こえる。
助けに行っても良いが……此処は二度目の試験と行こうじゃねェか。
実践だ。
「……まァ、向かうか。」
ビルの方に向かい、自らの重力を上に向けてビルの屋上に立つ。
其処からビルからビルへと飛び移り、路地裏の方に向かう。
「……却説、此処か」
コメント
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ありがとう、神ですか?神なんですね、やばいですよ、このコメントだけ見ていたら『此奴随分と静かだなぁ」と思うかもしれませんけど私の心叫んでますよ??? ヴァァァアァアアア!!やべぇぇぇょぉぉぉぉおぉ!、!好みすぎィィイィィィ!!!!!ってはい、失礼しました、自分の好みにど刺さりで暴走しました はい神、神作、文才の天才とテーマ決めの天才かな??そうだねきっといや絶対そうだ!!! 続き待ってます!
あの、本当に本当に控えに言って言っていって言って好きですLoveです。Love Loveです!めっちゃ好きです