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「ホストに間違えるとか。キミには俺が、そんなにいい男に見えるのか」
「ち、違います! そういう意味じゃなくて!」
慌てて否定すると、男はますます楽しそうに目を細めた。
「じゃあ、どういう意味?」
「それは……その……」
言葉に詰まる。
だって、昨日はスーツ姿だったのだ。
しかも、こんな田舎町では滅多に見かけないくらい整った顔をしていて、やたらと背も高くて。
だから、つい。
「瑠菜。何を言っとるんだ、お前は」
呆れたような祖父の声に、瑠菜はハッと我に返った。
「だ、だって、おじいちゃん! 昨日この人、そこの公園にいて……!」
「ああ。聞いとる」
「聞いてる!?」
ということは、祖父は最初からこの男が誰なのか知っていたということだ。
「こちらは、久世月禎君だ。ハナザキ製パンの本社から、しばらくうちで現場研修をすることになっとる」
「本社……?」
思わず男――月禎の顔を見る。
すると彼は、昨日とは打って変わってきちんと背筋を伸ばした。
「改めまして。久世月禎です。しばらくお世話になります」
そう言って丁寧に頭を下げる姿は、どう見てもホストではない。
ちゃんとした会社員だ。
(ハナザキ製パンの人だったんだ……)
そこで瑠菜は、昨日のやり取りを思い出した。
ハナザキ製パンのパンが好きだと言った瑠菜に、月禎は〝それは良かった〟と言った。
どうしてこの人が喜ぶんだろうと思ったけれど、自社の商品を褒められたからだったのだ。
「ほら、瑠菜も挨拶せんか」
「あっ、はい!」
慌てて姿勢を正す。
「水野瑠菜です。祖父母と一緒にこの店で働いてます。よろしくお願いします」
「瑠菜ね」
「……はい」
「よろしく、瑠菜」
(いきなり名前……)
初対面――正確には二度目だけれど、男性からいきなり名前で呼ばれた経験なんてほとんどない。
思わず月禎を見ると、目が合った。
「何?」
「いえ、別に……」
なんとなく落ち着かなくて、瑠菜はすぐに目を逸らす。
そんな二人を気にする様子もなく、祖父は月禎へ向き直った。
「久世君。本社から来た人間だからといって、うちじゃ特別扱いはせんぞ」
「はい。そのつもりで来ました」
月禎は嫌な顔ひとつしなかった。
「何でもやらせてください。現場を知るために来たので」
その答えに、瑠菜は少しだけ意外に思う。
昨日の印象では、もっとこう――。
「……何?」
また目が合った。
「え?」
「今、何か失礼なこと考えてなかった?」
「か、考えてません!」
「本当に?」
「本当です!」
即答すると、月禎はふっと笑った。
「じゃあ、もうホストじゃないって分かってもらえた?」
「まだ言います!?」
「結構傷ついたんだけど」
「絶対嘘ですよね!?」
傷ついている人が、そんな楽しそうな顔をするはずがない。
むっとして睨む瑠菜を見て、月禎はまた笑っている。
(この人、絶対うちのことからかってる……!)
そんな瑠菜の気持ちを置き去りに、
「ちょうどいい」
祖父がぽん、と手を叩いた。
「?」
「瑠菜。お前が久世君に仕事を教えてやれ」
「……え?」
一瞬、言われた意味が分からなかった。
「うちが!?」
思わず自分を指差す。
ハナザキ製パン本社から来た人に。
この小さな店でしか働いたことのない自分が、仕事を教える?
戸惑う瑠菜の隣で、月禎が楽しそうに笑った。
「よろしく、先輩」
「……っ!」
どうやらしばらくの間、とんでもなくやりにくい相手の面倒を見ることになってしまったらしい。
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コメント
2件
先輩呼びにニマニマ(笑)
ああ、めちゃくちゃ面白かったです!「ホストじゃない」って言い訳から始まったけど、まさか本社の研修生だったなんて(笑) 月禎さんの余裕ある感じと、それに振り回される瑠菜さんのやりとりが絶妙で、読んでてニヤニヤしちゃいました。「先輩」呼びで終わるところとか、最高ですね〜。このギャップのある二人がこれからどうなるのか、すごく気になります!