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メルタテオスの冒険者ギルドで用事を済ませたあと、私たちは通りにある露店で一休みをしていた。
簡単な椅子とテーブルが用意してあり、露店で買ったものをそのまま食べられる仕組みだ。
「しかし、まさかポップコーンがあるとは……」
露店で買ったものは、いわゆるポップコーン……トウモロコシを炒って作るアレだ。
味付けも私の知ってるものだし、何とも身近な感じの食べ物である。
「あれ? アイナさんの国では珍しいんですか?」
「いえ、普通にありましたけど……。
いやぁ、何ていうのかな……」
ファンタジー準拠のこの世界で、まさか普通にポップコーンが売られているのは想像外……というべきか。
身近なものが、身近でない場所にある……そんなギャップ、というべきか。
「クレントスやミラエルツでも、注文すれば作ってくれますよ。
とはいえ、よく目にするものでもありませんが」
さり気ないルークのフォローがありがたい。
「私の国でもそんな感じでしたね。
置いてあるところと言えば映画館とか――」
「えいがかん?」
「っと、劇場みたいなところです。お客さんをたくさん入れて、劇を観せる感じの。
演劇とはちょっと違うんですけど」
「へー。娯楽文化も進んでいそうですし、ちょっと興味ありますね。
アイナさんの国にも、本当にいつか行ってみたいです」
写真すら敷居が高い世界で、映画を観られるようになるなんて……まだずっと先の話なんだろうなぁ。
……いや、もしかして技術的には存在する可能性があるのかも?
「エミリアさん。
何ていうかこう、『写真が動く』みたいな技術ってありますか?」
「写真が動く?
えーっと……例えばわたしたちが見ているこの光景を保存しておく? みたいなことでしょうか」
「そうそう、そんな感じです」
「それでしたら映像魔法というものがありますよ。
その場所で起きた光景を魔法で制御して、水晶のような媒体に刻み込むんです」
「へぇ、そういうのもあるんですね。すごい!」
「アイナさんの国には無いんですか?」
「そういうのは無いですね」
映像『魔法』は確かに無いね!
魔法を使わないものならあるんだけど。
「やりましたよ、ルークさん!
初めてアイナさんの国に勝ちました!」
「ははは、珍しいですね」
「はい、お祝いをしましょう!
おじさーん、ポップコーンのおかわりをお願いします!」
「あいよー!」
購入済みのポップコーンを全て食べ終わったエミリアさんが、追加の注文を出した。
いや、お祝いというかただの口実でしょ、それ。
「でも、映像も残しておけるんですね。
それって写真みたいに、撮ってくれる場所があるんですか?」
「いえ、そういう場所は無いです。
かなり高位の魔術師が、そういう術を操れる……っていうだけの話です」
「国や貴族が大切な記録を残すだとか、何か特別な手紙のような形でやり取りをするだとか、そういうときに使われますね。
つまり、庶民には縁遠い存在です」
「ふむ、なるほど……。
でも魔法でできるなら、それを錬金術のアイテムと組み合わせることってできないかなぁ」
「そうですね……。
回復魔法を封じたオーブとかはありますし、アイナさんなら作れるかも……?」
「魔法と錬金術の連携ですか。
……うーん。魔法が絡み始めると、私だけの力じゃ難しそう……」
「むむ、アイナさんでも難しいことがあるんですね」
「錬金術の分野だけなら問題ないんですけどね。
他の分野が絡むとどうにも……」
スキルで対応できないなら、知識が並以下の私には難しいことが出来るわけもない。
いつかどこかで、錬金術をしっかり勉強しないといけないかな?
でも欲しい知識はかなりの応用レベルになるだろうし、最後まで勉強が続くかは疑問かもしれない。
「――はいよ、おかわりお待ちどうさま!」
露店の主人が、ポップコーンの追加を持ってきてくれた。
「ありがとうございます! 素朴な味で美味しいですー」
「はは、ありがとなっ! それじゃごゆっくり!」
「はぁい」
エミリアさんの笑顔を受けて、露店の主人は満足げに戻っていった。
「エミリアさんってすごく美味しそうに食べるから、作り甲斐ありそうですよね」
「え? 褒め言葉として受け取っておきます!」
「えぇ? 褒め言葉以外にどう受け取るんですか……?」
「ふっ……。
いろいろあったんですよ……」
い、いろいろあったんですね……。
食事関係では量を自重させられたり、いろいろある人だからなぁ……。
まだまだ触れられないトラウマでもあるのだろうか。……よし、話題を変更だ。
「……さて。
それじゃ、これだけ食べたら宿屋を探しましょう」
「そうですね。
今日はもうゆっくりお休みしたいですし、そうしましょう」
エミリアさんは、引き続きぱくぱくとポップコーンをつまんでいる。
ちなみに私とルークはもう食べてないから、今はエミリアさん一人で食べている状態だ。
「アイナ様、メルタテオスでは冒険者ギルドの依頼は受けないんですよね?」
「うん、そのつもり。早く王都に向かいたいからね。
さっき冒険者ギルドに行ったのは、ジェラードさんの所在照会をしてきたんだよ」
「ジェラードさんの?」
「うん、連絡先がお互いに分からなかったからね。
ジェラードさんが泊まってる宿屋を教えてもらったから、私たちもそこに泊まるつもり」
「アイナさんの育毛剤の件、情報を調べてもらっていますからね。
結果を聞かせてもらわないと」
「いやいやエミリアさん。そこはミスリルの件と言って頂きたいのですが」
「あはは、どうにも育毛剤の方のインパクトが……」
「それ以外にメルタテオスでやりたいのは、魔法の本――
……ルークと魔法の勉強をしようかって話になりまして、勉強用の本を探すくらいですね」
「あれ? いつの間にそんな話に?」
「乗り合い馬車で、エミリアさんが眠っているときだったかな……」
「はい、そうですね。それはもうすやすやと眠っていました」
「ぐむむ、それは残念……!
ではわたしも一緒にお勉強します!」
「えぇ? アドルフさんからもらった属性石のナイフを使いたいからっていう話なので……。
エミリアさんはもう使えるじゃないですか」
「そ、それなら他の属性を……!」
何とか食い下がってくるエミリアさん。
勉強がしたいというか、一緒に盛り上がりたいんだろうな。
それなら――
「無理はしないでください。
それじゃ、エミリアさんは私たちにいろいろ教えるっていうのはどうですか?」
「え? わたしがですか? わたしは聖魔法しか使えませんけど――
……分かりました! 基本的な部分はそれなりに教えられると思います!」
「良かったです! ではエミリア先生、よろしくお願いします」
「先生、ですか! えへへ、俄然やる気が出てきました!
第一回の勉強会は、いつやりますか? 今晩にでも!?」
「あ、いえ。
もともとが暇潰しの話でしたので、馬車の移動中に……」
「そうすると、メルタテオスを出発したあとになりますね。
エミリアさん、そういうわけですのでしばらくお待ちを……」
「がーん! せっかくのやる気が!?
お、おじさーん、ポップコーンのおかわりお願いしまああぁすっ!」
「あいよー!」
悲しい顔をしたエミリアさんが、ポップコーンの追加を注文した。
いやいや、さっきのを食べたらもう行くって話でしたよね?
ずるいなぁ、もう。
……結局のところ、どうにも憎めないんだけど。