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ジェラードが泊まっている宿屋に行くと、三人分の部屋が取れるということだったので、私たちもお世話になることにした。
それぞれ部屋に荷物を置いて、今はのんびり食事中だ。
「それにしても、この食堂はメニューが豊富ですね」
「ミラエルツは基本的に、がっつり系が多かったですからね。
ここはさっぱりもあっさりも多いから、目移りしちゃいます!」
エミリアさんはメニューを手に取り、しっかりと読み込んでいる。
目移りも何も、もう注文は終わっているんだけど……。
「メニューの品数としては、ミラエルツと同じくらいですよね?」
「言われてみれば、そうですね。
種類は色々とありますけど、同じジャンルのメニューは少な目ですし」
「私はそういう方が好きかな? 気分でいろいろと味を選べますから」
「わたしは美味しければ、どんなジャンルでも大丈夫です!」
「あはは、エミリアさんらしい!」
……そんな話をしていると、ルークが遠くを指して言ってくる。
「アイナ様、ジェラードさんが来ましたよ」
「おっと、本当だ。
ジェラードさーん!!」
私が声を掛けると、ジェラードは嬉しそうにやってきた。
……犬かな?
「こんばんわ、アイナちゃん。
エミリアちゃんとルーク君もこんばんわ」
「こんばんわー」
「こんばんわ」
「おっと食事中だね。僕も混ぜてもらおっと」
「どうぞどうぞ。
私たちもまだいますから、ご一緒しましょう」
「うん、ありがとう。いやぁ、この街はいろいろな味があって良いよね。
ミラエルツは肉料理ばっかりでさ……」
「分かります!
がっつり系以外が少ないんですよね」
「あー、アイナちゃんも同じ感じだったんだ?
僕の場合はさらに、精神的に弱っていた時期だったから……」
「確かに……」
「ミラエルツは鉱山で力仕事をする方が多いですからね。
逆にメルタテオスは宗教関連が多いから、食事も多岐に渡るんですよー」
「へぇ?」
「宗教によっては食べられないものがありますから。
だからポップコーンみたいな、シンプルなやつも人気があるんです!」
「ははぁ、なるほど……」
元の世界でも、宗教上の理由で食事制限がある人はたくさんいるからね。
何の肉がダメだとか、いつ食べちゃダメだとか、食材の調達方法に厳密な手順が必要だとか……。
「ちなみに、ルーンセラフィス教は大丈夫なんですか?」
「はい、食事制限はほぼ無いです。
高司祭以上で、決まった時期に断食をするくらいでしょうか」
「それじゃエミリアさんは、ランクアップは出来ませんね」
「お腹が減ったときに、美味しく食べるのが一番なんです。
わたし、ルーンセラフィスの教えの中で断食だけがどうにも理解できません」
「エミリアちゃん、それって公言しちゃって大丈夫なの?」
「もちろんダメですよ!
ジェラードさんも他言無用ですからね」
「おっけーおっけー。
それじゃ墓場の中まで持っていくことにするよ」
「はい、お願いします!」
「……そんなに秘密にすることなのかな?」
「エミリアさんの中ではそうなんでしょう、きっと……」
私の疑問には、ルークが微妙な顔で答えてくれた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……さて。
頼まれていた件の報告、今しても大丈夫かな?」
食事を済ませて、雑談も一区切りしたところでジェラードが切り出した。
「あ、はい。ミスリルの件ですね」
「ミスリル?
あ、そうだね。そういえばそうだ」
「そういえばって……」
「いや、ごめん。
何だか育毛剤の件、っていう方がしっくりきててさ」
「ですよねー!」
「あ、エミリアちゃんも?
そうだよね、インパクトがね!」
むぅ、私は真面目にミスリルを探しているのに、これは何だか不本意だぞ?
「……なるほど、インパクトって大切ですね。
ささ、報告をお願いします」
「あ、うん……。えーっと、アイナちゃんの事前情報通りだったかな。
この街を治めているアーチボルド・フォン・アマリストって人が、ミスリルを23キロほど持っているみたい」
「ふむふむ」
「他の情報も合っていたよ。
いや、遠目から見てきたけど、ずいぶんと寂しさを感じる頭だったね。
あれならもうスキンヘッドにしちゃった方が良い気がしたけど……」
「他人は結局、みんなそう言うんですよ……」
「うん? ルーク君、何か言ったかい?」
「いえ何も。ささ、続きをお願いします」
「そうかい?
えっと、一通りの宗教や薬は当たってダメだったから、今は裏で懸賞金を懸けていろいろと探してるみたいだよ。
ちなみに、冒険者ギルドの依頼にもあったんだけど――」
「え? 育毛剤の作成がですか?」
「うん。ただこれは、アーチボルドさんのルートじゃなかったから注意してね。
良い情報があったらそれを自分の手柄にして売り込もうっていう、第三者の依頼みたい」
「うわ、それは紛らわしいですね」
「そんなわけだからさ。
もし良い育毛剤ができたら、僕が作ったルートで売り込んでいこうと思うんだ」
「え? もうそんなルートがあるんですか?」
「いや、仕込みにもう少し時間が欲しんだよね……。
あと2、3日は必要かな」
「いやいや、それでも早いですよ!?」
「ふふふ、ありがとう。こういうところで頼りになるのを見せておかないと!
それでアイナちゃん、育毛剤の方はできたかな?」
「あ、ちゃんとできましたよ」
私はそう言いながら育毛剤を取り出して、鑑定のウィンドウを見せた。
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【育毛剤<優しい世界>(S+級)】
育毛に若干の期待が持てるようになる薬
※追加効果:髪がフサフサになる。髪の質×2.0
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「……追加効果が、すごいね」
「通常の効果だけだと、多分いまいち効き目は無いんでしょうね……」
「まったくですね。
これはアイナ様だからこそ成せる業です」
「ふふふ♪ それでジェラードさん、これでいけそうでしょうか」
「実際の効果は見てみないと分からないけど、説明文がコレだし、そもそもアイナちゃん作だしね、問題は無いと思うよ。
……あ、でも――」
「え? 何か問題ありました?」
「いや、そうじゃないんだ。
あのさ、期間限定で髪が生える薬……っていうのは、作れないかな?」
「え? 効果を落とすってことですか?
やってみないと分かりませんけど、多分できるとは思いますよ」
「それじゃ、1日分くらいのも2つ作ってくれない?」
「大丈夫ですけど、もしかして……」
「ははは、察しが良いね。
対抗馬を立てるのが、交渉のときは大切なのさ。できるだけ高く売りつけるためにね」
ジェラードがミラエルツで、ダイアモンド原石を2つ売り抜いたことを思い出した。
……また、あれを再現するつもりだろうか。
「それじゃ今晩のうちに試してみますね。
結果は明日の朝にお伝えします」
「うん、それでよろしく!
さてと、僕はそろそろ行こうかな?」
「おっと、もうお休みですか?」
「いやいや、これからコネ作りさ。じゃぁね、お休み~♪」
そう言うと、ジェラードは宿屋の外へと消えて行った。
「……これから、お仕事ですかぁ」
「ミラエルツでもそうでしたけど、女性の方面からコネを作る人ですからね」
「……そうでしたね。
それでは良い子たちは、さっさと寝ることにしましょう」
「そうしましょう。
明日はこの街の観光と、魔法の本探しでもしますか」
販売ルートの作成にはもう2、3日が必要みたいだし、それまではのんびり過ごすことにしよう。
ミスリルが手に入れば、メルタテオスとはお別れになるんだけど――
……さてさて、どうなることやら。