…これは私が本職を始めるために1人の人を始末した話だ。
私の名前はクレデッラ・ステレージャー。かつては私も、なんの才能もなかった一般魔術師だった。その時に魔法を教えてくれたたった1人の師匠がいた。
女性にしては身長が高く、170cm前後であった。私は、彼女から魔法を教わり、授業に励み。魔法を習得していったのだ。彼女の家柄はとても良く、何より家内相続魔法は上級者の魔法の威力を跳ね除けてしまうほどのものらしい。彼女には魔法の才能があった。だから私はついていくことにしたのだ。
激しい寒さが遅い、肌にピリピリと針が指すように寒いとある日。私は師匠に教わった古本屋で、とある魔導書を見つけた。【等価交換方式魔法《トレードマジック》】禍々しいオーラを放つその本を、私は掴んでしまった。パラパラとページをめくるとわかったのだが、その薄汚れた紙切れのような薄い本は、この魔法しか扱っていなかった。と、どうじにこの魔法はこの世には不要なものだとされていた。等価交換方式魔法は本來、廃れたものではあったのだが、その要因は魔法史に関係しており、瞬間移動魔法《ワープ技術》が発達したことによる、場所交換の不要性、呼び寄せによる物体の条件交換への不要性が1人の魔術師により公言されたことで必要としなくなってしまった。今やこの魔法を覚えている人などいやしないし、使う人もいないだろう。私はその魔法を覚えてみることにした。
本の内容は全て、一時期使われていた古代文明文字で記されていた。私は生憎、古代文明文字に関しては授業で習っており、基礎からその応用、文法までマスターしていたので読むのに手間などかかる余地もなかった。寧ろ、あっさり読めてしまった。そして私は考えた。「この魔法は私だけの魔法にしてしまおう。」そうなると話は早かった。持っていた未だ使いこなせぬ赤い魔石をはめた杖を持ち、あらゆる物と世界にある全ての等価交換方式魔法の魔導書と交換して回ったし、自分の記憶を一部用いて、こっそりと特定した魔法使用者の記憶も消した。そうして私は力を手に入れた。尽力し続けたのだ。
ある時、師匠は私に向かっていった。
「貴方の作戦は私は見抜いてる。私はあなたのことを報告して、貴方を奈落の底に落としたあと、私は幸せになるの。」
薄暗くなった夕方の森の中で、カラスが飛んでいく音が鮮明に聞こえた。なんてことだ。気付かれていたのか。私は始末せねばと思った。未来の私のために。あぁ、利益のために。詳しく話さなかったが、師匠は私のことを弟子という立場を使って、散々こき使ってきた。何もかも本來師匠がやらねばならぬことは私がやってきた。そう言えば…仕返しがまだだったな。あのときの私は行動派だった。自分に不具合なことがあるとすぐ動いた。今も例外ではない。
それはあり得ないほどに静かだった。首の切断される音さえ無ければ。私は使ってこなかった。人に対して等価交換をするとどうなってしまうのか。師匠の頭は私の腕にあった。いや、正確に言うならば私が持ち上げていた。そして、師匠の頭には鋭利な刃物だけが突き刺さっていた。どよめく様子もなく、森はただ、淡々と見張っていたのだ。一方私もボーッとしていた。
「処理どうしよう」
なんて考えていた。あっけなかった。魔法で抵抗しようにも、弟子の最近の持ち魔法すら知らない愚か者には、ある意味救済だったのかもしれない。今後、私みたいなどうしようもない引っ掛かりが出た時、それは二の舞いを意味する。早めに処理しておくのが正解だったのだ。私は師匠の…いや、違うな。ただの死体を金貨に変えた。
静かだった森に一本の列車が通った。
その列車が私の運命を大きく変えた。それはまた、今度。