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🫧想美🎐🍏
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#だけなんだ
だけなんだ
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だけなんだ
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部屋が静まり返る。
窓の向こうでは、夜景が静かに瞬いていた。
誰も口を開かない。
鈴木はただ、自分の拳を見つめていた。
合六は急かさない。
答えを催促することも、追い詰めることもしない。
ただ穏やかに微笑んでいる。
その余裕が、かえって恐ろしかった。
「返事は、今じゃなくていい」
静かな声だった。
「考えてからで構わない」
少し間を置いて、続ける。
「でも君は──もう普通には戻れないだろう?」
鈴木の眉がわずかに動く。
否定したかった。
けれど、その言葉だけは喉に引っかかった。
合六は続ける。
「復讐を知った瞬間、人は少しずつ変わっていく。」
「怒りは、人を前にも進ませるけど……同じだけ、人間から遠ざけてもいく。」
説教ではない。
慰めでもない。
ただ、何人もの壊れた人間を見てきた者が語る”事実”だった。
「鈴木くん」
合六が首を少しだけ傾ける。
「君は──”チョモ”だった頃に戻りたいかい?」
その名前が耳に届いた瞬間。
呼吸が止まる。
『チョモ〜!』
『かわいいー!』
『泣いちゃったぁ』
画面越しの笑い声。
泣いている自分。
みんなと無邪気に笑いあった日々。
だけどもうそれはない。
鈴木はゆっくり目を閉じる。
そして、小さく吐き捨てた。
「……戻りたくねぇよ」
合六は静かに頷く。
「そうだろうね」
当然の答えを聞いたように。
「だったら、前に進むしかない」
その言葉は優しかった。
だからこそ重かった。
鈴木は拳を握り締める。
「……あんた、一体何なんだよ」
合六は少しだけ目を丸くする。
「どうした?」
「なんでそんな……」
鈴木は言葉を探す。
「人のこと全部分かったみたいに言うんだ」
合六は少し考えた。
それから、ふっと笑う。
「似てるからだよ」
穏やかな声。
「私も昔は、何も持っていなかった」
静かな言葉だった。
「居場所も」
「名前を呼んでくれる人も」
「帰る場所も」
「何一つね」
鈴木は黙っていた。
合六は微笑む。
「だから分かるんだ」
「居場所を探してる子の目は」
その笑顔はどこまでも優しい。
けれど。
その優しさは、人を救うためではなく。
“壊れたまま受け入れる”ための優しさに見えた。
その時だった。
扉が軽く叩かれる。
『失礼します』
霧矢の声だった。
「どうぞ」
扉が開く。
「終わったッスか?」
いつもの笑顔。
けれど鈴木と目が合った瞬間だけ、その瞳がほんの少し揺れた。
合六は立ち上がる。
「直斗」
「鈴木くん、借りることになるかもしれない」
その一言に。
霧矢の笑顔が、ほんの一瞬だけ止まった。
本当に、一瞬だけ。
けれど鈴木は見逃さなかった。
「あは」
霧矢はすぐ笑う。
「スカウトッスか」
「そんなところ」
合六は穏やかに頷く。
「どう思う?」
霧矢は答えない。
数秒。
静かな時間が流れる。
それから、小さく笑った。
「向いてるとは思うッス」
軽い口調。
「でもまだ甘いッスね」
合六は満足そうに微笑む。
「そこがいいんだよ」
「壊れ切ってないから」
霧矢は何も返さない。
ただ少しだけ視線を落とした。
その横顔は。
どこか寂しそうだった。
⸻
帰り道。
車内は静かだった。
ワイパーが一定のリズムで雨を払っている。
霧矢は珍しく鼻歌も歌わない。
鈴木は窓の外を眺めたまま聞く。
「……なんでお前、あいつにあんな懐いてんの」
霧矢は少しだけ笑う。
「拾われたから」
「それだけか」
「うん」
即答だった。
赤信号。
車が止まる。
赤い光が霧矢の横顔を染めた。
「オレさ」
ぽつりと呟く。
「昔、誰にもいらないって言われたんだよねぇ」
鈴木は何も言わない。
霧矢は続ける。
「親にも」
「施設にも」
「社会にも」
少し笑う。
「気持ち悪いって」
「普通じゃないって」
「そのままじゃ生きていけないって」
雨粒がフロントガラスを流れていく。
「でも」
霧矢は笑った。
「合六サンだけは違った」
その笑顔は、いつもよりずっと幼かった。
「“そのままでいい”って」
「“無理して普通にならなくていい”って」
「初めて言ってくれた」
鈴木は黙って聞いていた。
「だから好き」
「必要としてくれたから」
その言葉は忠誠というより。
迷子だった子どもが、ようやく家を見つけた時みたいだった。
鈴木は小さく息を吐く。
「……それ、依存じゃねぇの」
霧矢は考える。
そして笑う。
「そうかも」
否定しなかった。
「でもさ」
少しだけ遠くを見る。
「依存でもいい。とにかくこの人についていきたいって思えた人、初めてだったから」
車がまた走り出す。
鈴木は窓へ視線を戻した。
雨で滲む街灯。
その景色を見ながら、もう一つ聞く。
「……冬橋は?」
「ん?」
「合六のこと、どう思ってる」
霧矢はハンドルをゆっくり切る。
「恩人だろうねら。たぶん」
短く答える。
「でも」
少し笑う。
「冬橋サンは組織に染まりきらなかった」
「どういう意味だ」
霧矢は前を向いたまま言う。
「冬橋サンって」
静かな声。
「まだ人を信じること、諦めてないから」
雨音だけが響く。
「だからオレとは違う」
「まぁ、冬橋サンはこんなヤバイやつじゃないからねぇ」
そう言った後少し間を置いて。
「でも」
霧矢は笑った。
「オレ、冬橋サンのそういうとこ好き」
その声は。
お気に入りのおもちゃを褒められた少年のように、どこか照れくさそうだった。
⸻
しぇるたーへ戻る。
玄関を開けた瞬間。
カレーの匂いが鼻をくすぐった。
子どもたちの笑い声。
テレビの音。
誰かが廊下を走る足音。
さっきまでいた世界とは、まるで別の場所だった。
台所から冬橋が顔を出す。
「遅かったな」
その一言だけで。
鈴木は、自分の肩から力が抜けるのを感じた。
安心している。
そんな自分に気付いてしまう。
「冬橋サンっそのカレー自分で作ったんスか!?」
「んなわけねぇだろ」
「マチの作り置きだ」
「やっぱそうッスよねぇ」
「直斗。一旦黙れ」
「はーい」
二人のいつもの話を聞いていると、冬橋が話しかけてきた。
「どうだったんだ?合六は」
「……話してきた」
冬橋は鍋をかき混ぜながら頷く。
「勧誘されたか」
「……なんで分かる」
「合六はそういう奴だからな」
静かな声。
「壊れかけを見ると、拾いたくなる」
「前にそう言っていた」
鈴木はソファへ腰を下ろす。
体より先に、心が疲れていた。
冬橋が振り返る。
「お前は、どうしたい」
責める声じゃない。
試す声でもない。
ただ、本当に鈴木自身の答えを待つ声だった。
鈴木は俯く。
復讐したい。
でも壊れたくない。
普通でいたい。
けれど、その”普通”がもう思い出せない。
長い沈黙が流れる。
やがて鈴木は、小さく呟いた。
「……居場所って、なんなんだろうな」
冬橋の手が止まる。
霧矢も鈴木を見る。
誰も答えなかった。
答えを知っている人なんて、この部屋には一人もいなかったから。
それでも。
カレーの匂いと、子どもたちの笑い声だけは変わらず流れている。
その何気ない日常だけが。
鈴木にとって、今はまだ失いたくない”居場所”なのかもしれなかった。
コメント
1件
うわ…第18話、すごく重くて温かい話だったね🥀 合六さんの「壊れたまま受け入れる優しさ」が本当に怖くて、でも鈴木くんには必要な言葉なんだろうなって思った。霧矢くんの過去がチラッと見えたところもグッときた…「依存でもいい」って言える相手がいるって、ある意味幸せなんだろうね。 最後のカレーの匂いとか冬橋さんの「お前はどうしたい」って問いかけが、ちゃんと日常に引き戻してくれて。ああ、ここが今の鈴木くんの居場所なんだなってじわじわ来たよ。 続き、読みたい…でも怖い、複雑な気持ち🌙