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🫧想美🎐🍏
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#だけなんだ
だけなんだ
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だけなんだ
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「いただきまーす!」
子どもたちの元気な声が、一斉に食堂へ響いた。
湯気の立つカレーが並び、
ぎこちなくスプーンが皿に当たる音が響く。
テレビから流れるバラエティ番組の音も。
たくさんの笑い声も。
「なおとー! 福神漬け取ってー!」
「はいはい、ちゃんと噛んで食べなよぉ」
霧矢が笑いながら小皿を差し出す。
エプロン姿。
袖をまくった腕。
金髪を無造作に結んでいる。
その姿だけ見れば、ごく普通の青年だった。
──だけど。
鈴木は知っている。
その手で、人を何人も撃ち殺してきたことを。
その笑顔のまま、命を奪える人間だということを。
その事実だけが、この温かい食卓からひどく浮いて見えた。
「鈴木クン、お皿」
呼ばれて、反射的に皿を差し出す。
「ありがとぉ」
霧矢は何気なく受け取り、手際よくカレーをよそう。
その動きは妙に慣れていた。
子どもの一人が、霧矢の背中へ勢いよく飛びつく。
「なおとー! おかわり!」
「はいよぉ」
結構勢いよく飛びつかれたにもかかわらずバランスを崩すこともなく、そのまま器用に盛り付ける。
僕なら床に激突していただろう。
「今日は多め?」
「いっぱい!」
「じゃあいっぱいねぇ」
子どもが嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ても、霧矢の表情は大きく変わらない。
ような気がしたけど。
よく見ると少しだけ口元が緩んでいた。
霧矢がよそい終わった後、鈴木は思わず聞く。
「……お前、子ども苦手じゃねぇの」
霧矢はきょとんとした。
「別に?」
「でも、お前……」
言葉を探す。
「子どもの気持ちとか、よく分かんねぇんだろ」
「あー」
霧矢は少し考える。
スプーンを持ったまま、首を傾げた。
「分かんないけど」
少し笑う。
「嫌いではないよぉ」
隣を通った子どもの頭を、ぽんと軽く撫でる。
ぎこちない。
でも、乱暴ではない。
鈴木はその手元を見つめる。
霧矢は静かに続けた。
「ガキってシンプルだから」
「……?」
「好きも嫌いも、すぐ顔に出るし」
カレーをよそいながら笑う。
「裏表がないからねぇ」
その一言だけ、少しだけ静かだった。
「大人ってさ」
「笑いながら近付いて」
「平気で利用して」
「いらなくなったら捨てるじゃん」
鈴木の頭に、昔の景色が浮かぶ。
カメラのシャッター音がなる。
フラッシュが光る。
『チョモ笑って〜!』
『泣いてるほうが可愛いって!』
笑っているのは、大人たちだった。
当時の僕は気付いていない。
もしも霧矢が僕と同じ状況に立っていたとしたら。
僕よりうまくやるのだろうか。
大事なことにすぐに気付けるのだろうか。
そんな考えが脳をよぎったけどすぐに消した。
「だからガキ見てる方が楽」
ぽつりと言う。
「単純だから」
その言葉を聞いて。
鈴木は少しだけ理解した。
霧矢は子どもが好きなんじゃない。
子どもの”分かりやすさ”に安心しているんだ。
その時。
「直斗」
冬橋が台所から顔を出した。
「また山盛りにしてるだろ」
「育ち盛りッスから」
「限度考えろ」
「えぇー」
子どもたちが笑う。
「冬橋ケチー!」
「ケチじゃねぇ」
「腹壊したら誰が面倒見ると思ってんだ」
食卓が笑い声でいっぱいになる。
鈴木はその光景を見つめていた。
平和だった。
信じられないくらい。
まるで。
ここだけ世界から切り離されているみたいだった。
その時。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。
笑い声が止まる。
霧矢の笑顔も消えた。
冬橋がゆっくり立ち上がる。
子どもたちが不安そうに顔を見合わせる。
霧矢はすぐ笑った。
「大丈夫だよぉ」
しゃがみ込み、一人一人の目を見ながら言う。
「みんな、リビングでテレビ見てようか」
「なおとは?」
「すぐ戻る」
その一言だけで。
子どもたちは素直に頷いた。
鈴木は少し驚く。
霧矢は感情が分からない。
それなのに。
子どもを安心させることだけは、妙に上手かった。
冬橋が玄関を開ける。
黒いスーツ。
組織の男だった。
男は静かに頭を下げる。
「合六さんからです」
冬橋の目が細くなる。
「……何だ」
「ルージュの居場所が判明しました」
その瞬間。
鈴木の心臓が大きく脈打つ。
男は淡々と続ける。
「今夜」
「港の倉庫街で取引があります」
冬橋は短く確認する。
「確定か」
「はい」
静寂。
その沈黙を破るように。
「えぇ……めんどくさぁ」
霧矢が肩を落とした。
「せっかくカレーだったのに」
その軽さが逆に空気を重くする。
鈴木の拳が自然と握られる。
ついに。
ここまで来た。
ルージュ。
凛子を殺した女。
何度も夢に見た相手。
冬橋が静かに聞く。
「……行くか」
鈴木は迷わなかった。
「行く」
その声は、自分でも驚くほど迷いがなかった。
霧矢はめずらしく笑わなかった。
鈴木を見つめたまま、小さく息を吐く。
「……何だよ」
霧矢はしばらく黙っていた。
それから。
少しだけ笑う。
「別に」
その笑顔は。
いつもより少しだけ弱かった。
「鈴木クン」
静かな声。
「ほんと、戻れなくなりそうだなって」
鈴木は何も返せなかった。
戻る場所なんてない。
ずっとそう思ってきた。
だけど。
ふと振り返る。
まだ湯気の立つカレー。
テレビを見て笑う子どもたち。
「なおとまだー?」
と呼ぶ声。
「しぇるたー」という、小さな居場所。
──帰ってきたい。
その想いが胸をよぎった瞬間。
鈴木は初めて気づいた。
自分にはもう、失いたくない場所ができてしまったのだと。
だからこそ。
今夜向かう港で、自分は何かを失う気がしてならなかった。
コメント
2件
第19話、読み終えたよ…。カレーの湯気と笑い声の温かさの中にある、霧矢の“裏表のない子どもの方が楽”っていう言葉、すごく刺さった。あの笑顔の裏にある重みを知ってるからこそ、食堂のシーンが切なくて。ラストの「戻れなくなりそう」「失いたくない場所ができた」って鈴木の気持ち、胸にぐっときたよ…。次が気になる😢