テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「うっし、あんたらまずは試験突破おめでとうやで。こっからはこの本部を自由に使ってええ感じになる」
合格者全員が部屋に入ってきた後、久東が部屋に入りこう言った。
咲は瓜香が合格したと聞いたとき本当に喜んだし、瓜香が部屋に来たときは押し倒しそうな勢いで思いっきりハグした。瓜香はかなり驚いて倒れそうになっていたし、咲をすぐさま引きはがしたが、咲にはただの照れ隠しにしか見えなかった。
「東支店と一部の奴らは超異力を持ち込んで突破したやろけど、今回の試験で初めて超異力を貰った奴は解析しにいかなあかんで。えっと……二人?来てくれん?」
「あ、はい」
「分かりましたっ!」
咲ともう一人の少女は、久東について行って診療室みたいな部屋に向かった。
少女はシスター服のような服装で、真っ白い肌が余計に神秘的な雰囲気を醸し出している。
実際十字のキーホルダーを身に着けているのでシスターなのかもしれない。
シスターの頭の後ろについてる謎の布が大きなレースになっていて、とても綺麗だ。
涙の跡がついているので、泣いていたんだろうか。
おそらく瓜香の後に合格した八番目の北支店から来た人だと思われる。名前は憶えていないが。
「”ハッカーちゃん”、今年は二人しかおらへんから頼んだで」
「二人ィ!?何があったんだい!」
「なんかえぐい強い奴がおってな。てかいっぱいおる」
「わったしの仕事はどうなるんだー!」
「……誰?」
「あ、こんちゃっす。佐鳥愛衣って言います。君らの……三回上?くらい。変な猿倒してから超異力を解析できる超異力をゲットしましてね、君らの超異力がどんななのかを判明させる仕事をしてる」
「ほぇー」
「ハッカーちゃん、さっさと仕事してや」
「おけす。えっと、咲ちゃん?とりあえずそこ座って」
佐鳥は大きな丸眼鏡をかけて白衣を着ているどんくさそうな女だ。ぼさぼさの髪をとりあえずお団子にしている感が凄い。
佐鳥が顎で指した椅子に咲は腰掛ける。
咲の腕は佐鳥に握られ、その後一瞬黄色く発光し、元に戻った。
佐鳥は少し目を逸らし、パソコンに何やら打ち込むが、backspaceキーに小指が固定されているので事前に打つ文面を決めているわけではないらしい。
打っては消し、打っては消しを繰り返し、しばらくして馬鹿大きい音でenterキーを押した。
「うっしゃ!!……にしても君の超異力難しいね」
「どんなんなんですか?」
「私に降りて来たイメージは。無数の……魂って言うのかな、それが君の周りで蠢いている。それらを君はさも当然かのように従え、腕とか炎とかを具現化させて戦っている。……こんな感じ。何言ってるかわからんだろうけど、多分『怪異から魂を抜いて、それに応じた特殊技能を使える』っていうのが君の超異力」
「?????????」
「いや、まぁ実際使ってみたら分かるんじゃないかな。とりあえず今はまだ使えないみたいだけど」
「なんじゃそりゃ……」
「こっから新しく怪異を倒したら魂を使えるみたい。ま、今はほぼ無能力ってことで」
「えー!ハズレかよ」
「佐鳥、次の奴頼んでええ?」
「あ、うす。見楽ちゃんだっけ、ここ座って」
咲は見楽と呼ばれた少女が解析されるのを見つつ、おじいちゃんの話を何となく思い出していた。
誰にでも魂は存在する。
昔あった実験で、人間の死体から抜けていく魂の重さを調べるものがあったが、それによれば魂の重さは21gらしい。
その21gというちっぽけな数字の中に、その生命の生き方や感情が全て詰まっているのだと。
DNAや脳の回路とはまた違う何かが。
言うなれば使命だろうか、神によって与えられた使命。もしくは、未練。
それを操れるなら、それは怪異そのものを操るとも言えそうだが。
いや、そのものとまではいかずとも、一部の能力くらいは操れるのかもしれない。
咲はまだ見ぬ異能力に思いを馳せた。
見楽の解析が終わると、なぜか久東も解析されていた。理由は知らない。
「……そろそろですね、久東さん」
「いつくらいになりそうとか具体的な数字はないん?」
「前よりは確実に近づいている、くらいにしか……。というか、久東さんの事例なんて初です」
「まぁ、せやろな。……はぁー、ほんまに最悪や。仮に私が”そうなった時”、ここでいっちゃん権力持つのってぐーたら壊やろうし」
「私以上に怠惰ですよねーあの人」
「あ、あの……」
見楽が耐えきれずに口火を切った。意味の分からない会話を繰り返されては仕方がない。
「あ、悪いな。ええと、さっきのは気にせんでもろて。じゃ、行こか」
「気になるー!」
「秘密事項や。知りたきゃ店長になりや」
「どうやったらなれるんですか」
「んー……現店長に空きが出たら、私が強いなー思た奴を指名する。そんだけ」
「新人にはなれなそー」
「そゆことやな。よし、合格者と合流したら諸々説明するで」
*
「レディースエーーーーンジェントルメーーーーーーン!!!!」
「選抜試験合格者の皆様!!まずはその栄光ある合格に拍手をッ!!」
久東?え久東?というのはさておき、再び会議室に集められたのは八人の合格者たち。
前方のホワイトボードに名前が記されている。一名黒塗りになっているが……
「というのは冗談として、あんたらのここからの流れをかるーく説明するで。まず、ここに集めたのは自己紹介の為や。あんたらで軽くでええから自己紹介しとき。それが終わり次第ーー」
「ーー第二選抜を紹介するで」
「第二……選抜?」
「ま、まずは自己紹介しとき」
ホワイトボードに久東が何か書き始める。
走り書きで「じこしょーかい ①なまえ ②超異力 ③支店 ④すきなこととか」と記されている。
全員が様子を伺う姿勢に入った時、メガネが口火を切った。
「選抜抜けた順にしません?」
「俺パス」
真っ先に否定したのはご想像通り葉泣である。彼はその後イヤホンを取り付け机に突っ伏した。
あの事件もあってか、葉泣は完全に恐怖の対象として見られている。咲だってこの状況が嫌だし葉泣にガツンと言ってやりたい気持ちもあるが、悲惨な現場を思い出すとどうにも動けない。
となれば二番目に合格した無光から始まるわけだが、明らかに怪訝そうだ。ここで変なこと言って怪異とバレたくないのだろう。
何度か無光と目が合っている。怪異には目が合ったら気まずいという概念がないのか、しょっちゅう無光は咲と目を合わせに来る。そして毎回距離感がバグっているので、咲は心が休まらない。
無光は躊躇いながらも話し出した。
「……仇桜無光だ。超異力は”体に自在に閃光を纏わせられる”。西支店。好きなこと……話すことかな、民と」
民?たみ……?
「つつつ次わわ私ですかねぇ?!」
もっと勢いがやばい女がいたおかげで民が消された。
やかまし女は先程会った佐鳥と同じような感じで、ぼさぼさの髪をそのままおろし、伸びきった前髪で表情すら見えない。
貞子だろうか。貞子を倒した人というより貞子そのものみたいな感じがする。
「琳桃蘭です!ま、まあ私のことなんて何も興味なくて当然ですけどね!あの、えと、超異力は”苦しまずに敵を倒せる”能力で、南支店から来ました!あは、南支店の人誰も居なくてボッチになってます、まあ元からですけどね!すすす好きなことは……」
「コスプレ、なんちゃって……。あ、はは、ただのオタクがイキってすみませ、ほんと!あはは!気持ち悪いですよねコスプレとか!誰が私なんかのコスプレに興味あんだって話ですよね!!はは!!」
誰かこの流れを止め……
「次~」
サンキュー。
「斎吟。敵に自分の負の感情を押し付けられるよ~。東支店から来た~」
どこか間延びした話し方をする少年は、半そでの何かバンドのグッズっぽい服とジーパンのよくあるスタイルだ。
しかし、包帯を大量に腕に巻いていて、虐待を疑う。
さらに目を引くものと言えば……
「宇宙人と交信することが好きなんだ~。みんなは知らないだろうけど、政府の機密情報にもアクセスできる宇宙人を僕は今味方につけてて、それによれば2025年7月5日に大地震がーー」
頭に巻かれているアルミホイル。そして、右手に持っている緑色のボタンと赤色のボタンがあるリモコン。
ある意味、葉泣より怖い奴が来たかもしれない。
みんなざわつきそうでざわつかない。というか、ざわつけない。話を聞いていない筈の葉泣も心配そうに吟を見つめている。
無光が真剣に聞き入ってしまっている。悪い人間を学習させないためにも、咲はさっさと話を切った。
「ーーはい。私は枝野咲。魂を操る?超異力を持ってる……らしい。西支店から来た。好きなことは……うーん……食べることと寝る事?よろしくね」
なんてまともなんだ!ごく普通のありきたりな自己紹介だ!咲は嬉しい。というか、まとも寄りの感性の持ち主はみな万歳して喜びたいくらいだった。
「次は俺ですか?海里氷空です。長所として挙げられる点として再装填が要らない能力を持ってます、話すと長くなるので後で詳細をまとめてメールに送付しておきます。東支店より参りました。好きなものは休日です」
会社が抜けきっていない。明らかにブラックな方の会社の予感。
見た感じ社会人っぽい人は氷空くらいしかいないので、もしかすると最年長かもしれない。
まあ、もしかしたら桃蘭が……そんなことないか。
「花里瓜香よ。怪力を持てる超異力だわ。支店は東支店。好きなことは……お菓子作りが大好きよ、ここだと作れるかしら。よろしくね」
瓜香がまともで助かった。というか、お菓子作りが大好きよ!とか逆にキラキラしすぎていて怖いくらいだ。
陰代表・桃蘭はすっかり怯えている。可哀想に。
「さ、最後は私ですかねぇ……?修善見楽って言います、癒しを与える……ええと、回復できます!北支店から来ました、なので皆さんとは初対面だと思います!それで……好きなことは」
「私の家は教会なんですけど、そこで色々な歌を歌うことが好きです!お天気がいいとお外に行って、洗濯物を干したりしながら歌を歌うんです、とっても楽しいですよ!……あ、話しすぎちゃいました、すみませんっ!」
あまりのキラキラパワーに咲は頭痛がした。桃蘭は逃げるようにしてトイレに駆け込んだ。可哀想に。
そして本当にシスターらしい。そういえば、咲の家から歩いて10分ほどの公園の隣に教会があったような気がする。
大きい十字架が掲げられていて、三角屋根の小奇麗な家。思えば幼稚園もあった気がする。咲はそこではなかったが。
近所にある教会なんてそこくらいだし、あそこの住民なのか。となれば、どこかで会ったことがあるかもしれない。
桃蘭が逃亡終了した時点で、久東は話し出した。
「自己紹介あんがとな。よし、じゃあ第二選抜について。まず前提として、第二選抜の結果がどんなになろうとあんたらの選抜試験合格、そして店員になれるということは取り消されん。第二選抜はあんたらの『強さランキング』を決める為だけに行うで」
「第二選抜はゲームで言うたらPvP。合格者同士で戦ってもらう。ただし絶対殺さんように。監視は付いとるからな、葉泣?」
「……」
「ま、ええわ。……んで、倒れてから10カウント経っても動かんかった場合、脱落って方法を取るで。これで強さランキングを決めて、それに応じて4人のチームを2つ作る。一人で怪異討伐に向かわせるなんてこと、合格者にはせぇへんから」
「ルールはそんなもんや。三日後に行うから、それまで色々準備しとき。じゃ、私ら店長がここ使うから、あんたらはさっさと退散やな」
特にその言葉に抗う理由も見つからなかったので、合格者らは会議室を後にした。
*
「どうなるやろなー今回」
「春部みたいになるんじゃないっすか?葉泣の一強っすもん、今年」
「春部……可哀想な事したなぁ思て、いまだに心が痛むわ」
「あれ、人の心あったんすか?」
「あるに決まっとるやろが!」
「……富良野はー?」
「え、そういえばいなくないっすか」
「そろそろ戻ってくるはずやねんけどな……ちょっと心配やな」
「探しに行くほどのことでもないんじゃないのー?」
「あの富良野やぞ?無遅刻無欠勤の富良野が二時間半の大遅刻とか不安でしかないんやけど」
雨好は今不合格者らを”処理”しに向かっている。
この役目は誰もやりたがらないから、雨好が仕方なくやらされているのだ。
しかし、偉いことに毎回きっちりと業務をこなしている。
流瑠も壊もそんな勤勉な雨好を好んでいるようだが、美王の目には無理をしているようにしか見えなかった。
雨好とは異世界に来る前から知り合っていたし友人だった。
そのうえで言うが、雨好は優等生なんかじゃなかった。
いたずらだってするし、サボりだってするし。
だからこそ、雨好に無理をさせている状況が嫌いでしかない。
さらに言えば、この状況を変えようとしない流瑠と壊すらも嫌いだった。
「探しに行けと?」
「せやな」
「須田行っといてー、あとこれも」
壊は美王にカメラを渡した。
その意味を理解した瞬間、美王に深い戦慄が走った。
*
「あのー、僕たちはこれからどこに」
「……」
不合格者たちが行くところなど一つしかない。
エデンホール。怪異たちが湧き出てくる穴である。
今のところ、底すらも見えない。
我々怪異討伐部隊の最終目標はエデンホールを制圧すること。そのためにも、”降りられるくらい底が浅くないといけない”。
エデンホールは今開閉式の扉(エレベーターの扉のような物)で閉じられている。
しかし、上から見れば扉と気付けず、ただの地面にしか見えない。
そう、ただの地面にしか見えない。
雨好は震える手でレバーを引く。
数多の悲鳴が穴の奥に消えていく。
この悲鳴たちが少しずつ底になる。
やがて、死体の山は地面になる。
その地面を踏みしめて戦う。
それ以外の方法は見つからなかった。
この異世界はまともに考えるには狭すぎるんだ。と、雨好は思う。
人脈も、物理的な広さも。
始めはみんなまともなんだ。この選択に、方法に狂っていると思う。
でも、みんな圧縮されたんだ、今下に”逝った”人たちのように。圧縮を繰り返して、まともな部分は小さくなってしまった。
雨好はまだ自分はまともだと思っている。しかし、それだって違うかもしれない。
雨好は踵を返そうとする。こんな狂った空間に居たくはない。しかし、今回は何か違った。
雨好は足を止める。誰かに声をかけられた。いや、誰かじゃない、何かに。
「よぉ、嬢ちゃん。こういう時ニンゲンは、お勤めご苦労様、って言うんだろ?」
出た。
話しかけてきたやつは通称ハサミ男。その名の通り、手足が全てハサミの刃になっている。
そして、この男、いや、怪異、異常に強い。
ハサミ男に出会った店員は死ぬ。こいつの仕業で、雨好の同期も、流瑠の同期も、とにかく色んな人が死んだ。
というか、確定で死ぬせいで情報が全くない。こいつの実力は計り知れないのだ。
「出たな、例のハサミ男!」
「ハサミ男?そんなだっせぇ名前があってたまるかよ。俺にはちゃんとした名前があんだぜ?忘れたけどな!」
「……僕は南支店店長・富良野雨好だ。ここでお前を倒す!」
「おお。せめて名前だけでも覚えて帰れってか?俺に殺されてった奴らはみんなそう言ってたな。ま、俺は自分の名前すら憶えてねぇんだから、お前の名前なんて覚えてられねぇなァ!」
ハサミ男は雨好に急接近し、両手の刃を突き刺す。全員殺してきたにしてはあまりに単調な動きに雨好は驚いたが、それならと体の向きを変えてかわし、そしてハサミ男に向かって炎を発現させ、投擲した。
しかしそんな見え見えの攻撃はハサミ男には当たっていないらしく、ハサミ男がいると思われていた場所はがらんどうになっていた。
こういう時、知性のある怪異は大抵背後に回って奇襲を仕掛けてくる。それを逆手にとって、雨好は設置型の火柱を置いた。
雨好は炎を火種から出している。ので、火種をどこに置いても炎は上がる。
雨好はそういう設置技もできたりで汎用性の高い戦いを仕掛けられるところが評価されて店長になった。
ハサミ男は火柱に引っ掛かり、真っ赤な炎の黒い部分となる。雨好は攻撃が効くことに安堵したが、同時に戦慄した。
「いってぇなー……設置か。面白れぇ事すんなぁ……使うか」
何かを踏んだ感覚があった。カチッ、という音がする。
その瞬間、雨好の足元は銀色の剪定鋏になっていた。
「うっ……そ」
回避することも、防御することも出来ず、雨好は足からそのまま貫かれる。
じわじわと迫る死に、雨好は初めて怯える。
現世で重い病気を患い手術を受けている弟のためにお金が欲しかった。
偶々金持ちがすぐそばにいた。
その金持ちに貸してもらった……信頼を溝に捨てて。
痛い。
美王と二人で約束した。いつかこの生活から抜け出そうと。
美王に言った。「やられっぱなしじゃ嫌だよね」と。
流瑠に気付いてもらえたら、それで壊から逃れられたら。
その時は二人で。
「みっ……」
「おお?」
ハサミ男はもう一人の刺客に大げさに反応し、向き直る。
「雨好……」
「今日は豊作だなァ」
半ば放心状態でカメラを構える美王がそこにはいた。