テラーノベル
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好きすぎるから。
桃
赤
紫
「……ふんっ…」
パソコンの前で仕事のメールを打っていると、後ろから怒ったような声が聞こえた。
ちらっと振り返ると、ソファの上で莉犬が毛布にくるまって、ぷいっとそっぽを向いている。
「……」
明らかに不機嫌な空気。
「莉犬ー、どうした?」
「……いいもんっ」
ぶっきらぼうな返事。顔も合わせようとしない。
(また始まった……)
午前中はべったり甘えてきてたのに、ちょっと目を離しただけでこの拗ねっぷり。
理由は、なんとなくわかってる。
「仕事もうちょっとで終わるから、ちょっとだけ待ってて?」
「……いつもそれ。さとちゃんばっか、おしごと」
「今日の分終わったらちゃんと遊ぶって言ったじゃーん」
「……」
莉犬は完全に目をそらしたまま、毛布の中に潜り込む。
(あーあ、やっかいなモード入った……)
俺は仕方なく、スマホでなーくんにメッセージを送った。
《ヘルプ。莉犬、拗ねました》
《www 今から寄っていい?》
《ぜひ》
しばらくして、玄関がノックされた。
「はーい」
扉を開けると、なーくんがグミの袋を片手に立っていた。
「おじゃま〜。拗ね莉犬、出動したって聞いたからおやつ持ってきた!」
俺が笑って肩をすくめると、なーくんは靴を脱ぎながら言った。
「どこでへそ曲げてるの?」
「ソファの毛玉になってる」
なーくんが近づくと、毛布の中からぴくりと反応があった。
でも、莉犬は出てこない。
「莉犬く〜ん、グミ持ってきたよ〜。赤いやつと、白ぶどうのも」
少しだけ毛布がずれて、お耳ががひょこっと出てきた。
「……ぐみの、おにーさん……?」
「そうそう、グミのおにーさん。なーくんって言います」
莉犬はまだ完全には顔を出さないけど、手だけをそろ〜っと伸ばしてきた。
なーくんが袋を開けて、一粒そっと渡す。
「ほら、これ。さとちゃんには内緒のグミ」
「……いいの?」
「うん。さとちゃんのこと好きすぎて拗ねてる子にだけ、こっそりあげるやつ」
莉犬はくすっと笑った。
「……ぐみのおにーさん、ちょっとすきかも……でも、さとちゃんがいちばん……」
「わかってるよ〜。それでいいのよ〜」
俺はなーくんに小声で「助かった、さすが」と言うと、なーくんはドヤ顔。
莉犬はそのまま毛布に包まれて、ちょっとだけグミを食べて、またそっとこっちに寄ってきた。
「さとちゃん……あそぶ……」
「よし、じゃあブロックしよ! 」
「うん……ぐみのおにーさんも、ちょっとだけ、いてもいいよ……」
「えっ、マジ!?ありがとぉー!」
少しだけだけど、また心の距離が縮まった。
莉犬は、甘えんぼで、わかりやすくて、でも繊細で。
こうして毎日、少しずつ、大人との関わり方を覚えていく。
コメント
3件
グミのお兄さんwすっごく可愛い覚えられ方してる可愛すぎる… 素敵すぎる作品ありがとうございます!!