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第二章 ――紅茶の香りと、静かな午後
午後の陽射しが、雲の切れ間からこぼれ落ちていた。
丘の上の庭は、今日も変わらず穏やかで――
テーブルの上では、イギリスが丁寧にティーポットを傾けていた。
「お砂糖は……一つでよろしいですか?」
「うん、君が入れてくれるなら、何個でも嬉しいけどね」
そう言うと、イギリスは一瞬だけこちらを見た。
その視線は驚いたようでもあり、困ったようでもあり――
結局、小さくため息をついてから、静かに角砂糖をひとつだけ落とした。
「……甘すぎるのは、お身体によくありませんので」
「はは、まるでお医者様みたいだね」
「違いますよ。ただ、心配なだけです」
そう言って、彼はカップを僕の前に置く。
少し震える指。けれど、注がれた紅茶はこぼれていない。
いつもながらの丁寧さだ。
「ありがとう」
「……どういたしまして」
その短いやり取りだけで、胸が少し熱くなる。
彼はきっと、自分がどれほど“人を思いやる”人間なのかを知らないのだろう。
どんなに傷ついても、誰かのために心を動かす。
――それが、彼のいちばん美しいところだと思う。
「ところで、君はいつも紅茶ばかりだね」
「ええ。温かいものを飲むと、少し落ち着くんです」
「コーヒーは?」
「苦くて苦手です。……それに、フランスさんのようには、うまく淹れられませんから」
そう言って、イギリスは少しだけ笑った。
ほんの少し――けれど、その笑みは風よりも柔らかかった。
「君が入れる紅茶が、世界でいちばんおいしいよ」
「……冗談はやめてください」
「本気だよ」
彼は困ったように顔をそむけた。
けれど、その耳の先がほんのり赤くなっているのを、僕は見逃さなかった。
――ああ、やっぱり、彼は可愛い。
その事実が胸の奥に静かに沈んでいく。
カップの縁に映る空は、いつの間にか淡い青になっていた。
彼と過ごす時間は、どうしてこんなにも穏やかで、痛いのだろう。