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「私、正直今でも信じられません!あの学校一のモテ男でイケメンの恋人になれるなんて…♡ 私の家掃除してないから汚いかもしれないけど上がって行ってね!」
「あーうん。」
「えと、あの!…千景くんじゃなくて、千景って呼んでもいいですか?私の事は “杏” って呼んでくれて構わないです!あ、あと出来ればタメが良いな…?」
「あーいいよー。」
「私、2つ上の兄が居るんだよ〜♡ 話し方とか口調が荒くて不良みたいって怖がられる事が多いけど、本当は優しいお兄ちゃんなの!」
「へー。」
一方的に話し掛けてくる杏にげんなりとした表情を浮かべる。
(やべぇコイツ。すげぇめんどくせぇタイプだった…。俺が適当に返答しても会話が絶えねぇ。)
そう思っていた矢先、杏が目の前に立つ家を指差し俺の腕を掴んで家に招き入れた。
「ただいまー!」
「……おじゃましまーす。」
家の中から返答はない。
どうやら家族は留守のようだ。
「先に私の部屋に行ってて良いよ!其処の階段上がって直ぐ右側の部屋ね♡」
「ああ、分かった。」
適当に時間潰して早々に帰ろう。
そう思いながら、杏の部屋に向かうべく階段を上がる。
(確か、2階に上がって直ぐの部屋だったよな。…アレ、左右に扉あるんだけど。左側、だったっけ。)
ーーガチャ。
「おー、早かったな。学校はもう終わったの、か……あ?誰だテメェ。」
「………え?」
扉を開くと、必要最低限の物しか置いていない殺風景な部屋の中央、ベッドに寝転がりながら本を読んでいる男に目が向く。
扉を開けたのが杏ではないと分かると、 俺を睨みながら立ち上がりこちらへと向かってくる。
(え、誰だこの人…。何かヤバそうな人だな。)
俺が何も言わずにいると、男は俺の襟首を掴んで強く壁に押し当てた。
「っ……。」
(痛ってぇな。)
「おいテメェ、杏とどんな関係だ!!」
そう言いながら俺の襟首を更に締め上げる。
別にそこまで強い力でも無いが苦しい事には変わりがない。
「……痛てぇな、離せよ。」
俺も負けじと声を低くしながら男を睨みつける。
「うるせぇ!質問に答えろ。杏とテメェはどんな関係なんだ!!」
男は問いただすのを辞めない。
「……最後の警告だ、今すぐ手を離せ。」
「お前こそ俺の質問に答えろ!」
(…チッ、仕方ないな。)
俺が男を投げ飛ばそうと、男の腕を掴んたところで扉が勢いよく開き杏の姿が見える。
「アレ?千景くん、お兄ちゃんの部屋で何してるの?」
「……は?お兄ちゃん…?」
「さっき言ったじゃん!私、2つ上のお兄ちゃんが居るって。」
「あ……。」
帰路中、適当に聞き流していたがそういえばそんな事も言っていたような気がする。
「杏おかえり。」
「ただいま、お兄ちゃん!」
「……杏、このクソ野郎は誰だ?」
「あ、千景くんはね!なーんと私の彼氏なんだよ♡」
そう言いながら俺の腕に抱きついてくる杏。
俺は無意識に眉間に皺を寄せながら苦笑いを浮かべる。
(暑苦しいな、離れろよ。)
「……ふーん、コイツが杏のねぇ…。」
鋭く睨み付けながら俺の顔や身体を隅々まで見てくる杏の兄。
何だか凄く居心地が悪い…。
「あっ、紹介するね!私のお兄ちゃんの “颯” だよ。」
「っ、おい!名前なんて教えてやる義理ねぇだろ!……おいテメェ、杏に手出したら殺すからな。」
颯は物騒な事を口にした後、興味が失せたとばかりにまたベッドへと寝転がり本を読み始めた。
「私は千景くんになら手を出されてほしいけどね〜♡♡ …なぁんて!ほら、私の部屋早く行こ?」
俺の腕を掴んだ杏は、半ば強引に俺を自分の部屋へと連れていく。
(うわぁ……。)
「どう?どう?私の部屋♡」
「あー…いいと思う。」
「ほんと!?嬉しい〜♡」
俺に抱きつきながら胸元に顔を擦り寄せる杏。
(部屋にある物全部がピンクって…。居心地凄い悪い。コイツは煩いし、兄は凶暴だし。あー、暇潰しの玩具の選択間違ったわ、コイツは今日までだな。)
冷めた内心を表に出さないよう、お得意な作り笑顔を向けながら杏の部屋で暫く過ごした。
「……俺、そろそろ家に帰らないと。」
立ち上がりながら杏の部屋から出ようと扉に手をかける。
「ま、待って!もう少しでお母さんとお父さんが帰ってきて夕飯になるの。良かったら一緒にご飯食べていかない…?」
(っ…!?冗談じゃない!親になんか会ったらコイツと別れずらくなるだろ。)
「杏の言葉は凄く嬉しいけど、今回は遠慮するよ。ごめんね…?」
内心の焦りを押えながら、なるべく丁寧に断りを入れながら早々に玄関へと歩みを進める。
「あ、ううん!じゃあまた私の家に来たらその時にでも食べようね♡」
「ありがとう。嬉しいよ、優しいな杏。」
(…よし、さっさと退散しよう。)
「今夜電話するね♡」
「あーうん。…また明日。」
(ふぅ、疲れた。やっと解放される…。)
無事に帰れる、そんな期待を胸に玄関の扉に手を掛けた瞬間玄関が開き、見慣れない女性が立っていた。
ーーガチャ。
「……え。」
「あ!おかえり、お母さん。」
「ただいま杏、ちゃんと宿題はし……っえ!え、え!?誰この物凄くカッコイイ男の子は!」
「あ、この人は桃瀬千景くん♡ 私の彼氏だよ〜♡♡」
「えっえっ!?やったわね杏!こんなカッコイイ彼氏ができるなんて…!お母さん嬉しいわ。今夜はご馳走ね!千景くんも是非食べて行ってね。」
「……え、あ、…はい。ありがとう、ございます…。」
「やったぁ〜!千景くんとご飯だぁ〜♡♡」
(…え、帰れなくなった…。)
「……ご飯出来たわよ〜!」
杏の母親がそう言いながら、テーブルに座る俺と杏の前に料理を運んでくる。
「わぁ、杏の大好きなビーフシチューだぁ!」
「……美味しそう。」
「颯ー、ご飯出来たわよー!降りてらっしゃい。」
未だ2階に居る杏の兄、颯に声を掛けた後に俺に木製スプーンを渡す。
「ささっ、暖かいうちに食べて良いのよ。」
「……ありがとうございます。ではお先に頂きます。」
そう言って俺は、湯気が立つ出来たてのビーフシチューをスプーンで掬い口に運ぶ。
「……っ!美味しい、です!凄く美味しい。」
「ふふ、良かったわ♪」
(杏の母親の料理は、これまでに食べたことが無いほど美味しいな。杏はどうであれ、この味を手放すのは惜しい…。)
脳内で杏と別れるか別れないかの葛藤をしていると、階段を降りる足音が聞こえ、リビングに颯が顔を出した。
「あー腹減った。今日の飯は何だ?」
「あ、お兄ちゃん!」
(ゲッ…。)
「うわテメェ、まだ居たのかよ…。」
俺の顔を見るや否や、明らかに嫌な顔をする颯。
「コラ!千景くんは杏の彼氏なのよ?そんな事を言うもんじゃないわ!」
(ふん、怒られてやんの。)
「……ご馳走様でした。とても美味しかったです。それでは俺はこれで。」
腹ごしらえを終え、今度こそこの家に用はないと立ち上がり玄関へと向かう。
「千景くん、これからも杏を末永く宜しくね?気を付けて帰ってね。」
「またね千景くん♡ 後で電話するね!」
杏と杏と母親が俺を玄関まで見送る。
颯はどうやら、早々に夕飯を食べ終え2階に上がったようだ。
「じゃあ俺はこれで、失礼しました。ビーフシチュー、本当に美味しかったです。」
そう言って俺は玄関の扉に手を掛ける。
その時……。
ーーガチャ。
「あー疲れたぁ、ただいまー。」
「あ、お父さん!おかえり〜!」
「あなた、お疲れ様。お疲れでしょう?ご飯が出来ていますよ。」
杏の……父親…?
「……っ!?だ、誰だこの子は!颯の友達か!?」
「それがねぇ聞いてよあなた!杏の彼氏なのよ!」
「な、何っ!杏の、か、彼氏!?…お父さんに負けない良い男じゃないか!でかしたぞ、杏!」
(……は…?こんなタイミングで!?帰りずらいじゃないか…!)
「…こ、こんばんは。初めまして、桃瀬千景と申します。えっと、実はこれから帰ろうとしていたところでして……。」
話が長くなる前に退散しようと、杏の父親の横を通り過ぎたと思った瞬間、杏の父親に腕を掴まれ帰宅を阻止される。
「……あ、あの…?」
「千景くん、今日はもう遅い。泊まっていきなさい。」
「は……?」
「娘の何処に魅力を感じたのか是非お聞かせ願いたい!」
鼻穴を拡げ、興奮したように呼吸を荒らげながら強制的にリビングへと連れ戻されてしまった。
「千景くんよ。改めて杏の父親だ、宜しく頼む。…それで本題だ、娘の何処に惚れたのか聞かせて貰おう。」
「千景くーん!クッキーを焼いたのよ、みんなで食べましょうね♪」
「ねぇ〜千景くん、私の部屋で2人きりになろうよぉ♡」
「……は、はぁ…。」
リビングに連れ戻された後、強制的に椅子へと腰掛けさせられ目の前の3人から様々な事を言われて続けている。
疲れた、今はとにかく1人の時間が欲しい…。
そこである事を閃き口を開く。
「あの…今日物凄く汗を掻いてしまって身体がベタベタで気持ち悪いので、お先にお風呂をお借りしても宜しいでしょうか?」
「えっ…!千景くん、お風呂!?あ、杏も!杏も一緒に入りたぁ〜い♡♡」
「コラ杏!あなたはまだ早いわ、ダメよ!」
「え〜〜……ムゥ、わかったよぉ。お風呂はね、リビングを出て右の廊下に進んだところにあるよ!」
「分かったよ、ありがとうな。」
そう言いながら俺は、早くこの場から逃れたい一心で早歩きをしながらお風呂場へと向かった。