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家を出たとき、少しだけ 空気が冷たかった。
吐いた息が 白くなるほどではないけど
朝だと分かる温度。
俺は リュックを背負い直して、駅へ 向かう。
歩く速さは いつも同じ。
急がないし、遅れもしない。
イヤホンを 耳に入れて、音楽を流す。
音量は、外の音が 消えるぎりぎり。
それだけで、胸の奥が少し静かになる——
電車に乗ると、人は そこそこ多い。
誰かの話し声
スマホの通知音
ドアの開閉音
急に、理由もなく息が 詰まりそうになる。
「、……」
俺は目を 閉じて、つり革を強く握った。
大丈夫だ と心の中で言う。
いつものことだった——
学校に着いた頃には、表情は もう戻っていた。
教室に入ると、稜久が 席に座っていた。
机に肘をついて ぼんやり窓の外を見ている。
「稜久 おはよ」
俺が言うと、稜久は 少し遅れて顔を上げた。
「おはよ」
それだけ。 でも、
このやり取りがあるだけで 朝は少し楽になる。
一限目、二限目
ノートを取りながら、先生の 声を聞く。
ちゃんと 聞いているはずなのに
途中で 意識が遠くなることがある。
昼休み
廊下に出ると、空気が一気に 騒がしくなる。
笑い声
走る足音
誰かを呼ぶ大きな声
前の方で、ざわっとした空気が 生まれた。
「購買行ってきてよー?」
「もちろん あんたの奢りね?笑」
声の方向を 見ると
雛子さんが 俯いたまま立っているのが見えた。
俺は思わず 足を止めた
「…止めないと。」
思ったより小さい声だった。
隣にいた 稜久が、俺を見る。
「やめておこうよ」
「……」
俺は一瞬、口を 開きかけて 閉じた。
先生を呼べばいいだけの事、
そんなの 分かってる。
でも、その後のことを 考えてしまう。
もっと酷くなったら?
矛先が 変わったら?
「無理だよ、颯太。 」
稜久が そう言った。
俺は 唇を噛んだ。
「…くそ。」
そう言いながら、
いつも 全然納得していなかった。
俺たちは、今日も そのまま教室に戻った。
背中に…何かを置いてきた気がして
気持ち悪さが 残る。
午後の体育
笛の音が、やけに 鋭く聞こえた。
走っている途中、急に息が浅くなって
視界が 少し狭まる。
「颯太 大丈夫?」
「大丈夫 大丈夫、ちょっと休む。」
俺はベンチに座り、水を 飲む。
手が 少し震えている。
「無理すんな」
「分かってる」
分かっているけど
理由を説明できないのが、一番きつい。
放課後、家に帰る
玄関は 暗くて、静か
今日も 親はいない。
制服を脱いで、ソファーに 座る。
スマホを見ても、特に 連絡はない。
今日も 学校に行った。
ちゃんと帰ってきた——
それだけで いいはずなのに
昼の廊下の光景が、何度も 浮かぶ。
何も できなかった自分
怖くて、動けなかった 自分
「俺は 弱い。」
でも、
それでも 明日は来る。
だから、
明日も行く。
それしか、俺は 知らない。
「助けてよ」