「元貴…そのさっきはごめん」
「行くよ若井!!!!」
扉開けて元貴の姿を視認するよりも早く、荷物を纏めた元貴がこちら向かってくる。状況が理解できない俺にバッグを押し付けて玄関へと向かっていく背中を唖然と見つめる。
「何してんの?今日車で来てたよね?出して。」
「え…あ…うん。」
靴箱の上に置いていた俺の車の鍵をパスされる。上手くキャッチしたそれを握り締めて元貴の背中を追いかける。
「この住所の所行って欲しい。」
助手席に乗った元貴のスマホ上に示された地図を見る。ひとつのピンが刺されている周りが水色で描かれていて、ふと疑問を持った。
「これさっきの家?」
「そう。若井が出て行ってた間に…っと、ごめんちょっと電話。」
言い終わる前に、持っていたスマホが震える。どうやら情報をやり取りしている相手のようで、元貴の表情が真剣な顔つきに変わった。とりあえず目的地に向かおうとカーナビに設定し、エンジンをかける。いざアクセルを踏み込んだ時、ある事実に気が付いた。
「遠くね………。」
気が遠くなるような距離がカーナビ上に表示されていた。長旅になる予感がする。こんな簡単に出ていってしまっていいのだろうか。もしかしたら、もう帰って来れないかもしれないのに。
音声が目的地についたことを知らせる。機械的にプログラムされた労りの言葉を聞き流しながら車を降りる。
四季の中で1番過ごしやすい秋の今、旅行で来ていたならどれほど良かっただろうか。頬を撫でる潮風の心地良さに感動するのも束の間、助手席側から気分が高揚している声が聞こえる。
「すごー!!!めっちゃ海じゃん。」
「いや、海だから。」
「にしてもさ、周り全然家なくない?」
いつの間にか隣に来ていた元貴が呟く。そんな疑問を解決するように元貴の後ろに見える大きな家を指さすと、振り向いた元貴が驚いた声を上げる。
「すっご……ガチの豪邸。」
写真で見ていたのとあまり変わりはなく、外からでも大きめのプールが見える。未だに感動している元貴を置いて、入口と思われるかなりの高さある門へと向かう。
「…今何思ってる?」
慌てて追いかけてきた元貴が門を見上げ、一言呟いた。
ちらりと元貴の顔を伺う。きっと思っていることは同じだ。控えめな元貴の掛け声で言葉を発する。
「「人の気配感じない」」
予想通り同じセリフを紡いだ元貴と顔を見合わせ、笑い合う。先程まで喧嘩をしていたなんて思えないくらい楽しかった。
暫く笑いあった後、元貴が口を開いた。
「さっき、怒っちゃってごめん。ちょっとピリピリしすぎてた。」
「俺もごめん。元貴に頼ってる立場なのに色々口出しちゃって。」
お互いの謝罪が終わると、辺りに静寂が訪れてしまう。そんな気まずい空気を壊すように、元貴が言葉を発した。
「涼ちゃんだったら怒るよね。」
「絶対怒る。逆に涼ちゃんが拗ねて俺ら2人で機嫌とるかも。」
安易に想像出来る状況に笑いが零れる。
「俺らは支え合わなきゃ。」
そう言った元貴が、薬指につけていた指輪を見せてくる。これはいつもの仲直りの合図で、俺も首につけていたネックレスを見せる。どちらも涼ちゃんが身に付けていたアクセサリーで、それぞれがプレゼントしたものだ。
「俺のネックレスの方が涼ちゃんに似合ってる。」
「お前話聞いてた??自分から喧嘩しに行ってるよね。」
冗談交じりに呟いた俺にすかさず元貴がつっこむ。そんな楽しい空気になっていた時、元貴のスマホが震えた。
「あ、ちょっと出る。」
少し離れた場所で電話に応答する元貴を見つめていれば、急に大きな声をあげた。
「は!?場所間違えるとかお前がちでまじで、この道何年!?」
どうやら電話の相手と揉めているようだ。途切れ途切れ聞こえてくる単語にもう全てを察しているが、帰ってくる元貴を待つことにした。
「もういいよ。次はあってるんでしょ?うん、うん…。分かってるよ、俺そんな簡単に死なないから。おっけ、ありがと。またよろしく。」
電話を切った元貴がこちらに向かってくる。何かをやらした時に唇を尖らせる癖があり、分かりやすい姿に笑いかける。
「いいよ別に、そんな簡単にいかないと思ってた。」
「ごめーん。もう1ドライブ行こー!!」
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