「あの子可愛い…うゎ、でかっ」
何度目だろう。すれ違いざまに引かれるの。
「シヴァさん、これとっても美味しい」
「よかったね」
男たちの視線を集めているなんてつゆ知らず。るなさんはごはんをもぐもぐと口に含んだ。
つか、この子ほんとに…可愛いんだな。公共の場に二人でいたことなかったからわからなかった。
遠目からでも何か人を惹きつけるんだろう。姿もだが仕草も可愛らしい。それと、近づくと声が聞こえるだろ?
---え、声可愛くね?
るなさんから視線を外せない男たちがみなそう口にした。
最初は誰に言ってるのかわからなくて、次第にるなさんのことだと気づく。
無意識に声がする源を探し直視する。
相手は俺の視線に気づき、ビビる。
や、別に牽制してるワケじゃねーけど…
俺も俺で目立ってたらしい。みんな口をつぐむか、でかいとすれ違いざまに言われた。
「シヴァさんの美味しいですか?」
「あ、まだ食ってねぇわ」
「食べたら甘いの食べましょうね、みんなのコラボも食べたいなぁ」
るなさんがデザートに思いを馳せる横で、俺はホットドッグを食べていないことに気づいた。
慌てて一口齧る、うま、これはビール欲しくなる…
お腹が空いていたのか夢中で二口目を齧った。
「あれ?お口の端にケチャップついてますよ」
「え?ここ?」
「ううん、反対…のここ」
るなさんが自分のほおをつついて箇所を教えてくれるのだが、上手く取れない。
もう拳で拭ってしまおうかと思ったら
「ちょっと失礼しますね、ここです」
るなさんの細い指が俺の唇の横についたケチャップをぬぐいとった。
「とれたー」
にこにこ喜んでるるなさんと、あまりの恥ずかしさにあっつくなる。
くっそ恥ずかしい。
逆ならよくあるじゃん?彼氏が彼女のほっぺぬぐってあげるとかさ。
俺がやられんのかよ…初めてだわ…しかも年下の彼女に…恥ずかしくて片手で口元を隠した。
「?もうついてないから食べてもいいですよ?」
「あ、ウン、だよね」
るなさんはこう、恋人らしいやりとり恥ずかしくないのかな。
仮にも12人で遊びに来てるのに、誰かに見られたらとか…思わないのかな。
いや、堂々としてればいいのだけど。
すると何かに気づいたるなさんが眉をひそめ、俺に近づいて腕をぎゅっと掴んだ。
「シヴァさん気づいてます?」
「は?なにが?」
「おんなのこ…さっきシヴァさん見てかっこいいっていったの…」
「…あんまり、見て欲しくないです。」
最後の声は小さかった。
そんなの聞こえた??幻聴じゃねえの、それよりもるなさんあなたも結構見られてて…
口をつぐむ。
知られたくない中学生でもあるまいし、彼氏彼女なんだから 堂々としてればいいんだ。
小さな手を握った。
「行こう、るなさん。甘いの食べよう」
「え、あの、は、はい…」
るなさんの手は小さくて柔らかかった。
俺がいかにゴツゴツしてるのかがわかるくらい。
守ってあげたくなるような、女の子の可愛い手だった。
「は、恥ずかしいです…」
「いや、さっき俺の口を指でぬぐってくれたほうのがだいぶ恥ずかしかったよ?」
「そうですか?」
「そうだよ。」
そこはやっぱり恥ずかしくなくて、手を繋ぐのは恥ずかしいんだ。
ちぐはぐなるなさんに苦笑したら、つられたらるなさんがふにゃりとした笑顔で返してくれた。
コラボメニューを頼み一息。
つうか俺たちまだ水に浸かってない。
行きたいとこはないかと聞いてみたら、あるスポットを指さした。
「ロックビーチ?…子供用なんじゃないの?あ、だから?」
「ちがっ、もう!るな子供じゃないですからね!?」
「ごめんごめん」
るなさんが指し示したのはお子様でも安心の浅いロックビーチのエリアだ。滝や岩があり、中央に立つ滑り台の上には巨大な樽がある。
浅瀬で遊ぶるなさんが容易に想像できたから、つい口が滑ってしまった。
「樽じゃばーを経験してみたくてですね…」
「えーけっこう冒険家なんだな」
「スライダーは勢いがあるから怖いじゃないですか。でもお水は降ってくるだけでしょう?降ってくる量も想像できるし」
「なるほどな」
つまり想像できないものは怖くて嫌なんだな。
定期的に樽がひっくり返り、それなりの量の水を浴びてる人がたくさんいた。
「わーい、初プール」
手を離してパシャパシャと水の中に入っていった。足を動かし水を堪能してる。
「シヴァさーん」
「はいはい」
手を振って呼ばれた。一歩水の中に入る。
冷たかった。
ちょうど樽がひっくり返りたくさんの水が降ってくる。近くにいた俺たちでさえそれなりにかかった。
「っきゃー!」
「けっこうすげぇ!…えっ、るなさん真下!?」
「こうなったらおもいっきりかかっちゃいましょうよ!」
付き合ってからわかったけど、るなさんて積極的だし怖いもの知らずなところがある。
『るなは進撃の巨人だからなぁ』と呆れ笑いをうかべたしゃぱぱさんを思い出した。
本人がどこまでわかってるのか、定かじゃない。シェアハウス時代、るなさんのそばにじゃぱぱさんとのあさんがよくくっついてた理由がわかった。
「いーの!?ずぶ濡れになるぞ!?」
「プールだもん、濡れるところですよ?」
「そうだけど!」
メイクとれるとか髪型がどうとか女の子って気にしないのか?のあさんはやたら気にしてたぞ…いや、そこまでるなさんは考えてない、きっと。
「あっきますよっ!!シヴァさんきてっ!」
「俺もォオ!?」
「「っぎゃー!!」」
水圧で潰されるかと思った。
ぶっかけられてまるで潜ったかのように全身ずぶ濡れだ。
顔をぬぐい前髪から執拗に垂れる水滴がうるさくて髪を上げた。
「っははは、やだーすっごかったですねぇ」
るなさんは嬉々とした声で笑った。
同じく顔をぬぐって水を多く含んだ髪を束ねる。
…色っぽかった。あ、俺これだめだ。性癖だわ。
視線に気づいたるなさんがカッと赤くなった。
やば、見過ぎだったかも。
「シヴァさん、髪」
「髪?」
「こう、あげてるの、はじめてみた」
「えっ、そう?シェアハウスに住んでた時に風呂上がり見たことあるでしょう?」
「その時はこう、頭ガシガシしてるところばかり見てて…オールバックは」
「見ててって…そんなよく見てたの?」
俺の問いかけにるなさんはさらに顔を赤くする。
「うっ、だって、好きなひとが近くにいたら目で追っちゃいませんか…」
それは、俺をずっと見ててくれたってことかな。…おおい、これは、予想以上に…
俺は見たら悪いと思ってひたすら視線を下げてたからな。まさか熱い視線を 受けてる側だとは思ってなかった。
「俺は恥ずかしくて見れないタイプ」
「えっじゃあるな変態みたいでした!?」
「ふはは!別にそうは思ってねーけど、すっごい嬉しいなとは思ったよ。」
「今は、今は見れます…?るなのこと見れますか…?」
まんまるで綺麗な目がこっちを見た。
綺麗な二重に長いまつ毛、少し垂れる眉毛がるなさんの象徴だ。
子犬みたい、子猫みたい。
守ってあげたい気持ちにさせる。
じっと見つめ返したけど、やっぱり恥ずかしい。いい加減慣れないと。居た堪れなくなって斜め上に首を動かした。
「頑張る…見れるように…」
「るな覗いてたらいいかな」
謎の提案をされる、逆効果だよるなさん。
俺そんな見つめられたら何するかわかんねえし抑えられなくなっちゃうから。
たくさんの人がいるのに二人だけの空間みたいになる。
「…次、行こう」
そこから抜け出したくて、何も言わずに手を握った。
side no
「二人だけの世界だね」
「そだなぁ」
「微笑ましいよね」
えとさんと、うりりんと、僕。
遠目から二人を見守った。
甘酸っぱすぎる二人に、あの二人付き合ってるよねぇ…と言葉を失うこと多々。
まぁまぁ、微笑ましいっていうのかな。
可愛いよね。
二人に同意を求めた。
「しっかし、シヴァさんは付き合ってるにも関わらず片思いみたいな感じなんだよなぁ」
「すっごい葛藤してんのわかる」
うりりんの嘆きにえとさんが同調した。
でも僕はなんとなく、シヴァさんがそうしてる理由がわかるけど。
片思い歴をしってるから、溢れる感情に蓋しておかないと大変だからじゃないかな。
「るなさん明日帰っちゃうんだっけ?」
「今だけでも二人っきりにさせてあげないとね」
「…また遠恋かぁ、かわいそうだな」
「意外と会わないほうが、会った時より燃えるんじゃねーの?」
にひひ、うりりんが意味ありげに笑う。
こらこらと咎めておいた。
「今日シェアハウスじゃなくてシヴァさんちに泊まればいいんじゃないの?」
「おま…大胆だな」
えとさんの呟きにうりりんがギョッとした。
「なんで?二人でたくさん話できるじゃん。るなだってシヴァさんだって好き同士ならずっと一緒にいたいでしょう?…私何か間違ってること言った??」
「お前ね、男女が一つ屋根の下にいるんだぞ…」
「シェアハウスと変わらないじゃん」
「…」
えとさんの曇りなき眼にあららと苦笑した。純粋なんだなぁ。
隣で頭を抱えるうりりんの肩を叩く。
「うりりん意外と苦労してる?」
「…まぁな」
「がんばってね♪」
「楽しんでるだろ…」
「ちょっと二人とも、何コソコソ話してるの?」
えとさんが腰に手を当てて怒っていた。
そばに寄ってすかさずフォローするのはうりりんさながら。
大事なんだね。
さぁて、僕は頑張って見守りに徹しようかな。
頼れるお兄さんにならなくては。
「がんばれ、シヴァさん」
大きな背中と隣の揺れるポニーテールを見つめながら、誰にも聞こえないエールを送った。
コメント
2件
やっと書けました☺️ 見てる人いるのかな…