テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
彼の優しさ
返信しようか。
そう思ってから、
もう何分も経っている。
入力欄に、
文字を打っては消す。
――菜月です。
確認しました。
……業務連絡みたい。
送る前から、
自分で引く。
じゃあ、
スタンプ?
それはそれで、
馴れ馴れしすぎる気がして、
指が止まる。
嬉しいのに。
ちゃんと、嬉しいのに。
どう返したらいいのか、
分からない。
この一文が、
ただの返事じゃないことを、
もう分かってしまっているから。
「一緒に行きませんか?」
その言葉は、
誘いじゃなかった。
彼の優しさだった。
踏み込んでくる覚悟と、
こちらを傷つけないようにする配慮と、
それでも隠しきれていない本音。
全部、
伝わってしまった。
だから、
変な小細工は、
いらない気がした。
もう一度、
入力欄を見る。
――菜月です。
大和さんの言葉、
嬉しかったです。
短い。
でも、
嘘じゃない。
余計な飾りも、
予防線もない。
送信。
胸の奥が、
少しだけ、
温かい。
これが、
埋めることになるものの、
最初の欠片だと、
この時はまだ、
はっきりとは分かっていなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!