テラーノベル
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失語症・・・イイナァ♡
リクエストありがと
横浜の夜は、いつだって潮の香りと血の匂いが混ざり合っている。
港の倉庫街、その一角にある古びた洋館の地下室で、中原中也は低く唸るような溜息を吐いた。煙草に火を点けようとして、手元が僅かに震える。それは怒りのせいか、それとも、目の前で横たわる存在への、言葉にできない焦燥のせいか。
ベッドの上には、一人の少女がいた。
いや、少女と呼ぶにはその存在はあまりに成熟していて、同時に、あまりに壊れやすかった。
太宰治。
ポートマフィアの最年少幹部であり、中也の相棒。
本来なら、その頭脳と冷酷さで敵を恐怖に陥れるはずの男。……いや、この世界において、太宰は最初から女として生まれてきた。
黒い外套に身を包み、包帯を全身に巻いたその姿は、男の時よりも一回りも二回りも小さい。
普段ならその細い身体で、中也の神経を逆なでするような嫌味を次から次へと吐き出すはずだった。
波打つ癖のある茶髪は、男の時よりも長く伸びて、今は白い枕の上に乱雑に広がっている。
だが、今の太宰は、何も言わなかった。
ただ、虚ろな、底の知れない硝子玉のような瞳で、天井の一点を見つめている。
「おい、太宰。聞こえてンのか」
中也は煙草を灰皿に押し付け、ベッドの脇に腰掛けた。
太宰の顔を覗き込むが、視線は合わない。
今回の任務は、あまりに酷酷なものだった。精神を操作し、対象のトラウマや狂気を何倍にも増幅させて脳を破壊する異能者。その異能の直撃を、太宰は中也を庇う形で受けてしまった。
太宰の異能『人間失格』は、触れた異能を無効化する。
けれど、今回の敵の術式は、触れる一瞬の前に、太宰の精神の最も脆い部分を掠めていった。
結果、肉体的な傷は皆無であるにもかかわらず、太宰の精神は完全に崩壊していた。
「太宰」
中也がその細い肩を掴んで揺さぶる。
太宰の身体は、驚くほど軽かった。男の時よりも華奢な骨組み、衣服の上からでも分かる肉体の柔らかさ。しかし、その中身は今、完全に空っぽだった。
太宰の唇が、微かに動いた。
中也は息を呑み、耳を近付ける。
「……あ、……う、……」
言葉にならなかった。
掠れた吐息が、意味を持たない音となって零れ落ちるだけ。
あの、流れるように人を欺き、嘲笑い、時に冷徹な指示を下していた最適解の塊のような声が、失われていた。
言葉を失った太宰。それは、彼女から武器をもぎ取る以上の残虐な行為だった。
「クソッ……何が最年少幹部だ。何がマフィアの黒幕だ。こんなところで、何人形みたいになってやがる」
中也は歯噛みした。
太宰が女であることなど、戦場では関係がなかった。中也と同じように、あるいはそれ以上に返り血を浴び、死を望み、冷酷に敵を排除してきた。
けれど、こうして物言わぬ抜け殻のようになると、その「女としての脆さ」だけが浮き彫りになってしまう。
細い首筋、包帯の隙間から覗く白い肌、男よりもずっと小さな手。
太宰の瞳から、不意に涙が溢れた。
感情があるのか、それともただの肉体の拒絶反応か。
言葉を発せない太宰の胸が、激しく上下し始める。
「……は、……ぁ、……く、……」
過呼吸のような、苦しげな息。
中也は慌てて太宰の身体を抱き起こした。
「おい、落ち着け! 太宰、息を吸え!」
「……ん、……ぅ、……あ、……」
太宰の手が、せわしなく中也の黒い外套を掴んだ。
その指先は震えており、まるで暗闇の中で唯一の救いを求めるかのようだった。
太宰の顔が、恐怖に歪んでいる。頭の中で、どんな地獄を見ているのか、中也には分からない。
言葉を失った彼女にとって、今の恐怖を伝える手段は、この苦しげな声を漏らすことだけだった。
中也は無意識のうちに、太宰の細い身体を強く抱きしめていた。
普段なら、こんなことをすれば「気味が悪いよ中也」「蛞蝓のばい菌が移る」と、いつもの減らず口が返ってくるはずだった。
けれど、今の太宰は、中也の胸に小さな顔を埋め、ただただ、声を漏らし続ける。
「……あ、……ちゅ、……や、……」
その声は、泣き声のようでありながら、どこか艶を含んだ、ひどく熱を持ったものだった。
精神の崩壊が、彼女の脳の理性を焼き切り、本能的な部分だけを刺激しているのかもしれない。
中也の首筋に触れる太宰の息が、驚くほど熱い。
「太宰、お前……」
中也は太宰の顔を少し引き離した。
太宰の頬は異常なほど赤く染まっており、虚ろだった瞳には、今度は底なしの情欲と恐怖が混ざり合ったような、異様な光が宿っていた。
言葉を失った代わりに、彼女の身体は、中也の肌の温もりを過剰に求めていた。
「……ん、……ぬ、……あ、……」
太宰の唇から、小さく、高い声が漏れる。
それはまともな会話を拒絶された肉体が、唯一外へと発することを許された、無防備な喘ぎ声だった。
男の時よりも明らかに高くなった、女の、それも酷く扇情的な声。
中也の背中に、ゾクリとした戦慄が走った。
相棒がこんな状態になっているというのに、その声に対して、自分の身体が僅かに反応してしまったことに、強い嫌悪感を抱く。
「……止めろ、そんな声を出すな」
中也の声は、自分でも驚くほど低く、掠れていた。
しかし、太宰には届かない。
太宰は中也の首に細い腕を絡め、さらに身体を密着させてきた。
長い黒髪が中也の首回りに絡みつき、太宰の体温が、服越しに直接伝わってくる。
「……あ、……ぅ、……ん、……」
言葉を奪われた彼女の、それが精一杯の懇願だった。
「助けて」なのか、「壊して」なのか、あるいは「私をここに繋ぎ止めて」なのか。
解を出すべき太宰の頭脳は機能していない。ならば、目の前にいる相棒が、その答えを決めるしかなかった。
中也は太宰の細い腰を抱き込み、ベッドへと押し倒した。
太宰の長い髪が、再び白の海に広がる。
見下ろす中也の瞳に、いつもの戦闘時の獰猛な光が灯る。だが、その対象は敵ではなく、目の前の哀れで、そしてひどく愛おしい相棒だった。
「言葉が出ねえなら、身体で話せ、太宰」
中也の手が、太宰の衣服のボタンに掛かる。
太宰は拒むこともせず、ただ、恐怖と快楽の狭間で、小さな、控えめな声を漏らし続けた。
「……ん、……は、……あ、……」
暗い地下室の中で、その声だけが、二人の世界を狂わせていく。
コメント
12件
あぁぁぁなんか久しぶりにテラ開いたら通知にこんなものがッッ!?明日も部活頑張れるわ…
精神崩壊は好きすぎる…最高です
ほんとに毎回ありがとうございますううう まじ癖ぶっ刺さりです😇😇 優しさの中にある独占欲っぽいものがたまらなく好き