幻影を殺せない伊波の図が書きたかっただけです。
inm視点
完全に道に迷ってしまった夜の森。端末は壊れ、誰とも連絡がとれなくなってしまったこの状況。どう打開しろと?
「誰かぁ……?」
ヒーローらしからぬ声を出す。今日は8人で来ていたというのに、誰一人見つからない。激しい戦いだった。2人ずつ4組に分散して戦った。さっきまで、ほんの数秒前まで、そこにマナがいたんだけど。
「マナ………?みんな……?」
hbc視点
ライとはぐれて数分。連絡を入れるのも気が引けたが、みんなに連絡する。
『ライがおらへん』
『はあ?』
『さっきまで一緒にいたんじゃないの?』
『おったんよ、さっきまで』
『おらんくなったってなんや、神隠しか?』
『わからんねん、それが』
『てか、なんでライから連絡来ないん?』
確かに、と思う。もし連絡が出来たなら、ライはすぐに返事をくれただろう。彼は笑い声でさえ、端末を通して伝えてこようとするのだから。何度「アイドルかい!!」と突っ込もうとしたことか。それが何も聞こえてこないのだ。絶対に何かがおかしい。
『うーん、端末が壊れたんかなあ』
『ライのGPSは見えるよぉ』
『うそ!?どこおる!?俺の近く!?』
足を壊したロウと大きな傷を負ったウェンは先に拠点に帰っていた。そのおかげで拠点からの位置情報が見れるらしい。助かった、と思ったのも束の間。
『わからんな、そこがどこか』
『なんか霧みたいなのがかかっててわかんない』
『そっ、か』
『とりあえず敵は倒したんだろ?これから新しく犠牲が出てもダメだし一旦皆帰ってこい』
ライがちょっと不安だけど、彼ならきっと大丈夫。俺が犠牲になったらより深刻な出来事になってまうからな。俺は変に捜索するのをやめてロウの指示に従うことにした。
「伊波、大丈夫なん?」
「GPS上では動いてるっぽいよ」
そう、このGPSは結構有能で、どれくらいの速度で進んでいるか表示してくれるし、敵が近づいたら赤い点で示してくれる。ライの傑作なのだ。連絡用端末と別にしておいて本当に良かった。
「みんな!」
ふと声がして振り向くと、そこには伊波ライの姿。でも、何かが、違う。俺以外もそれを感じたらしく、一斉に離れる。
「なんでみんな、離れちゃうの?」
「お前、ライじゃないだろ」
「え、なんでそうなるの」
口調、声、姿は伊波ライなのに。絶対に何処かがおかしい。伊波ライではない。
「マナぁ〜みんなが酷いこと言う」
「頼るの俺なん!?全然避けるけど」
「なんでよ!せっかく帰ってこれたのに」
喋っている間、GPSをみるとまだ彼は速いスピードで動いている。それなのに、今目の前にいる伊波ライは動いていない。確信したので、俺はレイピアを素早く持ち出し彼を突く。
「マ、ナ?」
「…お前なあ、最期までライの真似して何が楽しいん?ほんま、俺のこと舐め腐っとるやろ」
「ライはな、もうちょい優秀やねん。お前違って。イタズラするなら頭使わないと」
伊波ライに似た何かは、目の前で亡くなった。のにも関わらず、瞬きをした瞬間消えてしまった。ここにあった遺体はなかったかのように、フローリングは真っ白である。
「ほんと、なんやったんや」
「幻覚か?」
「今回の敵、そういうところがあるっぽい」
「まじかよ…ライ、大丈夫かな」
「捜索行く?」
GPSを見ると、ライに1つの赤い点が近づいていた。
「ね、GPS見て」
「うわ」
「伊波、歩き疲れてるやろうし」
「幻影ってことに気づけるか?」
「微妙なラインやな」
「俺、不安やから捜索行ってくる」
このままではライの身が危険だ。そう思った俺は他のヒーローの返事も聞かず、拠点を飛び出した。
inm視点
「ライ!!」
荒れた息遣いで、ソレはこっちに向かって走ってきていた。まるで、オレの仲間かのように。
「マ、ナ?」
「ライ!心配したんやで〜?ずっと見つからんから」
ハグされかけたが、刺されるとこわいのでハイタッチ程度にする。これは絶対に、マナじゃない。でも、でも。
「仲間を殺すなんて、できねえよ………」
仲間じゃないのは分かっているのに、マナの姿をした者が殺されるという事実は、受け止められる気がしない。ましてや、殺したのが自分なんて。
モヤモヤ考えているうちに、レイピアがおれの頬を掠める。
「マナ?」
「ヒーロー、やるじゃん」
「何がだよ」
「この一瞬で避けられるねんな、レイピア」
「マナとたくさん練習したんでね」
「はは、よく言うわ」
笑顔も声も緋八マナそっくりで。仕返しができないまま、心臓の鼓動が速くなる。
「そろそろ死んでもらってもええか?」
「死んでたまるか」
「お前邪魔やねん、ヒーローに」
ヒュッと息を吸う。これは敵、敵の仕業だから。マナに言われたんじゃない。わかってる。わかってる、けど。視界がぼやけてくる。マナの姿をしたソレに言われるのが苦しくて。
「……邪魔なんか……じゃ……な…」
「な〜〜にやってくれてんねん、俺の姿で」
ヒーローの声がした。その瞬間、目の前に居た緋八マナに似た何かはレイピアで突かれた。そのレイピアの持ち手を見ると。
「マナぁ!!!」
「何で泣いてんの笑笑」
「ガチっやべえよ…ほんと、に……」
全力で泣いて嗚咽を交えながら伝えた状況。それを聞いて、マナは全力でハグをしてくれた。
「絶対ライはソレ殺せないと思って来た」
「マナわかってるな〜流石オレの相方」
「おうおう任せんしゃい」
「ほんとに殺せなかった、マナを殺しちゃうって想像するだけで歯ガタガタだった」
「俺じゃないってわかっただけで偉いんよ」
「そういうことにする」
「なんや!せっかく褒めたんに」
「あはは」
マナがここに来てくれたという事実で、オレは救われた。本当に助かった。
「マナは、どうして分かったの」
「何が?」
「オレの居場所。端末も壊れてたしGPSも微妙だったじゃん」
「え〜〜ヒミツ」
「なにそれ!!気になるんだけど」
「実はな、偶然やねん」
「うそ!突き止めてくれたのかと思ったのに」
「ほなそういうことにしとくかあ」
「ほなかあ」
ふと空を見ると、もう夜から朝になりかけているかのように、日が昇り始めていた。これから幻影が何回か現れるかもしれないけど、殺せないかもしれないけど、オレなりの対処ができるよう努力できたらいいな。
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