テラーノベル
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政治的意図はありません。
血生臭い表現あり。
仏日
絵の具の筆を自由に走らせ、自分だけのキャンバスに塗り重ねる。
その世界は僕にしかわからないものであり、わかるはずのないもの。
「もう、終わりますか」
鮮やかに染まったキャンバスの向こう側。そこに、美しく佇んでいた。
ひどく辛そうな声が僕のアトリエに響く。
「うん、ちょっと待ってね。後もう少しだから。」
そのまま、塗り進めていく。
完成と言えるまで先は長いのに。
恋人兼被写体の日本くん。
青白く透き通った肌に澄んだ瞳、
今にも消えてしまいそうな天使は僕を翻弄させる。
翼を隠しいそうな、肩甲骨のラインを鋭く美しい。
華奢な体つきとは正反対のすらりと伸びた背丈。
慈悲と慈愛に満ちた優しさで僕の全てを包み込むような陽だまりを彼は持っている。
キャンバスに染まるよう今日も筆をとる
その美しさを僕は描ききることができるだろうか。
湿気の重たい空気を帯びた匂いが鼻をつく。
蚊の羽のような扇風機が音を立て、無機質に回る。
僕はじんわりと汗ばみ、日本くんは首筋に汗を流している。
「よし、完成。お疲れ様」
筆を、隅に置くと、ため息交じりの声が聞こえた。
「やっと、終わりましたか。」
白いシャツを身に纏う彼は首筋からの汗が濡れて肌に張り付く姿は
格別の妖艶を出して
「こっちに来て、見てごらん」
額を拭いながらこちらに操られるように歩みよってくれる。
その瞬間でさえも僕は絵におさめたい。
近づいてきた日本くんは僕の肩に顎をのせ、じっとりと、物を見定める様に絵を見つめた。
「今日も上手ですね」
小さな声がアトリエに小さく響く。
目を合わせた瞬間ふっ、と唇を歪ませた。
その顔は微笑んでいるのに、皮肉を混じっている。
その瞬間、僕と日本くんの距離が少し遠くなる。
「…なら、よかった。次はもっと上手く描けるから…」
焦燥に駆られて言葉は空気みたいに溶けていき、日本くんは冷たく僕を見下ろしていた。
「焦らなくてもいいのに、ふふっ」
冷めた目が一瞬写り、蕾が芽吹く様な微笑み。
僕はまるでチュシャ猫の気まぐれのように手のひらを踊らされてるようだ。
こんな姿も絵に納める事ができれば、どんなにいいだろうか_。
***
またいつもの様にアトリエに佇む日本くん。
湿気に包まれたアトリエは汗の匂いが漂い、皮膚にはじんわりと汗が滲んでいた。
夕焼けの朱色に染まり日本くんの頬も赤く染まる。
先程まで、青かった空は朱色にへと染まった。
その間も僕達は休まず、絵を描くことに熱中していた。
「ふふっ、今日は一段と上手く描けているよ」
僕は口から弾む返答をアトリエにこぼす。
赤く染まったキャンバスは現実よりなお、日本を美しく見せた。
好きだと言っていた、毒々しい彼岸花がキャンバスに咲き誇る。
これを見た日本くんは笑みを浮かべる事だろう。
「やっとできたっ、最初の最後の最高傑作だっ!」
僕は座っていた椅子をひっくり返してまで勢いよく立ち上がった。
嗚呼やっと、日本くんをキャンバスに納める事ができた。
キャンバスに咲き誇る彼岸花はまるでひらひらと散る花弁のよう。
被写体に目をやると、日本くんは
静かに目を瞑り優しく微笑む姿はまるで僕を宥めるようだった。
そこには、僕の絵気まぐれな猫みたいに踊る笑顔も嘲笑う様な笑みも
なくなっていた。
ただ、静かに目を瞑ったまま。
赤い彼岸花と、少しずつ紺色の空に変わっていくだけだった。
外と中の光で日本くんの輪郭がはっきりとうつっていた。
徐々に彼の薄れていく、まるで消えていく天使のよう。
このアトリエの空間だけ、時は止まっているようだ。
薄れていく彼の姿はゆっくりと空気に溶けていく。
隠していた肩甲骨から、翼が生え、体は薄れていく。
__ようやく天使を納める事ができたんだ。
そろそろ、純愛ものを書きたい。
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