テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
政治的意図はありません。
台日
それでも良い方はどうぞ。
初めはただの興味でしかなかった。
いや、今もそうなのかもしれない。
あんなに楽しみにした入学も、始まってしまえば呆気ない日々。
夏の昼下がり。
エアコンは『強』だけど、蒸し暑く瞼が重たい。
黒板の白いチョークの文字が歪んで見える。
数学の先生の声の輪郭がゆっくりと滲む。
気がつくと、先生の声が聞こえなくなっていた。
目が覚めると、数学の授業は終わっていた。
移動教室に向けて、どうやら出ていったらしい。
僕一人、教室に残された。
そのとき、
「そこで何してんの。」
一瞬、目が泳ぐ。
頭上の方から声が降ってきた。
隣のクラスの日本だった。
見上げてみると、僕を覗き込むようにして視線を落としていた。
逆光で照らされた瞳は光を吸い込みそうな黒目に吸い込まれそうだった。
しばらくの間、目を逸らせなかった。
「いや、これから移動教室に向かうとこだけど」
ついさっきまで居眠りしていたことは伏せて。
机の中にある教科書を乱雑に取り出す。
「でも、授業始まってるけど」
首を傾げ、薄ら笑いを浮かべる。
僕が居眠りしていたことを見透かされてるようだ。
「知ってるけど、君は何してるのさ?」
そういうと、彼は肩を振るわせ微笑をした。
まるで、それが当たり前の様に。
僕はもう授業に行くことを諦めていた。
なので、授業の間だけ、と言う約束で一緒に話をすることにした。
他愛のない話、それでも影は伸びていき、時間は過ぎていく。
僕は、他人にとってはどうでもいいようなことを、ひたすらメモをした。
筆箱の奥底のメモに書き留めて。
本当にどうでも良いことを。
だけど、僕にとってはそれがどんなに価値のあるものかわからないだろう。
授業の終わりを告げるチャイムが静寂の廊下に響き渡った。
さっきまで、2人だけだった教室がすぐに騒がしくなった。
日本は気がつくと、いなくなっていた。
元の教室にでも戻ったのだろう。
あれから、僕は日本のことに関してメモを取る様になった。
些細な変化、情緒の変化、日常の変化…
いつか使うだろうと思い、筆箱の奥底にあったメモが、日本のことでびっしりと埋まっている。
日本の帰宅時間に見計らって待ち伏せて、帰路へついて行ったりもした。
また、日本と鉢合わせする様に仕向けたりもした。
だが、日本が少しずつ、僕を避けていくように感じた。
いつもと違う遠回りの帰り道。
周りの注意を払う目付き。
必ず、2人以上での行動が増えていった。
僕はそのまま過ぎていく日々をゆっくりと眺めるしかなかった。
時折、見せるあの視線に胸がざわついた。
久しぶりに、日本と帰ることができた。
日本はあまり浮かない顔だった。
ずっと、バッグに紐を強く握っていた。
「最近、誰かに見られてる気がする」
下唇を強く噛んで不安げに僕を見つめる。
片手で首を触る。日本の不安になっている時の癖。
「そうなんだ、大丈夫?」
「…うん」
日本の目のふちには涙を溜めていた。
僕は日本に目をやった。さっきまで書いていたメモに訂正をした。
日本は僕を避けているのかもしれない。
メモ帳を閉じ、バッグに中に入れると、僕はいつも通りの夕焼けに染まる町を歩いた。
初めはただの興味でしかなかった。