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冴凛短編集です。
注意書きや説明はあらすじをどうぞ。
これからどんどん話を増やしていく予定です。
今回の話は朝目覚めたら幼い頃の凛が現れて嫉妬する凛の話です。
それではどうぞ!
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「兄ちゃ……あ?」
夢と現実の狭間で微睡みながら隣で眠っているであろう兄ちゃんに抱きつく。しかし、そこにいつもの体温はなくて、 代わりにあったのは遠くから聞こえる兄ちゃんの優しい声と忌々しいガキの声だった。
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「……で、どういうことだよ?」
「しらねぇ、起きたらこうなってた」
そう説明する兄ちゃんの膝の上には『凛』だと名乗るクソガキがいる。なんでも、兄ちゃんが目覚めたら腕の中に俺の代わりに昔の俺がいて、話を聞いてみても完全に幼い頃の俺なんだとか。そんな現実味のねぇこと起こるわけねぇだろと思っていたのだけれど、どっからどう見ても俺で、信じざるを得なくなってしまった。
「兄ちゃん、この人だれ?」
「大きくなったお前だ」
ベタベタと兄ちゃんに触るクソガキにデレデレする兄ちゃん。ふざけんな、そこは俺の場所なんだよ。
誰でもない俺自身に俺の居場所を奪われている。兄ちゃんは俺が好きだから、幼い頃の俺を可愛がって甘やかしているのだとわかっている。けれど気に入らない。本当は兄ちゃんの腕の中で目を覚ますはずだったのに、本当だったら今頃、たわいもない話しをしながら朝食を食べていたはずなのに、本当だったら今、兄ちゃんが撫でているのは俺だったはずなのに。それら全てがコイツのせいで無くなって、俺の優先順位が下げられている。その現実がどうしても受け入れられない。
でもそれを兄ちゃんに伝えたら子供みたいだと呆れられる気がしてどうにも言い出せない。だから楽しそうな二人の声をBGMに独りで虚しく朝食を食べて自室にこもった。
……やっぱり兄ちゃんは追いかけてきてく れなかった。
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どのくらい時間が経ったのだろうか。窓から差し込む光は白からオレンジに変わっている。それでも兄ちゃんが俺の部屋を訪ねることはなく、今頃アイツと楽しくやっているんだと思ったらなんだかムカついて、寂しくて目頭が熱くなった。
「この部屋なに?」
「ここは今の凛の部屋だ」
そんな声が聞こえてきてベッドから視線を上げるとちょうど二人が俺の部屋を開けたところだった。いつもより柔らかな顔をした兄ちゃんの腕にはアイツが抱かれていて、せっかく兄ちゃんが迎えに来てくれたと思ったのに機嫌がどんどん降下していく。
……何イチャついてんだよクソ。そりゃ兄ちゃんはこんなデカくてゴツイ弟より小さくて愛嬌のある弟の方がいいのかもしれない。……けど、俺だってまだ甘えたい。もうあの頃みたいに小さくも可愛くもないけれど、それでも俺はいつまでも兄ちゃんの甘ったれな弟で、それで……恋人なんだから。
「兄ちゃんすき」
「俺もだ凛」
そう言ったクソガキは俺の兄ちゃんの頬にキスをした。その瞬間、今まで抑えてた不満が爆発した。
「なに!?はなして!」
ギャーギャー喚くクソガキの首根っこを掴んで兄ちゃんの腕から奪い取る。
「コイツ燃えるゴミでいいかな?」
「なにやってんだ、やめろ凛」
決して声を荒らげるわけではない静かな怒りが滲んだ兄ちゃんの声にすっと冷静になって、次に湧き上がるのは小さな後悔と大きな虚しさ、寂しさ、そして怒り。
「……そんなにコイツがいいのかよ」
「何言ってんだコイツはお前だろ」
「黙れ、クソ兄貴。俺を放っておいてまでコイツと過ごしたいならそうすればいいだろ!なんでわざわざ俺の部屋まで来てアンタらのイチャイチャを見せつけられなきゃなんねぇんだよ!どうせ兄貴は俺のことなんてどうでもいいんだろ!だったらもう放っとけよ!クソどうして、なんで ……俺じゃだめなんだよ 」
俺が寂しい、構ってって素直に言えない性格なの兄ちゃんが一番わかってんだろ。なら察しろよ、もっと構えよ、こんなに面倒臭い俺のこと好きって言ったの兄ちゃんだろ、責任取れよ。
「はぁ」
大きなため息をついた兄ちゃんは俺の手からクソガキを取り戻してベッドに置いた。やっぱりそっちが優先なのかよと拗ねていると兄ちゃんがこっちに戻ってきてぎゅっと俺を抱きしめてくれた。
「……馬鹿なやつ、自分に嫉妬してんじゃねぇよ」
「うるせぇ」
言葉は決して優しくないけれど、それでも兄ちゃんの腕は暖かくて安心した。今日一日中ずっと求めていたものがやっと与えられた喜びに身を任せて兄ちゃんに擦り寄る。そしたらより強く抱きしめてくれて満足だった。そういえばとクソガキがいるベッドに向けて挑発するように舌を出してやった。案の定ギャーギャー騒いでいたけれど負け犬の遠吠えだと鼻で笑ってやった。やっぱり俺を満たせるのは兄ちゃんだけだった。
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ちなみにあのクソガキは次の日目覚めたときにはもう消えていた。
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