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「……美都。ねぇ、美都。美都ったら、みーとー!」
「えっ、あ、はい!?」
呼ぶ声にパッと顔を上げて、視線をうろうろとさまよわせる。
「私が呼んだんだってば、美都。こっち!」
右隣から肩を叩かれて、そちらへ首をひねると、
「ねぇ、美都。打ち合わせから帰って来てから、なんか変じゃない? ぼーっとしてるし」
いきなり愛未から、核心を突かれた──。
「そそそ、そんなことないよ……」
「思いっきりどもってるし。しかもパソコンの画面にも、そそそ……って、打っちゃってるけど」
動揺して、手が勝手に動いていたらしく、ディスプレイ画面には”そそそそそ……”と文字が並んでいて、顔から火が出そうな思いで、急いで削除した。
「一体どうしたって言うのよ、美都」
愛未”アミ”の声に、
「どうしちゃったの? 美都」
と、愛実”エミ”の声が重なる。
「い、いや、なな、なんでも……ないない!」
手をぶんぶんと振りたくる。我ながら大げさすぎなリアクションに、「絶対に、なんかあったでしょ?」と、アミがじっとりと疑わしげな目を向ける中──
「川嶋さん、もう打ち合わせの議事録は作成できたか?」
急に背後から矢代チーフに、肩にぽんと手を乗せられたものだから、驚きのあまり「ひゃー!」と、すっとんきょうな声が漏れた。
「悪い、驚かせたか?」
矢代チーフに申し訳なさそうな顔をされて、「ああいえ、そんなことは……!」と、頭と手の両方を思いっきり横に振る。
「あっ、あの修正箇所をまとめた議事録の方は、あともう少しで仕上がりますので!」
動揺を隠そうと早口で喋って、パソコンに速攻で向き直った。
そんな今にも冷や汗が噴き出しそうな私の顔を、アミとエミが怪訝そうに見つめる。
「そうか、じゃあ頼んだ。それと、僕の方も気づいた改良点をプリントしておいたから、よかったら参考にしてくれ」
矢代チーフから、ホッチキスで留められた紙束が差し出される。
「あ、ありがとうございます!」
「では修正リストが上がったら、それを元に、次のサンプル案も一緒に練るようにするから」
「はい」と返して、ファイルを受け取ろうとした際に、チーフがふと思い出したように、
「……ああそれと、今日のランチ、美味しかったな」
唇の片端を軽く引き上げたイケメンすぎなスマイルとともに、そんな一言をポツッと告げたものだから、私はまた「ひゃー!」と、声を上げる羽目になった。