コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
美晴は手元に届いているパーティーの招待状を見た。どこから入手したのか不明だが、運営からこの招待状が届いた。幹雄とこずえの婚約パーティーのものだ。
メディアなどに発表するため、招待券がないと中に入れないが、そんなものは運営の手にかかれば造作もないことだ。
さらに今回、ボディーガードと目くらましに隆也を使うらしく、ふたりともとびきりのドレスコードで来いとの通達だった。美晴のために爽やかなグリーンのドレスも送られてきた。
松本家を逃れるために荷物は最小限にしたため、ドレスについては美晴にとってありがたいものだ。以前隆也が誘ってくれた食事へ行った時は、亜澄から洋服を借りたくらいだ。余分なものは持ち合わせていないことも考慮してくれる運営に、拍手喝采を送りたい。
準備をして会場に向かおうとしている時だった。美晴のスマートフォンが鳴った。表示は‘隆也先生’となっている。
「先生! おはようございます」
『美晴さん、いよいよですね』
「はい。先生がいてくださったら心強いですが、大丈夫でしょうか。もし先生に危害を加えられたりしたら…」
『大丈夫です。松本和子さんは来られないようですから、僕のことをわかる人間はいないと思いますよ』
「それなら安心ですね。でも、油断せずに行きましょう」
『あの……美晴さん。色々終わったら、また一緒に祝杯をあげませんか? お話したいことがあります』
「わかりました。ぜひ、先生と一緒に勝利を分かち合いたいです!」
『よかった。では、のちほど』
異性でも話しやすく、他人である自分の身を案じてくれる人が身近にいるなんて、と美晴の顔がほころんだ。頼もしい彼の存在は、美晴の大きな心の支えになっていた。
(さあ、行こう! 決戦はホテルの会場よ!!)
美晴は無意識にお腹を撫でていた。殺された子のためにも、彼らが地獄に落ちる瞬間をこの目で見届けなければ――
招待状を忘れず鞄に入れ、タクシーで会場に向かった。会場はクラウンホテルだ。
これは嫌味なのだろうか。美晴が働くカフェ『ホワイトシェル』があるホテル。格式高く豪華絢爛な広いホールは、芸能人たちも利用するような空間だ。松本家の力と財力を示す場としても機能する。
恐らく、見せつけたいのだ。世間に『松本家はここから起死回生する』と。
和子の失態を払拭させるために。
美晴は入口で招待状を出した。受付に渡す際に心臓が飛び出そうになるほどドキドキしたが、難なく通過できた。ほっと胸を撫でおろしてホール内に足を踏み入れる。
辺りを見回すと、入口付近で待機していた亜澄の姿が視界に入った。早速そちらへ向かう。
見ると亜澄は数人のスーツを着た男女のグループへ招き入れてくれた。紹介を受けると、彼らは松本会計事務所の職員、及び上原こずえに酷い目に遭わされた被害者たちだった。
美晴は「松本幹雄の妻で、美晴と申します」と名乗った。
「あれ…専務(松本幹雄の役職)は奥さんとは離婚したって聞きましたが…」
濃紺のスーツを着た男性職員が首を傾げた。彼はまだ若そうだ。三十歳手前で端正な顔つきをしている。鷲鼻が特徴的だった。先ほど名刺もらった。名は長田勇気(おさだゆうき)と書かれている。
「いいえ。まだ正式には離婚しておりません」
「えっ…それなのに別の方と婚約発表ですか? なに考えてんだあの人…」
「でも専務ならやりそう。頭悪いもん」
長田勇気の隣にいた猫毛でふわっとした髪の女性が言った。彼女からも名刺をもらった。浦野志摩(うらのしま)と書かれていた。「女性職員の採用基準は顔とか平気で言うヤツじゃん。クズだし、人の心がないんだ」
「確かに」
「奥さん。ここにいるみんなは、専務を恨んでいる人ばかりです。私も親友がひどい目に遭ったので、敵討ちにきました」
聞けば酷いセクハラに遭い、鬱になってしまった親友の証拠を持ってきたようだ。セクハラ行為の証拠や診断書などがあるようだ。