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たくさんの客や遊女で賑わう遊女屋にも、人目が届かない場所がある。階段の影に隠れた一枚の扉。それを開けた先にあったのは、光が入らぬ暗い小部屋だった。
天井から鎖で吊るされ、身体を吊るし上げられている幼女がいた。名は夏蝶。この遊女屋で生まれた遊女見習いだ。
夏蝶の身体は、大人からしたら座ったとき両腕だけを吊るされる程度の位置にある鎖に吊し上げられており、その身体はわずかにぷらぷらと揺れていた。
夏蝶の身体からは血が流れ出ていた。
無数の切り傷から赤い血が流れ、とても服とは呼べないボロボロの布切れを伝い滴り落ち、床に大きな血溜まりを作っている。
これだけでも痛々しいというのに、夏蝶は顔までもが酷い有様だった。
両頬は赤く腫れ上がり、片目は瘤で潰れ、瞼は青紫色に変色し、力なく開いた口からは、ようやく生え揃ったであろう歯が数本欠けていた。
「あれはお前を産んだ女だが、お前の母ではない。今後、あれを母と呼ぶな」
いつ出血死になってもおかしくない夏蝶に、腰が曲がった老婆がしわがれた低い声でそう吐き捨てた。
その声音は怒りの感情が込められ、吐かれた言葉は氷のように冷たく、夏蝶を睨む眼は強い軽蔑の色で塗れている。
夏蝶は激しい折檻の末、抵抗することも泣くことも出来ない身体にされたせいか、老婆の言葉にただ小さく頷くだけだった。
しかし、夏蝶の行動に老婆は不機嫌そうにシワシワな顔をさらに歪めさせ、手に持っていた杖で夏蝶の鳩尾を殴る。
「がっ……」
「返事は“はい”だろうが」
鳩尾を殴られた痛みと息苦しさに悶える夏蝶に老婆は続けて頭を杖で殴る。
軽い木製の杖ではあるが、それでもまだ五つにもなっていない夏蝶に必要以上の痛みを与えるには十分だった。
老婆の容赦ない打撃が身体を襲い、その度に夏蝶は痛みで呻く。普通なら泣いてしまうほどの体罰であるはずなのに、それでも夏蝶は泣かなかった。否、泣けなかった。
夏蝶はいくつか欠けた歯を食いしばながら、必死に声を出そうとする。しかし、声を出そうとする度に殴られ、結局出てくるのは言葉にならない悲鳴か、声になり損ねた息と血反吐だけ。
宙吊りの不安定な体勢で殴られ続け、その度に身体が揺れ、吊るされた腕がちぎれてしまいそうな激痛が走る。
大量出血で朦朧とする意識の中、夏蝶は痛みの波に耐えきれず、プツリと意識の糸を切った。