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――今日はお休みである。
私のお店には、いわゆる定休日というものが無い。
何故かと言えば、お客さんはすべてポエール商会に仲介してもらっているからだ。
そのため、予定が何も無い日は自由に休むことができる。
いずれは普通に、お店を開いても良いんだけどね。
「――おはようございまーす」
「アイナさん、おはよう。昨日は楽しかったよ!」
10時過ぎ、私はアドルフさんの鍛冶屋を訪れた。
昨日は海辺でバーベキューをしたんだけど、グリゼルダがアドルフさんにも声を掛けてくれたのだ。
そこで一緒に食事を楽しんだ際、仕事の件で約束を入れていたんだよね。
……約束をしておかないと、ポエール商会の方にまた行ってしまいそうだし。
「今日はお仕事を持ってきました!」
「おぉ! ついに俺も、本格始動だな!」
「本格始動できなかったのは、誰のせいなんですか……」
「すまん……」
素直に謝るアドルフさん。
やっぱり自分でもダメだとは思っていたんだね。ちょっと遅いんだけどね。
「でもまぁ、ここからなので大丈夫ですよ。
さて、面白い仕事とあまり面白くない仕事がありますけど、どうしますか?」
「え? 選べるのか?」
「いえ、最終的には両方やってもらうんですが」
「ぬぬ……。それじゃ、面白い仕事から頼む……!」
「こっちはアドルフさんなら簡単だと思いますよ!
えぇっと……一応紙に書いてきたんですけど、こういう鉄板を作ってもらいたいんです。
平べったいところに、こう……半球が並んで空いているような感じの鉄板を……」
「ふむ……。……これ、何に使うんだ?」
「私の故郷のお料理を作るための道具なんです。
たこ焼きっていうんですけど」
「たこ? タコをこの穴に詰めて焼くのか……?」
「いやいや、小麦粉で作った生地を入れてですね、そこにタコの切り身を入れて……。
それで、片面が焼けたらくるっとひっくり返すんです」
「ほほー。それじゃ出来上がりは、丸い形になるんだなぁ。
ちょっと想像が付かないけど、面白そうな料理だな」
「ふふふ♪」
「……でもこれ、料理が面白いのであって、仕事としては別に……」
「えぇー? 出来上がったら、アドルフさんにもご馳走しますよ!?」
「そ、それはありがとう……。
まぁこれくらいならやってやるよ。……でもこれ、俺の仕事か……?」
「いやー、鉄の加工ですし……?」
「いやいや。武器やアクセサリを扱う鍛冶屋に持ってくる仕事ではないぞ……?」
……それもそうか。
例えば錬金術のお店だって、そのお店ごとに方向性があるもんね。
「もしアレでしたら、知り合いの鍛冶屋にお願いしても……」
「知り合いって言っても、この街の鍛冶屋は俺だけだからなぁ」
「むむぅっ」
この街の人口は、まだまだ少ない。
つまり職人さんも、土木建築に関してはかなり多いが、それ以外はさっぱりなのだ。
ちなみに錬金術師もまだ私だけ。……こっちはあんまり、移住してきそうもないけどね。
「それで、面白くない方の仕事っていうのは?」
「えーっとですね、武器やアクセサリが大量に欲しいんですよ」
「大量? それって、どれくらいだ?」
「1000個とか」
「ぶっ!!?」
私の答えに、アドルフさんは盛大に噴き出してしまった。
10個や20個ならまだしも、桁が違うもんね。
「全部が全部、凄いものである必要は無いんです。
でも、1割くらいはアドルフさんに作ってもらいたいなぁって」
「それはまた、無理難題を言ってくれる……。
しかし残りの9割は、他の鍛冶師に任せても良いんだよな?」
「はい。ちなみにマイナーな武器とか、人を選ぶようなアクセサリがあると嬉しいです!」
「はぁ……?
マイナーとか、人を選ぶとか……。展覧会でもやるつもりなのか?」
「おー、その発想はありませんでした!
そのうち、そういうのをやっても良いかもしれませんね。
私、個人的にはアドルフさんの個展が見てみたいです!」
「ははは、それも良さそうだ。
……ま、アイナさんの頼みなら断れないからな。
さすがに量が多いから、代金は前払いでもらうぞ?」
「はい、大丈夫です。
結構無理なことを言っている自覚はあるので、他に何かあれば相談してください!」
「おう! ところで、納期は?」
「3か月後くらいだと助かります!」
「ぶっ!!?」
アドルフさんが、また噴き出した。
1000個の1割を作るのであれば、その数は100個。
納期が3か月後というのであれば、1日1個作っても追いつかない計算だ。
「もちろん、アドルフさんの分は弟子の方に手伝ってもらっても大丈夫ですから!」
「まだいないぞ!?」
「んー……、仕方ありません。難しそうなので、4か月後でも大丈夫です」
「う……。多少は助かったが、それでもなぁ……」
「今回の仕事、以前から言っていた『秘策』の一部なんです。
この街を発展させるために、是非ご協力をお願いします!!」
「むぅ……。それを言われると弱いな……。
分かった、何とかするよ。どうせこれ以上は引いてくれないんだろう?」
「えへへ、その通りです♪
さすが付き合いが長くなってきましたね!」
「はぁ……。まぁ、出来るだけのことはするよ。
全部違うものを作るんだろう? ……時間があれば、面白い仕事なんだがなぁ……」
「私もちょっと、今まで言い出すタイミングが無かったんですよね。
アドルフさん、職人組合の仕事で楽しそうだったから」
「おいおい、人のせいにするなよ――
……って、半分以上はその通りだから、何も言い返せねぇ……」
今さらではあるが、振り返ってみれば、強引にでも仕事を伝えておいた方が良かったかもしれない。
それについては、私も大いに反省するところだ。
「ところで、正直アドルフさんの分は大丈夫だと思うんですが」
「思うなよ……。いや、それも信頼か。ありがとよ……」
「いえいえ。それで、他の9割は大丈夫かなって」
「うん、まぁ正直無理だな。
しかしここで、俺のやってきたことに意味が出てくるんだ!」
「え?」
アドルフさんの思わぬ強気に、私は驚いた。
ここで無理なら、クレントスの鍛冶職人を当たろうと思っていたんだけど――
「実は職人組合の企画として、特定分野の職人で大会を開こうとしていたんだよ!」
「私それ、聞いてませんよ!?」
「ふふふ、俺の肝入りの企画だったからな!」
肝入りとは言え、この街の意思決定者である私を差し置いていくとは!
でも面白そうだから、これはこれで良し!!
「そういえば確かにこの前、企画がどうのって言ってましたよね」
「ああ、でも安心してくれよ? そっちの仕事はもう、商会の担当者に引き継いだからな。
……最後までやりたかったけど……」
「まぁまぁ。この仕事が終わったら――……ああ、いや。また頼む仕事はあるんですが」
「活況で何よりだ……。
それでな、第1回の大会では鍛冶師を集めようと思っていたんだ。
実際、ある程度の鍛冶師には声を掛けていてな」
「おぉー」
「だからその繋がりで、900個の方も何とか賄えると思うんだ。
俺はもうそっちの方は動けないから、ポエール商会に頼まざるを得ないんだが」
「なるほど。
残りの9000個はポエール商会に頼もうと思っていたんですが、合計で9900個頼むことになりますね……」
「は、はぁ!?
……まだそんなに確保する気だったのか……!?」
「ふふふ♪ でも、そっちは市販品で十分なんです。
ポエールさんには秘策の内容を伝えないといけませんし、私の方からお伝えすることにしますね」
「お、それじゃそうさせてもらおうかな。
俺もその流れで、弟子を本格的に探すとするか……」
「はい、お願いします!
半年後には全部準備が終わって、何とかなりそうな気がしてきました!」
「そうだなぁ。この半年で、ずいぶんこの街も整ったもんな……。
また半年後、どうなっていることやら……」
「夏も終わって秋になる頃、ですもんね。今年は収穫祭をやろうと思っているんですよ。
この辺りは漁業が中心ですけど、少し離れた村では農業が中心ですから」
「ほー。この街も、さらに賑やかになりそうだなぁ。
俺も楽しみにしているとするか。……その頃には、100個の何かも出来上がっているはずだし……」
「あはは、よろしくお願いしますね♪」
「ああ。よろしく、な」
――……そして時間は流れる。
海洋都市マーメイドサイドは、ここから急速な発展を遂げることになるのだ。
コメント
1件
お疲れ様です、みぅです🤍🥀 今回の話、アイナさんがアドルフさんにたこ焼きプレート作らせようとしてるのが可愛かった(笑) でもそこから一気に1000個単位の武器依頼になるギャップがすごくて…アイナさんのスケール感、毎回デカいなあって思ったよ。 それにしても、この街がどう発展していくのか、私もワクワクしながら見守ってます🌙✨
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成瀬りん
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