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その日、ノクティス邸はいつもより少しだけ賑やかだった。
普段は静かな廊下に、ぱたぱたと軽い足音が響く。
私は揺り籠の中から、ぼんやりと天井を眺めていた。
(……なんか、にぎやか)
「ルクシア、起きてるか?」
そう言って近づいてきたのは、幼い男の子の声。
黒に近い濃紺の髪、父とよく似た顔立ち。
少しだけ背伸びしたような立ち方で、私を見下ろしてくる。
「……あ」
(この子……)
「ユリウス様、あまり近づきすぎると……」
「だいじょうぶ! オレ、ちゃんと見てるだけだから!」
そう言って胸を張るのは、
私の兄――ユリウス・ノクティス。
(兄、だ……)
原作では、ほとんど関わりのなかった存在。
それどころか、妹に興味すら示さなかったはずの人物。
なのに。
「……ちいさい」
じっと私を見つめて、ぽつりと呟く。
「ちいさくて……かわいい」
(……)
その言葉に、周囲の空気が一気に緩んだ。
「ユリウス様、顔が近いです」
「う、うるさい! 妹なんだからいいだろ!」
(完全にシスコンの素質あるな……)
そんなことを考えていると、
今度は別の足音が近づいてきた。
「ユリウス」
落ち着いたけれど、同じくらい幼い声。
「さわりすぎると、なくぞ」
「さわってない!」
二人並んで立ったその姿を見て、私はすぐに分かった。
(……王子だ)
金色に近い明るい髪。
少しだけ気取った服装。
この国の第一王子――
レオンハルト・アウレリウス。
けれど、年齢は兄と同じ四歳。
まだ「王子様」というより、
少しお行儀のいい男の子、といった雰囲気だった。
「……これが、ルクシア?」
レオンハルト王子は、私を見て首を傾げる。
「……まぶしい」
(え)
「ひかってるみたい」
ユリウスが、ぱっと私を庇うように前に出た。
「ルクシアはオレの妹だからな!」
「しってる」
レオンハルトは、少しだけむっとした顔をする。
「でも……」
そっと、私のほうを見る。
「……かわいい」
(……また)
どうしてだろう。
原作では、私に向けられる視線は、いつも冷たかったのに。
今は。
「ルクシア、オレがまもるからな!」
「……ぼくも」
二人の小さな背中が、並んで揺り籠の前に立つ。
(……なに、この状況)
まだ言葉も話せない赤ちゃんの私に、
小さな騎士と、小さな王子が真剣な顔で向き合っている。
胸の奥が、少しだけくすぐったくなった。
(……嫌われないように、って思ってたのに)
気づけば、
守られる側になりつつある気がする。
この世界での私――
ルクシア・ノクティスの未来は、
どうやら、原作とはだいぶ違う方向へ進み始めているらしい。