テラーノベル
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深層の部屋に、重たい空気が満ちていた。
ないこがギターを握ると、白吼は無音のマイクを手に立った。
楽器ではない。武器でもない。
それは“存在証明”を賭けた、ふたりだけの道具。
冥晶:「……あのマイク、普通じゃない。
たぶん、“響導研究所”が作った感情制御型……!」
白吼:「察しがいいな。
“感情の音域”を奪い、上書きする装置さ」
白吼:「お前の声も、歌も、感情も――全部、俺のものになる」
ないこ:「……ふざけんな。
お前が誰でも、俺の声は、俺だけのもんだ」
白吼は笑わない。
その瞳は、誰にも期待していない者の冷たさを湛えていた。
白吼:「なあ、“ないこ”。
もしお前が、何も失ってこなかったら――
俺たちは入れ替わってたかもな」
ないこ:「……それでも、お前じゃない。
お前には、“冥晶”がいない」
冥晶:「!」
その名を呼んだ瞬間、ないこの背に音が灯った。
記憶。後悔。怒り。叫び。
全部を抱えてきた“冥晶”の音色が、ないこの音に溶ける。
ないこ:「俺たちは“共鳴”してる。
だからもう、お前に奪われるもんなんか、ねぇよ」
白吼のマイクが振るわれた。
無音の波が空間をえぐり取るように襲いかかる――が。
その音は、ないこがかき鳴らすギターの旋律で弾き返された。
白吼:「……!」
ないこ:「“音が出ないバトル”ってのも、悪くねぇな。
お互い、声のない過去で生きてきたんだ。
だからこそ、音だけでぶつかろうぜ」
ギターとマイクが、火花を散らすように衝突する。
音はない。けれど、心が響き合う激しさは、世界を揺るがすほどだった。
それはまさに、“音楽”そのものだった。
冥晶:「(……見せてやれ、“ないこ”)」
冥晶:「(お前が、壊れたままで終わらなかった理由を)」
そして――
遠く、現実世界のモニターが、ざざっとノイズを吐いた。
“響導研究所”のデータベースに、
何者かのログイン履歴が記録される。
【B-00:再起動】
【音響中枢との連動:開始】
闇は、まだ終わっていなかった。
次回:「第四十一話:声なき反響、白吼の過去」
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