「美味しいよ、アリアちゃんの味がする……」
うぅ~~~、だから、わたしの味ってなんなの!?
ダメだ! なんだかゾワゾワする!
でも! さっちゃんの気分が回復するんなら我慢するよ!
「あ、氷が無くなったね。また出そうか?」
「ありがとう。でも大丈夫だよ、もう落ち着いたし元気も出たから」
「ならよかったよ」
表情も声色もいつものさっちゃんだ。
それから少しお話をした後にお風呂を出て、着替えた後にリビングに戻った。
すでに朝食が準備されていたので、二人で食べる。
「おー、今朝も豪華だねー。お母さんをちょっと見直したよ」
「あんたの為じゃないからね」
「見たら分かるよ。さー、さっちゃん! いっぱい食べてね!」
「うん。クレアおばさん、ありがとうございます」
「いいのよ。さ、召し上がれ」
「はい」
すごく肉肉しい朝食だね。
朝からこんなのを食べたら一日中気持ち悪くなりそう。 わたしは普通の朝食でよかったけど、これはさっちゃんへのお礼だからね。
「はい、あーんして!」
「あーん……ん、ありがとう」
「いいよ。次はこれ! はい、あーん!」
「あーん……、うん、美味しいよ」
そんな感じで楽しい朝食を終えた。
今日は茄子が出てこなかったので一安心だ。
最近のお母さんは油断できない。天使だと思ったら次の瞬間には悪魔になってる。
……いや、悪魔が天使の服を着てるだけかも?
「食べ終わったんなら、学校に行く準備しなさい。遅刻したら今月の小遣い無しだからね」
「うん……」
やっぱり悪魔だ。天使はお小遣い無しなんて言わない。
きっと、わたしに嫌がらせをする為に地獄からやってきたに違いない。
わたしを苦しめたら力が増すんだ。悪魔は負の感情で力を増すとか絵本に書いてあった気がする。
お母さんは大悪魔とかを目指してる修行中の悪魔で、天使の服を着て人間に近づき、油断したところに思いっきり嫌がらせをして負の感情を集めてるに違いない。
……そうだよ、昨日の晩御飯もそうだった。
さっちゃん大好きフルコースからの茄子地獄を味わった。負の感情が大爆発だ。このままじゃダメだ、何か対策をしないと……。
「アリアちゃん、考え事は後にしよう。まだ余裕はあるけど、のんびりしてたら本当に遅刻しちゃうよ」
「うん……」
こうして考えてるのも悪魔の作戦に違いない。時間を使わせて遅刻させようとしてるんだ。
……わたしは負けない! 悪魔に打ち勝ってみせる!
「さっちゃん、急いで着替えよう! 悪魔の作戦に乗っちゃダメだよ!」
「……うん、そうだね」
部屋で学校に行く支度をする。
わたしは昨日と同じ、質素な服を選ぶ。着替える時間も省けて一石二鳥だ。
「よし! 準備完了! すぐに行こう!」
「……今日もその格好なの?」
「う、うん。ダメ……かな?」
「アリアちゃんは可愛いんだから、もっと可愛らしい恰好の方が似合うよ」
「うーーーん、そうなんだけど、そんな気分じゃないとないと言うか何というか……」
「私が選んであげる」
「うん……」
さっちゃんコーディネート……たまにはいいかも……。
「……これって、学校に行く恰好かな?」
「うん、凄く可愛いよ」
さっちゃんが時間をかけて選んだコーディネートは、どう見ても学校に行く恰好ではなかった。
わたしが持ってる服の中でもとびっきりに可愛くて、機能性ゼロの服。
アクセサリーもキラキラした物でたくさん着飾ってる。
学校じゃなくて、誕生日パーティーの主役みたいな恰好……お姫様スタイルだ。
「……これで学校に行ったら先生に怒られない?」
「大丈夫だよ。何か言われても、私が守ってあげる」
「さっちゃんがそう言うなら……」
超優等生のさっちゃんがそう言うなら大丈夫かな?
先生方も強く言えないよね、きっと。
「……うん! じゃあ、これで行こう!」
せっかくさっちゃんが時間をかけて選んでくれたんだもん、無駄にしたくない。
先生に何か言われても堂々と反論する! 「女の子が可愛くなって何が悪い!」と。
「アウレーリア……、あんた、正気?」
「何が?」
「その恰好よ」
「可愛いでしょ! さっちゃんが選んでくれたんだよ!」
お母さんがさっちゃんを見るけど、さっちゃんは笑顔で頷いてるだけだ。
うん、何も悪いことはしてないんだから、堂々としてればいいんだよ!
「それじゃ、行ってきまーす!」
「……いってらっしゃい」
外に出ると周りの人達がわたしを見てくる。分かるよ、その気持ち。
……今のわたしって、すっごく可愛いから!
「アリアちゃん、久しぶりに手をつないで行こう」
「うん、いいよ」
家から学校まで一緒なんてすごく久しぶりだ。
たまには手をつないで登校するのもありだよね。
「ジョンさん、おはよー!」
「おう! 嬢ちゃんおはよ……てか、今日は凄い恰好してるな……」
「可愛いでしょ!」
「そうだな……。まあ、なんだ……、学校頑張れよ」
「うん! ジョンさんもお仕事頑張ってね!」
ふふ、みんなわたしを見てくる。全員、わたしの可愛さにメロメロだ。
最近は質素な服でいいかもと思ってたけど、やっぱり可愛い方がいいよね。
校門が近づいてきても、ずっとわたしは注目されている。
校門前では校長先生が挨拶に立っていた。
「校長先生、おはようございます!」
「はい、おはよう。……君ね、その恰好はちょっと派手過ぎないかい? いくら服装は自由だといっても、ある程度の節度が……」
「私のアリアちゃんに酷いこと言わないで」
「君ね、校長先生に向かってその口の聞き方は……」
「黙れ、殺すよ」
「「!?」」
さっちゃん! ものっすっごい殺気出てるよ!!
それに、校長先生になんてこと言ってるの!?
「黙れ」とか「殺す」って……そんなこと言っちゃダメだよ!!
「き、君ね、人に向かって殺すとか……」
「私のアリアちゃんを傷付ける人はみんな敵。校長先生とか関係ない。敵は殺す、それだけ。校長先生、あなたは……敵?」
「ッ」
また正気を失ってる!? 黒いオーラとかは出てないけど明らかに普通じゃない。
超優等生のさっちゃんは先生に向かって殺すとか物騒なことは絶対に言わない。
「さっちゃん! 落ち着こう、ね! わたしは全然大丈夫だから、傷付けられてないから! 校長先生は敵じゃないから!」
「……アリアちゃんがそう言うなら信じるよ。それじゃ行こう。校長先生、失礼します」
「あ、ああ……」
……よかった、わたしの言うことは素直に信じてくれた。
さっちゃんに手を引かれて校舎に入ったけど、注目度が増した気がする。
そりゃ、校長先生に向かって「黙れ」とか「殺す」なんて言ったら注目を集めるよね……。
「さっちゃん、校長先生にあんなこと言ったらダメだと思うよ」
「心配しないで、アリアちゃんは私が守るから」
「うん……」
話が嚙み合ってるようで嚙み合ってない気がする。
……この感じ、幽霊に乗っ取られた時に似てるような……。
家では普通だったし、登校中も普通だったから大丈夫だよね。今日のコーディネートだけはものすごい違和感だけど……。
「それじゃ、また放課後にね。図書室で待ってるから」
「アリアちゃん」
「うん、なに?」
「これに氷を入れて欲しんだけど、いい?」
出されたのは大きめの水筒だ。
何の為に持ってるのかずっと疑問だったけど、氷を入れる為だったんだね。
……あの氷、そんなに美味しいのかな? わたしの味って言ってたけど、それって美味しいの?
「喜んで入れるよ。……氷!」
「ありがとう」
「なくなったら何時でも言ってね、すぐに補充してあげるから」
「うん」
さっちゃんは出された氷を一つ食べて嬉しそうにしてる。
……うん、喜んでくれてるならそれでいいよ。
「またね」
「うん!」
教室に入ったら第2次質問ブームが待っていた。
第一にわたしのお姫様スタイルについて。
第二がさっちゃんの「殺す」発言についてだ。
「アリアちゃん、その格好なに、どうしたの?」
「さっちゃんにコーディネートしてもらったんだよ。可愛いでしょ」
「さっちゃんさんかー……。あの人ってさ、実は不良なの?」
「ほえ?」
……さっちゃんが不良? なんで?
みんな、何度も一緒にお泊り会してるし普通に会話もしてる。わたしが失敗して助けてもらう……そんな光景を何度も見てるよね? すごく優しい友達だよ。
「さっちゃんは不良じゃないよ。みんなも知ってるでしょ?」
「だって、校長先生に殺すとかって言ったんでしょ? 危ない人だよ」
「……あれはちょっとした勘違いだよ。わたしの恰好を注意されて、さっちゃんがちょっと怒っちゃっただけ」
「でも、「指懲室」に連れて行かれたみたいだし、よっぽどだよ」
「え? 指懲室?」
指懲室。
正式名称は「生徒指導懲罰室」。
悪いことをした生徒が呼ばれる教室。
でも、よっぽど悪いことをしないと呼ばれない。普通は職員室や空き教室で怒られて終わりだ。ここに呼ばれる程の悪いことは、街にある掲示板に載るレベルの悪いこと。
犯罪者って意味。
わたしが知ってるだけでもこの教室に呼ばれた生徒は数人だ。
みんなが根っからの不良って感じで、学校での「悪い意味」での有名人だった。
呼ばれる理由の多くが、何度注意されても喧嘩を繰り返して最後には相手に大怪我させた場合とか。
……え? そんな人達とさっちゃんが同類? 超優等生だよ? すごく優しいよ?
殺すとか言っちゃたのは、きっと幽霊の影響が残ってたのと、わたしを大切に思ってくれてるから。
……そんなことが理由で不良に思われて、指懲室に連れて行かれたの?
「さっちゃんさん、転校しないといいね」
「!?」
……そうだ、指懲室に呼ばれた生徒は転校しちゃう。
転校の理由は知らない。けど、指懲室での出来事が原因だとみんなが思ってる。かなりキツイことを言われるに違いない。だって、根っからの不良が転校しちゃうくらいだから。
今まではおっかない不良がいなくなってよかったとしか思わなかったけど……。
「さっちゃんが転校……」
手が震えてる。
心臓のドキドキが強くなってる。
汗が出てくる。
「指懲室に行ってくる!」
「おーい、ホームルーム始めるぞー。アウレーリア、席に着けー」
「でも!!」
「アリアちゃん、座ろう、ね」
「……」
隣の子に手を引っ張られれて座らされる。
「……」
「指懲室に行っても入れないよ、落ち着こう」
「うん……」
そうだ。指懲室には先生と本人しか入れない。
でも……。
ついさっきの光景が浮かぶ。
氷を嬉しそうに食べてるさっちゃんの笑顔。
……ダメ。
…………いなくなっちゃう。
………………さっちゃんを、助けないと。
「せんせー、アリアちゃんの具合が悪そうでーす」
「んー、そうだなー。保健委員、保健室に連れて行ってやれ」
「はーい」
隣の子(保健委員)が先生にそう言ってくれて、わたしは付き添われて保健室に向かうことになった。
授業を受けられる気分じゃないので丁度いい。それに、保健室の先生がいなかったら抜け出せるかも知れない。
……指懲室に入れなくてもいい、近くにいたい、何かしてあげたい……。
「さっちゃんさんが気になるんだよね?」
「うん……」
「私、授業に遅れたくないからここで戻る。保健室には1人で行ってね」
笑顔でウインクしてきて、指懲室の方を指さした。
……これって、指懲室に行っていいって意味だよね。
「じゃあね、アリアちゃん。無理しちゃダメだよ」
「うん! ありがとう!」
いい友達を持ったよ!
待っててさっちゃん! 今行くから!!
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