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俺は呆然として美紅を見た。これが本当にあの美紅なのか? 姿形は確かに美紅そのものだ。だが、雰囲気がまるで違う。別人としか思えない。普段の美紅はどこかボーっとした感じで半分眠そうな顔をしているが、今の美紅は目が見開かれて顔つきも凛としている。なんというか、突き刺すような鋭いオーラの様な物を感じる。
ふと横を見ると、絹子も同じようにポカンと口を開けて呆然と美紅の姿に見入っていた。その時、すぐ横の階段からズダダダ……という派手な音がした。あいつらの誰かが転げ落ちたらしいな。踊り場あたりから子分連中の悲鳴が聞こえる。
「住吉さん……う、うわぁあああああああああああ!」
あの声はただ事じゃない。まず美紅が階段の方へ歩き出し、俺と絹子がおっかなびっくりで後を追う。案の定、階段の踊り場にあの番長がひっくり返っていたが、周りの子分連中の様子がおかしい。
「い……息をしてねえ……」
番長のそばに座り込んだ子分の一人がつぶやく。な! さては打ち所が悪かったのか? いや、事故とは言えこれはやばい!
と、美紅が落ち着いた足取りで階段を降り、踊り場にへたりこんでいる子分連中に凛とした口調で言った。
「どきなさい……早く!」
「わ……わ……」
子分連中は腰を抜かしたままはいずり回るように住吉の体から離れる。美紅はその場にかがみこんで仰向けに倒れている住吉の頭の上に手をかざし、それから周りの子分連中に命じた。
「上半身を起こして、前の方から支えてなさい・・・早くしなさい!」
「は……はい!」
美紅の迫力に押されたのか、子分連中はすぐ言われた通りにした。美紅は上体を起こされた住吉の背中に回り、両手で住吉の頭の回りの空間を撫でまわすような仕草をした。いや、何かをかき集めようとしているようにも見える動作だ。そして両方の掌を住吉のそれぞれの肩の後ろに当て……
「エーファイ!」
と叫ぶ。うわ!びっくりした。けして大きな声ではないのだが、そばで見ていただけの俺も絹子もまた腰を抜かしそうになった。それぐらい、なんと言うべきか、魂を揺さぶられるような響きのある一声だったんだ。
そして、またまた信じられない事に、住吉がびくっと体を震わせて目を開けた。そして今更ながら大声で痛がった。
「イテテ……あれ、俺は今どうなったんだ?」
「す、住吉さん……今、息が止まってたんですよ……俺たち、もうてっきり……」
「い!そ、そう言えば、なんかでかい川の向こうから二年前に死んだひい婆ちゃんが俺を手招きしてた夢を見てたが……」
ああ、そりゃ三途の川ってやつだな。ううむ、臨死体験てのはほんとにあるんだな。