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――裏切り者たちに、帝国の力を思い知らせてやるわ!


国境を越えたところに、レグヴラーナ帝国の兵とお父様が待っているのが見えた。

これは、お父様が計画していたとおりの筋書きだった。

お兄様とお姉様が人質になったとしても問題ない。

むしろ、敵国で処刑されるなりしてくれたほうが、お父様にとって都合がいい。

私が傷つけられたり、不当な扱いを受けたら、一気に攻め込んでやると、お父様は意気込んでいるくらいだ。

私の話を聞いたら、見せしめに町一つくらい焼いてしまうだろう。

でも、もう遅いわ。

父様に全部言いつけてやるんだから!


「ロザリエ。無事に戻ってきたか」


私を心配したお父様が、ドルトルージェ王国の国境を越え、大勢の兵士と共に、迎えに来てくれていた。

早くお父様に、お兄様の裏切りを伝えなくてはと、馬車を降り、侍女たちに支えられながら歩いた。


「お兄様が裏切ったの! お姉様をかばって、私に恥をかかせたのよ!」

「ラドヴァンが裏切っただと!?」


まさか、お兄様が裏切るとは思っていなかったのか、お父様は激しく動揺した。

今まで、お兄様はお父様に気に入られようと必死だった。

いつもお兄様をそばに置いていた私だって、裏切られて驚いたんだから、お父様が驚くのも無理はない。


「それに、お姉様は毒の神の加護を受けてるからって、敵国でチヤホヤされて、私より素敵なドレスを着ていたの! 許せない!」

「毒の神の加護だと? 神など、ただの伝説だろう?」

「違うわ。銀細工みたいな蛇を見たもの」

「では、禁書庫にあった本は、おとぎ話などではなく、本物の歴史書だったということか……?」


お父様はもごもご言ってたけど、そんなのどうでもよかった。

私に恥をかかせたお兄様たちが許せない。

敵国の令嬢たちの前で、お姉様をかばうなんて、ありえないんだから!


「裏切り者たちに罰を与えて!」


私のお願いなら、なんでも聞いてくれるお父様。

それなのに、いつまで待っても返事がない。


「あれは……」

「どうかなさって……?」


威厳ある態度を見せてきたお父様が、恐怖で顔を歪ませるのを初めて見た。

お父様の視線を追って振り返る。


「どうしてアレシュ様やお姉様が、私を追ってきたの!?」


岩の高所にいたのは、腕に鷹を止まらせたアレシュ様、シルヴィエお姉様、ラドヴァンお兄様の三人がいた。

そして、その後ろには、赤毛の護衛騎士の一団がいるのみで、お父様が驚くほどのものではない。


「あんな少人数で、勝てると思っているかしら? 帝国の兵士たちなら、簡単に倒してしまうわ」


大笑いする私と、青ざめた顔をしているお父様。

その温度差は、まるで夏と冬くらいの違いがある。


「伝説と同じだ。神々の化身である獣を連れ歩き、その力は国一つを焼くと……」


町一つではなく、国だなんて、冗談でしょと思っていた。

お父様は本気にしているけど、そんなわけない。


「レグヴラーナ皇帝。ドルトルージェ王国と争うということが、、どういう意味なのか、歴史書に残っていなかったか?」


高みから、私たちに告げたアレシュ様は、王子というより、王の風格を持っていた。

焦ったお父様は、兵士たちに命令を下す。


「全員、矢を放て!」


まさか、いきなり戦うことになると思わなかった兵士たちは、隊列を乱し、弓矢を構える。

大量の矢が、蜂の集団のように襲いかかった。


――なに?


アレシュ様が、こちらを見て笑ったのだ。

慌てた様子はなく、たった一言だけ聞こえた。


「ヴァルトル。風をここに」


その瞬間、鷹の姿は消え、鷹は風となり、竜巻が生まれる。

竜巻がすべての矢を飲み込み、折られ、地面に叩きつけられた。


「つ、続けて放てっ!」


お兄様がいるというのに、お父様は容赦なく命令を下す。

アレシュ様は指を軽く、矢に向けて動かしただけ。

矢は見えない風の刃で、切り裂かれ、くだけ散った。

兵士たちはこれが、偶然でないことに気づく。


「ドルトルージェの王子が、竜巻を起こしたのか?」

「あの力はなんだ?」


人とは思えない力に、怯えだし、逃げようとする者までいた。


「ここから、逃げられる者は逃げろ」


お兄様が兵士たちに言った。


「ラドヴァン! 逃げるなど、みっともない!お前は何度逃げるつもりだ!」

「無傷で帰せるのであれば、みっともなかろうが、俺は逃げろと命じる。父上が逃げないというのであれば、一人残ればいいだけのことだ」


今までご機嫌をうかがっていたお兄様はいない。

お父様に冷たい態度を見せ、私のことなど、目の端にも映していなかった。


「許さん! 誰でもよい! ラドヴァンを捕らえよ!」


兵士たちが動く前に、お姉様の声がした。


「レネ」


お姉様は毒の神の名を呼ぶ。


「な、なんだ。花の香り?」

「甘い香りがするぞ」


どこにも花は咲いていないのに、風に甘い香りが混じる。

その香りが毒だと気づいたのは、倒れた兵士を目にした時だった。


「な、なに!? 兵士たちになにをしたの?」

「毒というのは、人を苦しめるものだけではなく、眠らせるための毒もあるんですよ」


兵士たちは睡魔に襲われ、倒れていく。

一人、また一人と……

それは恐怖だった。

じわじわと効く毒の香り。

けれど、不思議なことに、私とお父様だけは眠くならなかった。


「ヴァルトル」


鷹の姿に戻った風の神が、アレシュ様の腕に止まる。

さっきまで帝国側は、大勢の兵士に囲まれて圧倒的に優位だった。

それが今では、私とお父様だけが、取り残されている。


「ど、どうして……?」

「風の障壁を作り、眠らないようにしただけだ」


お父様は偉大なる帝国の皇帝陛下だというのに、剣さえ抜いて構えず、一言も言葉を発することができなかった。

私たちが反撃できないと思ったのか、お姉様は毒の神とともに、近づいてくる。


「ち、近寄るな! 近寄るなぁ!」

「お姉様に殺されるわ! お父様、私を守って!」

「馬鹿者! 皇帝を守れ!」

「そ、そんな!?」


私を前に押し出し、お父様はぶるぶる震えていた。

そういえば、お父様は戦場にでたことがなく、命じるだけだった。

剣を持ったところさえ、見たことがない。

いつも危険な場所には、お兄様を行かせていた。


「お父様。兵を退いていただけますか?」

「わ、わかった。そのつもりだ」


にこっとお姉様は微笑んだ。


「でも、お父様。圧倒的に不利な状況で、兵を退却するだけ終わるとは、思いませんよね?」

「なんだと!?」


お兄様が前に出る。


「父上。皇帝の地位から退いていただきたい」

「ラドヴァン! お前が皇帝になろうというのか……!」


お姉様がずいっと前に銀の蛇を差し出す。


「ひえっ!」


私を見捨てて、お父様だけが体を逃がす。


「お父様。これは取引です」

「取引だと?」

「はい。今日、ロザリエにあってわかったのですが、ロザリエの寿命はあとわずかなようです」


――私の命が残りわずか!?


お姉様の言葉に耳を疑った。


「なんですって……?」

「体内の毒が、徐々に強くなっているようなのです。レネの力で、それが見えたため、急いで薬を渡したのです」

「早く言いなさいよ! お姉様、薬を持ってきて!」

「私はひと瓶だけだと言いました」


お姉様は悲しい顔をし、目を伏せた。


「今まで私は、何度もロザリエと仲良くなろうとしてきました。でも、それをロザリエは否定し続けましたね」


なんだか雰囲気がいつもと違うことに気づいた。

お姉様は私に怒っているのだ。


「兵士たち一人一人に家族がいます。それを考えず、感情に任せて兵を動かしたことは許せません」

「お、お姉様待って、薬をまた作って! お願い! お願いよ!」

「ええ。それは構いません。ただし、解毒薬は渡せません。延命のための薬のみです」


お姉様は怒っていた。

今まで、お姉様が本気で怒ったところを誰も見たことがなかった。


「薬が欲しいのであれば、二度とこのような真似をしないこと。そして、戦争を仕掛けるような真似をしたら、薬を渡さないと、覚えておいてください」


お姉様は自分だけのためには怒らないけれど、人々のためには怒るのだと知った。

もし、お姉様が呪われていなかったら、お父様の後継者はお姉様だったかもしれない。

目覚めた兵士たちは、お姉様の声が聞こえたらしく、それを聞いて涙を流していた。


「お父様はどうされますか? 可愛い娘に生きていてほしいでしょう?」


お父様はうつむいた。

お姉様が要求しているのは、ふたつ。

ドルトルージェ王国に攻め込まないこと。

お兄様の即位を認めること。

これは、脅迫同然。


「ドルトルージェ王国は神が住む土地。その土地に戦争を仕掛けるということは、神に刃を向けたのと同じ。退位だけで済むのをありがたく思ってほしいものだ」


追い討ちをかけるアレシュ様の言葉――お父様が敵うわけなかった。


「……承知した。無傷でいられることを感謝する」


お父様はアレシュ様にひざまずいた。

私も死にたくないのなら、そうするしかなかった。

――自分の命と引き換えに、ドルトルージェ王国に従いながら、生きていく未来が決まったのだった。

呪われた皇女の結婚~敵国に嫁がせていただきありがとうございます!~

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