テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「姉さん。タイムカプセル埋めようよ」「仕方ないなぁ。お姉ちゃんも一肌脱ぐか」
初夏の香りが頬を掠めた。
タイムカプセル。
2人きりの姉妹。クッキーが入っていた缶に手紙と宝物を入れた。
私は折り紙に姉さんへの手紙を書いてお気に入りの
シールを貼った。
姉さんは手紙ときらきらした宝石を缶に入れた。
いつかまた、寂しくなったら掘り返そう。と言って。
どうして寂しくなったらなのか私にはわからなかった。
だって寂しくなったら。と条件をつけたのは姉さんだったから。
とある日だった。
タイムカプセルを埋めた次の日に目を覚ますと、姉さんがいなくなっていた。
母さんがいうにはお使いに行っているそうだ。
父さんはずっといなかった。
産まれたときから私のそばにはいなくて和室のすみの棚に写真がおかれている。
私が産まれたのが9年前だったからきっと9年前にいなくなった。
姉さんはとなり町までお使いに行っているそうで、今日は帰ってこないって。
でも姉さんは帰ってきた。
お昼ごはんを食べてしばらくたって夕方になって5時ぐらい。夏らしい土の匂いが田舎町だった故郷に生ぬるく靡いた。
姉さんは家から少しはなれた川のそばの道を一人で歩いていた。
私が声をかけると少し驚いた顔をしいた。
私は姉さんに言った。
「姉さん。帰ってきてたんだ。もうすぐで夜ごはんだよ。帰ろう。」
「うん。帰りたいね。でも――私家出したから。」
「えー?暑いし帰ろうよ」
「ううん。今日は帰らない。」
私はそんな姉さんの態度から友達の家にでも泊まるのかな。なんて考えながら聞いていた。
「ならいいけど。また明日ね」
「うん。またね」
姉さんは控えめに手を振った。
あ。今日は姉さんの好きな餃子が夜ごはんに出るんだった。姉さんに伝えよう。そう思った。
「姉さ――」
姉さん?
そこに姉さんはいなかった。
私の頭の中にはいやな予感が鋭く刺さった。
“川に落ちたんじゃ”
私は急いで川にかけよった。
でもそこに姉さんはいなかった。
私は走って家に帰った。
「母さんっ。姉さんがっ川に」
私は焦ってうまく喋れなかった。
でも母さんは一度目を見開いてからすぐにいつものあたたかな表情になった。
「――大丈夫。姉ちゃんは大丈夫だから」
私を胸に抱いた。
大丈夫なんかじゃないのに。
そう思った。でもなんだか目蓋が重かった。私はそのまま眠りについた。
あれから姉さんは家に帰ってこない。
4年後
「母さんー?どこ?」
「はーい。どうしたの」
「学校行ってくんね」
「あー。はいはい。部活ね」
そういって私は家を出た。
田舎町に中学校は一つだけ。自転車に乗って田んぼの間を走り抜けた。
初夏の香りがあの日のように頬を掠めた。
あの日から帰ってこない”姉さん”がどこにいるのか。
私には分からない。
踏み切りを渡ろうとするとカンカンと音がなった。
自転車のスピードを落とし止まる。
そのときだった。
一つにまとめた長い黒髪が私の横を風のように走りすぎた。
「姉さん?」
口からこぼれた。
踏み切りの真ん中で立ちすくむのは間違えなく姉さんだったから。間違えるはずない。あの日の姉さん。
「姉さんっ。危ないよ」
電車がやってくる。そういいかけたとき、微かに姉さんの唇が動いた。
「ねぇ。寂しいよ」
確かにそう言った。
「え?」
そう言ったとき電車が姉さんを隠すように通った。
姉さんは線路の真ん中にいたのに。
“電車に轢かれた”
私の足は踏み切りの近くのおばさんの家に動いた。
誰か助けを呼ばないと。
「おばあちゃんっ。おばあちゃんっ。」
「あら?どうしたの」
「姉さんが。姉さんが」
「――どうしたの。落ち着いていってみなさい。」
「姉さんがっ電車に轢かれてっ」
おばさんは目を見開いてすぐにいつもの表情にもどった。あの日の母さんみたいに。
「あのね。あなたのお姉さんは。」
蝉が突然鳴き始めた。赤子のように。
「もう。亡くなっているのよ。」
「は?」
私は家に帰った。
「寂しいよ」
姉さんが言ってた言葉。
寂しくなったらタイムカプセルを掘り返そう。
あの日の姉さんの声が脳裏に走る。
私は裏からスコップを持ってきて、あの日タイムカプセルを埋めた辺りを掘り返した。
しばらく掘ると何かにスコップがあたった。
缶だった。
缶は少し錆びていて古いように感じる。
こんなに錆びてたっけ。
その缶を開けた。
そのときだった。
「は?」
その缶には人の骨のようなものが入っていた。
あと手紙。
骨は小さくて中学生の薬指ぐらい。
手紙はあの日私が書いたもの。だってお気に入りの
シールが貼っていたから。
姉さんが入れた手紙も宝石もそこにはなかった。
私は穴の前で脱力したように座るしかなかった。
母さんがそばに座って言った。
「ここにあったのね」
その一言を最後に私は意識を手放した。
『薬指消失事件について 経過報告』
・2017年7月19日 ○○が自宅にて自殺。
・○○の遺体は紐で天井から吊られており首吊り自殺だと考えられる。遺体の右手薬指は切断されていた。
・○○の妹である△△は発見当時布団の中で寝ていたが△△の机の上には血に濡れたハサミ。△△の指先には土が付着していた。その事から△△が薬指の容疑者だと予想される。
・△△には○○が死んだ記憶が全て抜け落ちており、
度々○○の幻影をみる。
・△△は○○の死んだ記憶が頭に甦る度に○○意識を無くし、記憶を無くし何もなかったように起きるそうだ。
△△の健康状態とも相談しつつ経過を観察する。
コメント
1件
うわ、これ…読み終わってしばらく動けなかった。最初の姉妹のほのぼのしたやり取りから、姉の消失、そしてタイムカプセルの中の骨まで、すべてが伏線として回収されていく構成が本当に巧いです。「寂しくなったら掘り返そう」という姉の言葉が、最後の「寂しいよ」に繋がる切なさ。あと、報告書形式で提示される真相の冷たさと、妹の記憶のループ構造がホラーとしても秀逸でした。1話でこれだけの情報量と余韻を残せるのはすごい。続きが気になります。