俺はひとり京阪本線の伏見稲荷駅を目指していた。
時計を見れば午後の3時少しまえ。
駅に向かう道に人の多いこと。修学旅行だろうか、制服を着た学生のグループや外人さんも多いな。
シロは電車が嫌いだというので、
「しばらくヤカンと遊んでおいで」
そう言ってさっき放してあげた。今頃はお山でヤカンと合流していることだろう。
あ、抹茶最中アイスを食べてない! (三徳亭)
ダンジョンを発見して、あのまま裏から伏見神寶神社 (ふしみかんだからじんじゃ) を通って帰ってきたからなぁ。
御劔社 (みつるぎしゃ) の玉露羊羹も食べたかったよな。
まあ、次来たときの楽しみに取っておきますかね。
駅に着くと、……フフフッ。たくさんの狐さんが出迎えてくれた。
というのも、
この伏見稲荷駅は千本鳥居をモチーフにして、数年前にリニューアルされているのだ。
『この写真見せたらキロのやつ悔しがるだろうなぁ』
なんてことを考えながら、駅のホームをスマホで撮影していく。
時刻表を見上げると、お昼のこの時間帯なら10分間隔で電車があるみたいだ。
降りる駅はと、……祇園四条駅だね。
………………
それから電車に揺られること10分、俺は祇園四条駅に着いた。
さて、シロに念話を送ってみますかね。
『シロちゃんや、そっちはどんなかんじ?』
『なになに、あのあと無事にヤカンと合流してお山を案内してもらってるのか。そうかそうか、それは良かったなぁ。帰ったら感覚共有で俺にも見せてくれよな。じゃあ晩ごはんときには呼ぶからもう少し遊んでてくれよな。……おう、またな』
ヤカンと遊んでるなら、シロの召喚はまた後からでいいな。
さてと、
みんなが来るまでにはもう少し時間が掛かりそうだし……。俺は何しようか?
おおっ、饅頭屋さんがあるな。
買っていったらメアリーがきっと喜ぶな。
豆大福でしょう、柏餅でしょう、この『しんこ』ってなんだぁ? ういろうとは少し違うようだけど。じゃあ、その白と抹茶のヤツを3コずつね。
いま買った豆大福 (こしあん) を口に入れながら、俺は祇園の町を巡っていく。
四条通から伸びるこちらの通りは花街になっていて、『お茶屋』さんが軒を連ねている。
いわゆる、お座敷遊びをするところだね。紹介のない一見さんはお断りされることもあると聞く。
昼間あけてある店もあるので、お茶を一服いただくこともできるようだ。(お高いですけど)
しかしまぁ、この辺は情緒があっていいよねぇ。
あれっ、舞妓さん?
なにか立ち往生しているけど、どうしたんだろう。
ああ~、草履の鼻緒が切れたのか。
人はそれなりに歩いているけど、近寄らないで遠巻きに見ているだけか。
……仕方がない。
「大丈夫ですか? 鼻緒が切れたんですね。ちょっと失礼、足をこちらにどうぞ」
折りたたんだままの手ぬぐいを路面にだし、その上に足を置いてもらう。
そして膝を突き草履を手にすると、
「ちょっと待ててね」
もう一枚手ぬぐいをだし、縦に裂いてくるくるくると紐を作ると、それでささっと応急処置をしてあげた。
「これで帰るまでは大丈夫だと思うけど、早めに修理へだしたほうがいいよ」
そう言って立ち去ろうとしたのだが、
――ひしっ。
舞妓さんが俺の腕に抱きついてきた。
ええ――っ。ふつうの舞妓さんはこんなことは絶対しない。
俺が戸惑っていると、
「私いま修学旅行で京都に来てて……、これ借り衣装なんです。何かみんなとはぐれちゃったみたいで、急いで探してたら草履まで壊れてしまって……」
「…………」
「本当にありがとうございます。それと、そのう……、できたらお店まで送って頂けませんか? スマホも友達に預けたままで……」
はい――っ?
仕方ないか、乗りかけた船だしな。
それからはその子の朧気な記憶だけを頼りに、なんとかかんとか『貸し着物屋』にたどり着きミッションコンプリート。
そしてそのあとは……、勿論ガンダで逃げてきた。
――変なフラグは立てさせないぞ。
するとスマホに茂 (しげる) さんから連絡がはいった。
今八坂神社にて参拝を済ませたということだ。
こちらの位置をしらせると、このあとみんなで落ち合うことになった。
俺はひとり石畳でできた花見小路通を四条通に向かって歩いていく。
この辺は料理屋も多いようだ。
今日の夕飯は何にするかな~? 大飯ぐらいの健太郎がいるからな~。やはりここは食べ放題の店に行くべきだろうか。
もしくは、先に特盛を食わせてから店に行くかだよな。
そんなことを考えてる間に四条通へ出てきた。
ここを右だよな。
八坂神社からこちらに向かうということだから、そろそろ合流できるはずなんだが。
……おっ、居たな!
茂さんを先頭に人を避けながらこちらに来ている。
健太郎はキョロキョロし過ぎだ。すこしは落ち着けよな。
「あっ、師匠! おぉ~~~い!」
健太郎が手を振っているが、ヤローから手を振られてもまったく嬉しくない。
それに人の目をあつめてしまってやたらと恥ずかしい。スルーして通り過ぎたいけどそうもいかない。
ああ、もう、ちゃんと見えてるから落ち着けって!
『これでオレも大人になりました!』
昨晩うれしそうに言っていたのに、結局はガキのままじゃないか。
やはり、紗月 (さつき) やマリアベルといったツッコミ役を連れてくるんだった。
無事に合流をはたした俺たちは、とりあえず横の小路へはいる。
この夕方になる時間帯は人が多くて立ち止まることもできないほどだ。
「やぁお疲れ様。割と早かったんだね~」
「はい、運よく協力者に出会うことができましたので。それがなかったら明日までかかっていたかもしれません」
「へ~、そうなのかい。まっ、その話は後ほどゆっくり聞くとして夕食はどこにする?」
「こだわりがなければ、食べ放題の店を探そうと思うのですが」
「僕はそれで問題ないよ」
「私もそれでいいわ」
「オレは食べ放題なら大歓迎っす!」
(おめーさんにゃ聞いてねーよ)
そもそも食べ放題は健太郎のためだかんな。
俺は手招きしてキロを側に呼んだ。
「ここは祇園ですし、そうハズレはないと思いますよ。キロ探してくれるか」
「はい、ゲン様 お任せください」
キロはすぐさまスマホで検索しはじめた。
しゃぶしゃぶ・焼肉・すき焼きと最終的にはこの3つに絞られたが、
『たまには贅沢するのもいいんじゃない』ということで、夕食はすき焼きに決定した。
さて、シロを召喚しますかね。
う~ん、旨かった~。
だけどみんな食べ過ぎだよねぇ。制限時間いっぱいまで誰かさんが粘るから。
そこで腹ごなししようと、鴨川沿いを夜の散策と洒落こんだ。
「師匠!」
どした? 俺が振り返ると、健太郎が見慣れた看板を指差している。
黄色地に赤のどんぶりマーク、【スキ家】である。
「はぁ~~~。ほれ! 先にいってるからな」
ため息をつきながら1000円札を渡すと、追いついてきた時には弁当を2つぶら下げていた。
おまっ……。 調子に乗って2つも買いやがってぇ。
おつりの80円を受け取りレシートを見てみると、牛丼 (並) ・にんにくファイヤー牛丼 (並) 。
もう、なにも言うまい。――やれやれ。
そして翌朝。
起きると牛丼弁当は空になっていた。一つはテーブルの上に、もう一つは床のカーペットに転がっている。
んっ……、なるほどな。一つはシロに献上させられたようだ。
まあ、こっそりひとりで食おうとするからだな。
支度を済ませレストランへ下りていく。
するとレストランは昨日にも増して凄いことになっていた。
俺コレ見たことがある。
あれはたしかY○uTubeの動画だったか。
直径1mの大皿に入った6㎏のカレーライス。(推定)
ライスの上には申し訳程度に目玉焼きと唐揚げがトッピンングされている。
いや、実際は結構な量であるのだが、超デカ盛りカレーライスの上にのせるとどうしてもね。
誰だぁ! こんなの許可したのは?
するとレストランのウエイターが俺に説明してくれた。
「これは料理長の判断でお出ししております。実を言いますと昨日レストランの方に『特定のものが数種類無くなってしまっている!』と苦情が入っておりまして……。もちろんバイキングですので自由に食べられて結構なのですが、その~、何をどれくらい用意していいのやら皆目検討がつかず、また他のお客様のこともありまして……、それでこのような仕儀になったわけなんです」
なるほどね。それは大変ご迷惑をおかけしました。
本人が納得しているのなら、こちらとしては何も問題ないわけで……。
て、いうか健太郎は喜んでいるよね。
周りにいるお客さんも盛り上がってるし、記念撮影までしてる人もいるよね。
俺たちは健太郎をよそに、ゆっくりと朝食をいただいた。
いよいよ京都も最終日。
あとは清明さんに文句言って帰るだけだな。
それにしたって、今回はヤカンの協力にマジ感謝である。
次回会う時にはおいしい物をいっぱい食べさせてあげよう。
それで最終日になる今日は、金閣寺・北野天満宮・晴明神社の3ヶ所まわる予定だ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!