イエローストーン国立公園での観光はとても楽しかった!前世で名前は聞いたことがあるし、映像や写真を見たことはあったけど実際に現地で体験すると迫力の違いを見せつけられたよ。色鮮やかな温泉は見ていて楽しかったし、特にオールドフェイスフル間欠泉はド迫力で思わず拍手をしてしまったくらいだよ。
日本でも地獄巡りに行ったことはあるけど、やっぱり規模が違う。そして、現地に居た人達と存分に交流できたのも良かったかな。何だかなんだで、地球に来てからほとんど政府関係者としか交流出来てなかったからね。ニューヨークで一緒に頑張った消防士さんが居たのは嬉しい誤算だったよ。
警備の問題で滞在は数時間だけだったけど、フェルも楽しそうにしてたから良かった。まあ、落ち着かせるために魔法を使ったのは驚いたけどさ。道理でパニックにならないわけだ。あの人数をまとめて落ち着かせる。相変わらずフェルはチートだ。
といっても、問題なく地球の雄大な自然を満喫できて、一般人の皆さんと交流できたから個人的には満足かな。お土産も幾つか貰ったし。
唯一のハプニングは、ジャッキーさんが不審者に間違えられて連行されたことかな。いや、間違えられて……?
……うん、自信がない。この件は考えないようにしよう。世の中には知らない方が幸せな世界があるんだよ、きっと。
で、翌日。今回は異星人対策室のビルで休んだ私達はハリソンさんから昼食のお誘いを受けた。うーん、偉い人との会食かぁ。何度やっても慣れないんだよなぁ。お堅い感じはあんまり得意じゃないし。
そう考えながらお呼ばれされたんだけど、用意されていたのは合州国のファーストフード。有り体に言えばハンバーガーやフライドポテト何かが用意されていた。
「気楽に食べて欲しくてね。最初の会食で美味しそうに食べていたから用意させたんだ。どうかな?」
「ありがとうございます、ハリソンさん!」
うん、合州国らしくボリュームもたっぷりだ。いざ食べようとしたら、フェルが戸惑っていることに気づいた。
「フェル、どうしたの?」
「いえ、どうやって食べるのか分からなくて……」
確かに器には大きなハンバーガーやフライドポテトがデンっと乗せられてるだけで、食器の類いは見当たらない。
これまではナイフやフォーク、スプーンがあったからね。戸惑うのも無理はないかな。
「こうやって食べるんだよ、フェル。見ててね?」
大きなハンバーガーを持って、豪快にかぶりついた。柔らかいパン、ジューシーなお肉、瑞々しいトマトの調和が取れた味が口一杯に広がった。
「んーっ……! 美味しい!」
「ティナ、汚していますよ?動かないで」
「んむっ……」
豪快にかぶりついて口の周りを汚しちゃって、フェルがハンカチで拭いてくれた。ハリソンさん達が微笑ましそうに見てて、なんだか恥ずかしい。
ただ、フェルはかぶりつくのに抵抗があったみたいでハリソンさんがナイフとフォークを用意してくれた。
基本的に栄養スティックが主食なのはリーフ人も変わらない筈なんだけど、フェルの食べ方には品がある。作法なんて知らない筈なんだけど。
「地球の食事の作法をネットワークで調べて練習したんです」
「いつの間に!?」
「地球の料理を初めて口にしてから、調べてみたんです。やっぱり作法に則った方が良いかなって」
「素晴らしい心掛けだね、フェラルーシア嬢」
フェル、恐ろしい娘っ!
というか、相手への敬意を忘れない姿勢には感服するしかない。ちょっと凹んだのは秘密だ。
和やかに食事を済ませると、ハリソンさんが姿勢を正したので私達もそれに習う。真面目なお話をする時の雰囲気だ。
「さて、今回時間を頂いたのはティナ嬢達に依頼を出したいと思ってね」
「依頼、ですか?」
これまでみたいなお願いではなくて依頼。何だろう?
「実は宇宙空間に回収して欲しいものがあるんだ。我々では不可能に近くてね」
回収して欲しいもの?
……あっ!
「もしかして、ボイジャー一号二号の事ですか?」
「おや、知っていたのかね?」
ハリソンさんは驚いているけど、地球から遠く離れた探査機だ。ロマン溢れる存在で、前世でも好きな話のひとつだった。
「ティナ、ボイジャーって?」
「地球の探査機だよ。多分今も宇宙を漂っているんじゃないかな」
あれには地球の情報が記されている。そんなものがセンチネルに発見されたら、地球はおしまいだ。
「話が早くて助かるよ。あれの破壊或いは回収を正式に依頼したい。数十年前にエネルギーが尽きて反応が喪失して以来、我々も行方を掴めていないんだ。だが、あれがセンチネルに発見されたら大変なことになる」
「フェル、ボイジャーには地球の記録が記されているんだ」
私の簡単な解説に、フェルは信じられないような顔をした。
「どうしてそんな危険なことを?」
「我々が無知だったんだ。無邪気に外宇宙の存在とコンタクトを取ろうとしていたんだ。まさにロマンだよ。センチネルのような危険な存在が居るなんて知るよしもなかった」
「仕方ないですよ、まだ宇宙開発が始まった直後のお話ですから」
「ありがとう、ティナ嬢。依頼は受けて貰えるかな?もちろん報酬は望みのものを用意するよ」
「そんなものは要りませんよ、ハリソンさん。直ぐに回収してきますね」
最後の位置データは分かってるし、アリアにお願いして今何処にあるかある程度の予測を出して貰ってる。もちろん個人的に気になることだったしね。ただ、勝手に回収して良いのか迷ってたからハリソンさんからの依頼は渡りに船って奴だよ。
「しかし、君にお返しが出来ないのは心苦しい」
「気にしないでください。昨日みたいに観光をさせていただいているだけでも有り難いです」
正直次の観光地が今から楽しみで仕方がないんだよね。
「……わかった。次も期待して欲しい。質の向上で君の想いに答えようじゃないか」
「楽しみにしています!フェル、いくよ?」
「はい、ティナ」
「それじゃあ、直ぐに戻りますね!」
「気を付けて」
フェルが私の手を握り、ハリソンさん達に追われを告げて私達はプラネット号へ転移した。さあ、ロマンを探しに行こう!